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第32話 ピラミッドの守護者
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ダンジョンの中心部にピラミッドの守護者はいるらしい。
中心部へ辿り着くまでには沢山のトラップがあるのだが、これは既に先行した冒険者達が罠の解除を行っている。一部は未だに起動しているが、対処法は分かっている。ギルドから派遣されたダンジョン案内人がこれを解除してくれて、僕達はピラミッドの守護者がいる部屋の入口まで案内された。
守護者のいる部屋の様子を覗いてみる。見た感じ、一キロメートル四方の立方体という感じだ。その中心付近に何かが立っている
僕が、部屋を覗き込んでいると、ダンジョン案内人が説明をしてきた。
「内部の守護者になりますが、この守護者は、生前に生きたままこのダンジョンに自ら生贄として身を捧げたようです。そして、そのままダンジョンの守護者に選別されたようです」
「選別ということはどういう事でしょうか?」
「このダンジョンの守護部屋に、王家護衛を任務とした複数の戦士が集まり、中で殺し合いをしたようです。そして、最後に生き残った者がダンジョンの守護者として降臨している、という感じでしょうか。蟲毒というやつですね。
現在でも、守護者は生きているのか、あるいはモンスター化して意識が無くなっているのかは分かりません。おそらくですが、守護者の体内には魔核があります。この魔核を破壊すれば、この守護者を仕留めることができるでしょう」
「どういう戦い方をしてくるのでしょうか?」
「槍の使い手になります。現在までに分かっているのは、とにかく強い突きがあるという感じですね。高速で動きながら、物凄い突きの一撃、という感じでしょうか。魔力を纏った突きですので、射程距離はかなり長いです。三百メートルほどはあるらしいです。この突きを防御で防ぐことは出来ないでしょう。避けるしかありません」
「このダンジョンに入った人で、負けた人はどうなったのですか?」
「全員死亡ですね。生きて帰った人はいません。ただ、それでは誰もチャレンジする人がいなくなってしまうので、現在は負けそうになった場合は、ダンジョンの一部を破壊して、この部屋から脱出することが認められています。この部屋に入ると、結界が作動して、すぐには出られない仕様になっています。逃げるには、この結界を破壊する必要がありますが、かなり大変でしょう。相手もその間にこちらへ攻撃を仕掛けてきますので」
ダンジョン案内人は人事のように喋っている。そして続けた。
「どうされますか? ここで引き返しても問題はありませんよ。守護者の戦闘スタイルの説明とこの部屋の大きさを見て、帰る方は多いですね。守護者は広範囲魔法を使うことはないですが、何せ高速で移動するのと、突きが凄まじいです。狭い部屋で相手の射程圏が大きいので、多少の手練れではどうにもならないのが現状ですね」
僕はカルディさんに話し掛けた。
「カルディさん、もし、僕が戦闘で負けそうになったら、結界の破壊をファードスさんと一緒にお願いできますか?」
「ああ、もちろんだ。万が一の場合は私達で、外部から結界を破壊する。君は本当にやるのか? 私が持ち込んだ話ではあるが、ここで無理する必要はないよ」
「いえ、やります」
もし、この場で僕が勝てない程の相手ならば、ベゼルが警告をしてくるはずだ。が、ベゼルは何も話し掛けてこない。とするなら、僕に勝算はあるという事になる。
カルディさんは一度だけ頷いた。
僕は全員の顔を見た。
リーシャは不安そうな顔をしている。ビルドとセリサは無表情だ。ファードスさんもいつもの無表情だが、既に剣と盾を準備してくれている。もし、僕が負ける事があれば、直ぐに内部へ侵入するつもりなのだろう。
「じゃあ、行きます」
そう言って、ダンジョン案内人を見ると、彼は驚愕した表情をしている。
まさか、僕のような、ガタイが良くない奴がチャレンジするとは思っていなかったのだろう。
刀を鞘から抜きながら、守護者の部屋へ入ると、結界が作動するのが感じられた。
これでもうすぐには外へ出られない。
守護者は直立姿勢で立っている。右手には長い槍を持っており、槍も守護者と同じように垂直に立っている。槍の長さは五メートルといったところか。そして、守護者には見たこと無いような特殊な結界が張ってあった。もしかするとダンジョン案内人が言っていた通り、まだ生きているのかもしれない。
近づいていくと、守護者の閉じていた目が開き、赤い瞳が光り輝き始めた。同時に魔力を放出し始める。魔核から魔力を放出し始めたようだ。魔力の色は白っぽい。
白い色が何の魔法なのかは分からない。ただ、古代魔法の一種なのだろう。王家護衛に伝わる魔法とかかもしれない。
そんなことを考えている間も、守護者は魔力を放出し続ける。
僕も、同じように魔力を放出していく――。
守護者が十分に魔力を纏うと、相手の結界が解除された。
相手は一瞬にして、槍を構えた。同時に手元が高速で動くのが見える。
突きを放ってきた。
僕はそれを加速して躱す。話には聞いていたが――速い。
それに槍が伸びた。射程圏が三百メートルと聞いていたが、槍が伸びるようだ。
普通の者では、これすら分からないらしい。
ただ、当たったらかなりマズイと思った。おそらく体に穴が空くだろう。
絶対に一撃を貰う訳にはいかない。それに相手との距離がかなりある。まだ、二百メートル以上相手との距離がある。とりあえず、相手を中心として、円を描くような軌跡で走り始めた。
相手はこちらに目掛けて二発目の突きを放ってくる。
これをもう一度、ダッシュで躱す。わざとここでは全力では逃げなかった。
自分の最速をここで見せてしまうのは、相手に手の内を読まれる可能性がある。
ウィンドスラッシュを放っていく。相手がどうするかと思ったが、相手は逃げた。打ち消したりはしないらしい。相手の体は細くて、腕が長い。防御力自体は高くないのかもしれない――。
相手は速いが、僕も速い。
――僕と相手の移動速度が上がっていく――
暫く戦ってみたが、どうやら、素早さは僕の方が上のようだ。
細かく動きながら相手との距離を詰めていく。
それでも相手は僕との間合いを的確に取ってくるのを感じる。
しかし、時折、刀で槍を弾きながら、フェイントを入れつつ、僕は間合いを詰める。
この部屋はそれほど大きいわけじゃない。そう思って、相手を部屋の隅へ追い詰めていった。
そして〝いつもの〟作戦を実行することにする。
移動に失敗したフリをして、躓いてみせる。すると、迷わず相手は突きを放ってきた。
これを躱しながら、左手で鞘を掴み、相手に向かってぶん投げる。と、同時に、右手でウインドスラッシュを放った。
相手は鞘を槍で弾いたが、ウィンドスラッシュを回避することは出来なかった。
慌ててジャンプをしたようだが、相手の膝から下の二本の足を切り落とすことができた。
一気にダッシュして、相手に近づく。魔核を破壊すれば僕の勝ちだ。
と思った瞬間だった。
急に、相手が宙に浮かび上がると同時に、部屋の中央へ何かに吸い寄せられるように飛んで行った。どうしようかと思ったが、先に放り投げた鞘を回収することにする。
そして、相手を見る。
『この地の化身として、この場を死守する』
そう言うと、相手にダンジョンの一部から砂が集まっていく。砂が相手を渦状に覆って、回転し始めた。
しかも、何故か部屋の結界魔法が強化され、強く光り輝いていく。
どう見てもマズイ感じがするので、ウィンドウスラッシュを相手に向かって連発するが、全て砂に弾かれてしまっていた。
やがて、相手は全ての砂を飲み込んだ。そうしたことで相手の全貌を見ることができるようになった。
相手の足は再生している。しかも体が以前より大きくなっている。加えて、今度は筋肉がかなり付いている。おまけに武器は槍ではなく、黄金色の大剣になっていた。
嫌な感じがする。
先ほどのダンジョン案内人は槍の話しかしていなかった。仮に、過去に守護者のこの姿を見た者がいたなら、その話を聞かされたはずだ。ところがそうではない。多分、ここまで来たのは僕が初めてだろう。
しかし、ベゼルはまだ反応しない。もし、僕が勝てない程の相手なら、ここで警告を発するだろう。続きをやるしかない。
どうするのかと相手を見ていると、五メートルほどの大剣を自分の上で振り回し始めた。遠心力を付けているようだ。しばらくそれを振り回している。
次の瞬間だった。相手が物凄い踏み込みと共に、こちらへ飛び込んできた。
迷わず全力でその場から逃げる。相手が物凄い一撃を振り下ろした。
――ドカン――
物凄い音と共に周囲一帯が破壊された。槍の突きどころではない。破壊された地面の一部がこちらへ飛んできた。両手でガードするが、一部防ぎきれない。しかも、結界の一部が今の衝撃で壊れたようだ。が、一瞬で結界の破損部分は修復されていった。
おいおい――、と思う。これ、おそらく結界を破壊して逃げるのは不可能だろう。
地中の魔素をピラミッドが吸い上げて、この部屋の結界魔法を発動させているはずだ。カルディさん達が外から結界を壊してもすぐに再生するだろう。
なんとなく分かってきた。
要は、このピラミッドの守護構造は、最初は槍使いと見せかけて同じような中距離型の相手を呼び込み、いざ負けそうになったら、強力な結界を発動させ、侵入者もろとも閉じ込められ、接近戦の力業で押しつぶしに来るわけだ。部屋は狭い方がいい――。
となると、逃げることは無理と考えた方がいいか。
相手を倒すしかない。
相手はまた、大剣を空中で振り回し始めた。ベゼルがここで反応した。
『この体は腕の一本を切断された程度なら、接合はそれほど難しくない』
ベゼルからのアドバイスだ。まぁ、内容は〝そういうこと〟だ
やるしかないらしい。
相手は自らの上空でまた大剣を振り回している。
以前の羊の氷魔法を思い出して、空中に氷魔法を使って、氷の柱を三本出す。そして、それを相手に目掛けて、風魔法で飛ばした。
同時に、相手を中心に再び円を描くように移動しながら、ウィンドウスラッシュを放っていく。
相手の視線を見ているとこちらの動きに集中しているようだ。氷の柱やウインドウスラッシュが相手に直撃したが、相手は避けなかった。全ての攻撃を敵は体で受けている。ダメージがあったように見えたが、一瞬で砂が集まり傷を修復した。
倒すには魔核を壊すしかないらしい。
次の瞬間、相手は遠心力を加えた大剣ごとこちらへ飛び込んできた。ここで仕留めるつもりだろう。
ここで、僕は左手で鞘を掴んで相手に再び放り投げる。相手の態勢を崩すためだ。相手は一瞬で鞘の動きを確認したが、それを無視して大剣を振り下ろしてきた。鞘が相手の胴体に当たって弾き飛ばされ、相手の態勢が崩れる。しかし、それと同時に相手の剣が僕に迫る。
――左腕はここで捨てる――
ザクッという感覚ともに僕の左腕が切り落とされる。同時に僕の半身に物凄い力が掛かるので、両足で踏ん張る。
僕の足元の床が壊れていく。
ただ、僕の体は相当硬い。相手の剣も動きが鈍った。
相手もまさか僕の体がそこまで硬いとは思わなかったのだろう。そこを迷わず、残った右腕で刀の一閃を放った。
相手の首を切り落としていた。
そして、直ぐに相手の胸を目がけて二撃目を加える。胸の中心に刀を突き立てていた。
剣を突き立てた場所から大量に魔力が漏れ出し始めた。
『すぐに体を割いて魔核を喰え』
ベゼルに言われた通り、迷わず、胸を刀で捌いて魔核を見えるようにした。そして、その魔核に口を近づけると、僕の体内に魔核が吸収される。それと同時に、気づいたことがあったので、慌てて切断された左腕を傷口に近づけてみる。すると、自分の魔核が大きくなるのに合わせて、傷口同士が接合した。不思議な感触だった。
ただ、完璧には接合できていない感じか。左腕に力がうまく入らない。
相手の首を見た。こちらを見ている。そして魔力を使って喋って来た。
「我が使命を果たせないのは口惜しいが、こうして負けたならば致し方ない」
僕は相手に言葉を掛けることにした。
「今回の戦闘は、あなたが仕えた王家の子孫に当たる方のご依頼です。盗掘目的のための戦闘ではありません」
それを聞くと相手は薄く笑って目を閉じた。そして、見ていると相手の体の輪郭が徐々に崩れていく。最終的には砂になって消えていった。
すると、部屋の結界が解除されるのを感じた。
慌てて、ビルドがこちらへ向かって飛んできた。手には薬箱を持っている。
「大丈夫か? 腕だけじゃなくて、顔にも傷があるようだが」
言われて、額に手を当てると、血が流れた痕がある。相手の結界を壊す一撃の破片で傷を受けたか。
しかし、すでに出血は止まっているし、この体なら多分、直ぐに治るだろう。
ビルドに対して首を横に振った。
「大丈夫だよ。しばらくは休んだ方がいいだろうけど、後遺症になるようなケガはなさそうだ」
カルディさんやファードスさんもこちらへ来ている。
が、おかしい。
なんでリーシャが来ないんだ?
そう思って遠くを見ると、リーシャが倒れていた。
そして、それをセリサが介抱していた。
近づいて行って、話し掛けた。
「リーシャに何かあったの?」
「あんたの腕が切り落とされたのを見て、気を失ったのよ」
そう言って、セリサが呆れたような表情をしている。
リーシャを見る。
肌の色が青白くなって、血色が悪いのが一目で分かる。
まさか、戦っていない人が一番の重傷を負うとは思わなかった……。
しょうがないので、僕が抱きかかえて、ピラミッドを出ることになったのであった。
中心部へ辿り着くまでには沢山のトラップがあるのだが、これは既に先行した冒険者達が罠の解除を行っている。一部は未だに起動しているが、対処法は分かっている。ギルドから派遣されたダンジョン案内人がこれを解除してくれて、僕達はピラミッドの守護者がいる部屋の入口まで案内された。
守護者のいる部屋の様子を覗いてみる。見た感じ、一キロメートル四方の立方体という感じだ。その中心付近に何かが立っている
僕が、部屋を覗き込んでいると、ダンジョン案内人が説明をしてきた。
「内部の守護者になりますが、この守護者は、生前に生きたままこのダンジョンに自ら生贄として身を捧げたようです。そして、そのままダンジョンの守護者に選別されたようです」
「選別ということはどういう事でしょうか?」
「このダンジョンの守護部屋に、王家護衛を任務とした複数の戦士が集まり、中で殺し合いをしたようです。そして、最後に生き残った者がダンジョンの守護者として降臨している、という感じでしょうか。蟲毒というやつですね。
現在でも、守護者は生きているのか、あるいはモンスター化して意識が無くなっているのかは分かりません。おそらくですが、守護者の体内には魔核があります。この魔核を破壊すれば、この守護者を仕留めることができるでしょう」
「どういう戦い方をしてくるのでしょうか?」
「槍の使い手になります。現在までに分かっているのは、とにかく強い突きがあるという感じですね。高速で動きながら、物凄い突きの一撃、という感じでしょうか。魔力を纏った突きですので、射程距離はかなり長いです。三百メートルほどはあるらしいです。この突きを防御で防ぐことは出来ないでしょう。避けるしかありません」
「このダンジョンに入った人で、負けた人はどうなったのですか?」
「全員死亡ですね。生きて帰った人はいません。ただ、それでは誰もチャレンジする人がいなくなってしまうので、現在は負けそうになった場合は、ダンジョンの一部を破壊して、この部屋から脱出することが認められています。この部屋に入ると、結界が作動して、すぐには出られない仕様になっています。逃げるには、この結界を破壊する必要がありますが、かなり大変でしょう。相手もその間にこちらへ攻撃を仕掛けてきますので」
ダンジョン案内人は人事のように喋っている。そして続けた。
「どうされますか? ここで引き返しても問題はありませんよ。守護者の戦闘スタイルの説明とこの部屋の大きさを見て、帰る方は多いですね。守護者は広範囲魔法を使うことはないですが、何せ高速で移動するのと、突きが凄まじいです。狭い部屋で相手の射程圏が大きいので、多少の手練れではどうにもならないのが現状ですね」
僕はカルディさんに話し掛けた。
「カルディさん、もし、僕が戦闘で負けそうになったら、結界の破壊をファードスさんと一緒にお願いできますか?」
「ああ、もちろんだ。万が一の場合は私達で、外部から結界を破壊する。君は本当にやるのか? 私が持ち込んだ話ではあるが、ここで無理する必要はないよ」
「いえ、やります」
もし、この場で僕が勝てない程の相手ならば、ベゼルが警告をしてくるはずだ。が、ベゼルは何も話し掛けてこない。とするなら、僕に勝算はあるという事になる。
カルディさんは一度だけ頷いた。
僕は全員の顔を見た。
リーシャは不安そうな顔をしている。ビルドとセリサは無表情だ。ファードスさんもいつもの無表情だが、既に剣と盾を準備してくれている。もし、僕が負ける事があれば、直ぐに内部へ侵入するつもりなのだろう。
「じゃあ、行きます」
そう言って、ダンジョン案内人を見ると、彼は驚愕した表情をしている。
まさか、僕のような、ガタイが良くない奴がチャレンジするとは思っていなかったのだろう。
刀を鞘から抜きながら、守護者の部屋へ入ると、結界が作動するのが感じられた。
これでもうすぐには外へ出られない。
守護者は直立姿勢で立っている。右手には長い槍を持っており、槍も守護者と同じように垂直に立っている。槍の長さは五メートルといったところか。そして、守護者には見たこと無いような特殊な結界が張ってあった。もしかするとダンジョン案内人が言っていた通り、まだ生きているのかもしれない。
近づいていくと、守護者の閉じていた目が開き、赤い瞳が光り輝き始めた。同時に魔力を放出し始める。魔核から魔力を放出し始めたようだ。魔力の色は白っぽい。
白い色が何の魔法なのかは分からない。ただ、古代魔法の一種なのだろう。王家護衛に伝わる魔法とかかもしれない。
そんなことを考えている間も、守護者は魔力を放出し続ける。
僕も、同じように魔力を放出していく――。
守護者が十分に魔力を纏うと、相手の結界が解除された。
相手は一瞬にして、槍を構えた。同時に手元が高速で動くのが見える。
突きを放ってきた。
僕はそれを加速して躱す。話には聞いていたが――速い。
それに槍が伸びた。射程圏が三百メートルと聞いていたが、槍が伸びるようだ。
普通の者では、これすら分からないらしい。
ただ、当たったらかなりマズイと思った。おそらく体に穴が空くだろう。
絶対に一撃を貰う訳にはいかない。それに相手との距離がかなりある。まだ、二百メートル以上相手との距離がある。とりあえず、相手を中心として、円を描くような軌跡で走り始めた。
相手はこちらに目掛けて二発目の突きを放ってくる。
これをもう一度、ダッシュで躱す。わざとここでは全力では逃げなかった。
自分の最速をここで見せてしまうのは、相手に手の内を読まれる可能性がある。
ウィンドスラッシュを放っていく。相手がどうするかと思ったが、相手は逃げた。打ち消したりはしないらしい。相手の体は細くて、腕が長い。防御力自体は高くないのかもしれない――。
相手は速いが、僕も速い。
――僕と相手の移動速度が上がっていく――
暫く戦ってみたが、どうやら、素早さは僕の方が上のようだ。
細かく動きながら相手との距離を詰めていく。
それでも相手は僕との間合いを的確に取ってくるのを感じる。
しかし、時折、刀で槍を弾きながら、フェイントを入れつつ、僕は間合いを詰める。
この部屋はそれほど大きいわけじゃない。そう思って、相手を部屋の隅へ追い詰めていった。
そして〝いつもの〟作戦を実行することにする。
移動に失敗したフリをして、躓いてみせる。すると、迷わず相手は突きを放ってきた。
これを躱しながら、左手で鞘を掴み、相手に向かってぶん投げる。と、同時に、右手でウインドスラッシュを放った。
相手は鞘を槍で弾いたが、ウィンドスラッシュを回避することは出来なかった。
慌ててジャンプをしたようだが、相手の膝から下の二本の足を切り落とすことができた。
一気にダッシュして、相手に近づく。魔核を破壊すれば僕の勝ちだ。
と思った瞬間だった。
急に、相手が宙に浮かび上がると同時に、部屋の中央へ何かに吸い寄せられるように飛んで行った。どうしようかと思ったが、先に放り投げた鞘を回収することにする。
そして、相手を見る。
『この地の化身として、この場を死守する』
そう言うと、相手にダンジョンの一部から砂が集まっていく。砂が相手を渦状に覆って、回転し始めた。
しかも、何故か部屋の結界魔法が強化され、強く光り輝いていく。
どう見てもマズイ感じがするので、ウィンドウスラッシュを相手に向かって連発するが、全て砂に弾かれてしまっていた。
やがて、相手は全ての砂を飲み込んだ。そうしたことで相手の全貌を見ることができるようになった。
相手の足は再生している。しかも体が以前より大きくなっている。加えて、今度は筋肉がかなり付いている。おまけに武器は槍ではなく、黄金色の大剣になっていた。
嫌な感じがする。
先ほどのダンジョン案内人は槍の話しかしていなかった。仮に、過去に守護者のこの姿を見た者がいたなら、その話を聞かされたはずだ。ところがそうではない。多分、ここまで来たのは僕が初めてだろう。
しかし、ベゼルはまだ反応しない。もし、僕が勝てない程の相手なら、ここで警告を発するだろう。続きをやるしかない。
どうするのかと相手を見ていると、五メートルほどの大剣を自分の上で振り回し始めた。遠心力を付けているようだ。しばらくそれを振り回している。
次の瞬間だった。相手が物凄い踏み込みと共に、こちらへ飛び込んできた。
迷わず全力でその場から逃げる。相手が物凄い一撃を振り下ろした。
――ドカン――
物凄い音と共に周囲一帯が破壊された。槍の突きどころではない。破壊された地面の一部がこちらへ飛んできた。両手でガードするが、一部防ぎきれない。しかも、結界の一部が今の衝撃で壊れたようだ。が、一瞬で結界の破損部分は修復されていった。
おいおい――、と思う。これ、おそらく結界を破壊して逃げるのは不可能だろう。
地中の魔素をピラミッドが吸い上げて、この部屋の結界魔法を発動させているはずだ。カルディさん達が外から結界を壊してもすぐに再生するだろう。
なんとなく分かってきた。
要は、このピラミッドの守護構造は、最初は槍使いと見せかけて同じような中距離型の相手を呼び込み、いざ負けそうになったら、強力な結界を発動させ、侵入者もろとも閉じ込められ、接近戦の力業で押しつぶしに来るわけだ。部屋は狭い方がいい――。
となると、逃げることは無理と考えた方がいいか。
相手を倒すしかない。
相手はまた、大剣を空中で振り回し始めた。ベゼルがここで反応した。
『この体は腕の一本を切断された程度なら、接合はそれほど難しくない』
ベゼルからのアドバイスだ。まぁ、内容は〝そういうこと〟だ
やるしかないらしい。
相手は自らの上空でまた大剣を振り回している。
以前の羊の氷魔法を思い出して、空中に氷魔法を使って、氷の柱を三本出す。そして、それを相手に目掛けて、風魔法で飛ばした。
同時に、相手を中心に再び円を描くように移動しながら、ウィンドウスラッシュを放っていく。
相手の視線を見ているとこちらの動きに集中しているようだ。氷の柱やウインドウスラッシュが相手に直撃したが、相手は避けなかった。全ての攻撃を敵は体で受けている。ダメージがあったように見えたが、一瞬で砂が集まり傷を修復した。
倒すには魔核を壊すしかないらしい。
次の瞬間、相手は遠心力を加えた大剣ごとこちらへ飛び込んできた。ここで仕留めるつもりだろう。
ここで、僕は左手で鞘を掴んで相手に再び放り投げる。相手の態勢を崩すためだ。相手は一瞬で鞘の動きを確認したが、それを無視して大剣を振り下ろしてきた。鞘が相手の胴体に当たって弾き飛ばされ、相手の態勢が崩れる。しかし、それと同時に相手の剣が僕に迫る。
――左腕はここで捨てる――
ザクッという感覚ともに僕の左腕が切り落とされる。同時に僕の半身に物凄い力が掛かるので、両足で踏ん張る。
僕の足元の床が壊れていく。
ただ、僕の体は相当硬い。相手の剣も動きが鈍った。
相手もまさか僕の体がそこまで硬いとは思わなかったのだろう。そこを迷わず、残った右腕で刀の一閃を放った。
相手の首を切り落としていた。
そして、直ぐに相手の胸を目がけて二撃目を加える。胸の中心に刀を突き立てていた。
剣を突き立てた場所から大量に魔力が漏れ出し始めた。
『すぐに体を割いて魔核を喰え』
ベゼルに言われた通り、迷わず、胸を刀で捌いて魔核を見えるようにした。そして、その魔核に口を近づけると、僕の体内に魔核が吸収される。それと同時に、気づいたことがあったので、慌てて切断された左腕を傷口に近づけてみる。すると、自分の魔核が大きくなるのに合わせて、傷口同士が接合した。不思議な感触だった。
ただ、完璧には接合できていない感じか。左腕に力がうまく入らない。
相手の首を見た。こちらを見ている。そして魔力を使って喋って来た。
「我が使命を果たせないのは口惜しいが、こうして負けたならば致し方ない」
僕は相手に言葉を掛けることにした。
「今回の戦闘は、あなたが仕えた王家の子孫に当たる方のご依頼です。盗掘目的のための戦闘ではありません」
それを聞くと相手は薄く笑って目を閉じた。そして、見ていると相手の体の輪郭が徐々に崩れていく。最終的には砂になって消えていった。
すると、部屋の結界が解除されるのを感じた。
慌てて、ビルドがこちらへ向かって飛んできた。手には薬箱を持っている。
「大丈夫か? 腕だけじゃなくて、顔にも傷があるようだが」
言われて、額に手を当てると、血が流れた痕がある。相手の結界を壊す一撃の破片で傷を受けたか。
しかし、すでに出血は止まっているし、この体なら多分、直ぐに治るだろう。
ビルドに対して首を横に振った。
「大丈夫だよ。しばらくは休んだ方がいいだろうけど、後遺症になるようなケガはなさそうだ」
カルディさんやファードスさんもこちらへ来ている。
が、おかしい。
なんでリーシャが来ないんだ?
そう思って遠くを見ると、リーシャが倒れていた。
そして、それをセリサが介抱していた。
近づいて行って、話し掛けた。
「リーシャに何かあったの?」
「あんたの腕が切り落とされたのを見て、気を失ったのよ」
そう言って、セリサが呆れたような表情をしている。
リーシャを見る。
肌の色が青白くなって、血色が悪いのが一目で分かる。
まさか、戦っていない人が一番の重傷を負うとは思わなかった……。
しょうがないので、僕が抱きかかえて、ピラミッドを出ることになったのであった。
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