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第31話 ピラミッドを観光する

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 今日は皆でピラミッドに行ってみることになった。
 ピラミッドへは、大型の観光バスで行くことになるらしい。

 「なんだこれ?」

 観光バスを見て思わず、そんな言葉が出る。

 この観光バスは、まずその大きさが凄い。横幅が二十メートル、長さが五十メートルといった感じのバスだ。二百人は乗れるだろう。しかも、バスの足にはカニの足とヒレが付いていた。水陸両用らしくて、陸地を進むときはカニの足で、また砂漠の海を泳ぐときはヒレがを動かして進むらしい。

 皆で座席に座って、バスの大きな窓から外を眺めていく。一面砂漠の海が見える。
 現在バスは、ヒレを使って、砂漠の海を泳いでいく。観光客達は皆、窓から外の様子を写真撮影していた。

 この世界にもカメラのような魔道具があるようだ。水晶体というアイテムらしくて、掌サイズの丸い水晶を掲げて、それに魔力を流すと水晶体の中に画像データが保存されるみたいだ。後はそれを家に持って帰り、紙に複写すれば写真の完成だ。
 また水晶体によっては動画・音声を長時間記録できるものもあるらしい。

 皆で、ボーっと窓を見ている時だった。砂漠の海の一部が急に盛り上がって来た。

 物凄い勢いで砂漠の海が上空へ伸びていく。が、その伸びていった〝物〟に纏わり付いていた砂は、重力によって当然落下していく。そして、そこから現れたのは巨大な蛇、いや、サウンドリバイアサンだった。

 巨大だ。とにかく大きい。現在ここから見えるのは、蛇の頭部だけだが、本体の長さは数キロメートルくらいあってもおかしくない気がする。頭は、何かの古代ローマ彫刻を思わせるほどに荘厳にして華麗な造形だった。 龍という生き物を、僕はこの世界でまだ見たことがないが、龍もあのような形をしているのかもしれない。

 サウンドリバイアサンの表面は鱗で覆われているようだが、その色は淡い青色という感じか。ブルーサファイアのような鮮やかな色が美しい。サウンドリバイアサンには、魚のヒレのようなものが体に沿って長く付いていて、それが、体を捻る度に、その本体に合わせて蠢いていく。何とも言えない優雅さだ。

「わぁ、凄いですね!!」

 リーシャも楽しそうだ。僕の服を掴んでいる。

「うん、これは凄い。見れてよかったね」

 周囲の観光客達も歓声を上げながら、龍を撮影している。僕達のパーティではセリサがその写真を撮影している。
 僕達の旅は危険が伴う。だから、これまでは荷物を増やさないにしてきた。それぞれの街を訪れても記念品も買わずにここまできた。が、まぁ、最悪荷物は捨ててもいいから、ここで写真くらいは撮っておこう、という話に落ち着いて、現在は写真を撮影することになった。セリサは羽翼種の島にいる時、自分でバッグを買った際、一枚一枚写真に収めていくらしい。だから、写真撮影の腕には自信があるということだった。

 しばらくして、サウンドリバイアサンは地面に潜ってしまった。
 観光バスの車内説明では、今のリバイアサンは生後一万年程度の個体らしい。ただ、この砂漠の海には、もっと長く生きている個体があるとのことだった。今の個体でも相当大きかったが、あれより大きい生き物がいるとは驚きだ。

 三時間ほど観光バスが走り続けると、今度はピラミッドが見えてきた。
 ピラミッドもまたデカい。見える限りだとここからでは五つのピラミッドが見えるが、ただ、その一つ一つの大きさは、地球上のピラミッドの数倍近くある気がする。

 ここで、僕が今回当たる任務について触れておきたい。

 過去の王家がピラミッドを建てた理由は、もちろん〝王家の墓地〟としての役割だ。加えて、王家が死後の世界でも繁栄することを願って〝装飾品や魔道具等の財宝〟が一緒に埋葬される。
 現在のファーラーン国は、発見されたピラミッド内部の探索、及び王家の財宝の発掘を、国家戦略の一つに掲げているようだ。そこで、僕のようなピラミッドの守護者を倒せる者を探しているとのことだ。

 ピラミッドは百個近くあるらしいが、そのうちのいくつかは過去に盗掘にあって、既に何も無いケース。また、ピラミッドが新規に発見されても、あまりに年月が経ち過ぎていて、内部の守護者が魔素で強化され、強くなり過ぎて侵入すら出来ないピラミッドもあるらしい。つまり、内部の調査をしようとするなら、ピラミッドが発見され次第、直ぐにピラミッド守護者を倒した方がいいという事になる。

 僕が今回ギルドで依頼を受けたピラミッドは、四百年前に新規で発見されたピラミッドだが、その守護者は、四百年間、誰も倒せなかったらしい。
 で、僕が今回それにチャレンジしてみるわけだ。

 守護者のいる場所へ行く前に、皆でピラミッド内部を案内してもらい、観光することになった。
 ピラミッド内部を見て驚いてしまった。

「凄いですね。ピラミッドの中なのに、まるで屋外の畑のようです」

 リーシャの言う通りだった。ピラミッド中には沢山の木や植物が植えられていた。そして、見たことも無いような果物が実っていた。
 羽翼種の島のダンジョンと同じように、ピラミッドの天井は明るく輝いている。何かの鉱石が魔素の影響を受けて光っているのだろう。それが太陽の代わりか。

 リーシャが、やたらと植えられている植物に興味を持っているようなので質問してみた。

「リーシャはああいうのに興味があるの?」

「はい。私は羽翼種の島にいた時も、様々な植物を植えていました。私の家は父と母が早くに亡くなってしまったので、私とおばちゃんで生計を立てなければいけませんでした。たまたま家にあった土地が広かったので、そこで植物を栽培して、生計を立てていた感じですね」

「もしかして、下界にキノコを採りに行っていたのってそれもあるの?」

「はい。それもあります。下界の植物と羽翼種の島では、それぞれに無い植物もあります。下界で食用できる植物を見つけて、それを羽翼種の島に持ち帰り、それを栽培して増やして街で売ったりもしていました」

「それってかなり危険じゃないの? 羽翼種の島の女性が下界へ下りるのは」

「はい。危険でしたね。ただ、そうでもしないと生活が出来ない面もあったので……」

「えっ……、じゃあ、今お婆ちゃんはどうやって生活をしているの?」

「あ、それは大丈夫ですよ。マサキさんがダンジョンでドロップした物を皆で分けてくれたおかげで、かなりの金額になりました。私が仮にあの島に帰ることができなくても、きっとお婆ちゃんは困らないと思います。あと、一応、今回の任務は羽翼種の島にとってもメリットがあるので、私たちの家族にはそれなりの優遇措置が取られるそうです。羽翼種の国は国家のための活動をする際には国が資金的な意味だけでなく、当事者をバックアップしてもらえる制度があります。お婆ちゃんが病気になったとしても国が面倒をみてくれると思います」

 そういって、リーシャは僕に頭を下げた。
 多分、リーシャは学校で勉強についていくのも大変だったはずだ。そういう意味で僕が彼女に勉強を教えていたのは、彼女にとっていい面もあるのだろう。

 リーシャ達とドロップアイテムを分けた時に、皆からお礼を言われたが、別にそこまで大したことをしたつもりは無かったので聞き流していたが、僕のやったことはリーシャにとってはとても意味があることだったのかもしれない。そういう点では、ダンジョン探索にそれなりの時間を掛けたのは良かったと思う。
 ただ、そうなってくると、リーシャを人族の国へ連れて行った後、なんとか無事に羽翼種の島へ今度は送り届けたいと思う。リーシャは人族の国に滞在するつもりかもしれないが――。

 ビルドが話し掛けてきた。

「おい、なんかここにある果物は食べ放題らしいぞ。食いまくろうぜ!」

 それを聞いて、セリサが早速、木になっている果物を掴んでいる。ブドウのような濃い紫色で小さいミカンのような大きさの果実をもぎ取って食べた。見ていると、口の周りが紫に色になり、果実の汁が口元に垂れている……。
 ビルドも同じように、その果実をかじっている。すると、同じ様に口の周りが汚くなっていく。

「ああ、これ美味いぞ。お前らも、食ってみろよ」

 そう言われて、その果実を二つほどもぎ取って、一つをリーシャに渡してやり、僕も食べる。口元を汚くしたくないので、少しずつ齧ることにした。

 触感は柔らかい。それに、この味は……。

 リーシャも上品に食べている。口元は汚れていない。

「初めて食べた味ですが、甘くて美味しいですね。」

 カルディさん達も美味しそうに実を食べていた。
 僕にはこれが何か分かる。〝ブドウ〟だ。しかし、地球上の物に比べて味がやや薄く食べやすい。しかもリンゴ状なので、どちらかというとブドウのゼリーを食べているような感じだ。美味い。
 セリサは一つを食べ終えて、また、木からブドウ味の実をもぎ取ろうとしている。が、手が届かない。見ていると、セリサの胸がたゆんでいる。ジッとその様子を見ていたが、視線を感じる。横を見ると、リーシャだった……。
 
 僕は二つ目のブドウの実を食べていて気づいたが、内部に種があった。

「リーシャ、僕が食べたこの実だけど、種子があるよ。羽翼種の島に持って帰れば木が生えるかもね」

 そう言って、リーシャに種を見せる。リーシャは興味深そうにそれを布に包んだ。持って帰るようだ。

 この後も様々な果物を食べていった。ただ、一番面白かったのは、リスキーフルーツという果物だった。名前の通りで食べてみるまで何の味か分からないという黒ひげ危機一髪だ。食べてみると、スイカやメロンと云った美味しい味に当たることもあるが、外れた時はワサビに、納豆、ハバネロと云った感じだ。

 ビルドがドンピシャでハズレを引いてくれたので、僕としては清々しい気持ちになることができたのだった。
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