予知姫と年下婚約者

チャーコ

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番外編 Side:虹川夢乃

3 絵

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「日高くん、和英辞典、貸してあげる」
「おう、サンキュ。……何で俺が持っていないの、知っているんだ?」
「夢占い」

 全部「夢占い」で誤魔化す。また彼を見つめる。女の子みたいな整った顔。色白なのに、頬だけ綺麗に色づいている。
 次の日は、お弁当を作って持って行ってあげた。

「お弁当作ったの。良かったら、食べて」
「……だからどうして虹川は、俺がお弁当忘れたの、わかるんだ?」
「ゆ・め占い」

 今日も日高くんを見る。不思議な色の瞳。見ていて飽きない。
 それからずっと、彼を見続け「厄災」から避ける予知夢を視た。そして、それをフォローする処置を取り続けた。
 いつの間にか『日高厄』の二つ名は、なくなっていた。
 その代わり、私と日高くんが付き合っていると噂が流れた。

「なあ、虹川」
「何かしら?」
「俺とお前が付き合っているっていう噂、知っているだろ。何で俺に構うんだ?」

 日高くんは首を傾げて尋ねてきた。

「何で、かしらね……。何だか日高くんのこと、放っておけなくて」
「物好きな奴だな。それとも、あれか? 男避けか?」
「男避け……」

 確かに最近、告白されることがなくなった。日高くんとの噂のおかげだ。思ってもみなかった、周囲の反応だ。

「そんなこと、考えてもみなかったんだけど……」
「俺も大概、お前に利用されているな」

 利用する気持ちなんてなかった。ただ私は、以前から何となく日高くんが気になって……。あれ?

「あれ?」
「今度は、何だよ?」

 不審そうに見返された。

 ♦ ♦ ♦

 それからも、ずっと私は日高くんのことを見つめ続けた。
 ある日の放課後、ふいっと、日高くんは荷物を持たずに教室から出ていった。
 荷物を忘れたのだろうか。私は彼の荷物を持って、慌てて追いかけた。以前、私が偏頭痛を起こした廊下を通る。
 追いついたのは、美術準備室。日高くんは鍵を開けて、中へ入っていった。
 彼は美術準備室に何の用事があるのだろう……。私は隙間から覗き込んだ。

「……!」

 日高くんは油絵を描く準備をしていた。黒い汚れたエプロンをしている。イーゼルにのせられたキャンバス。描きかけだけれど、髪の長い女性の絵。見間違いようもない……私の、絵だ。
 動揺して荷物を一つ、落としてしまった。

「誰だ?」

 物音に、日高くんが振り向いた。私を見て硬直した。

「に、虹川……。何で、ここに……」

 彼も驚いているらしい。大きなキャンバスを、華奢な身体で隠そうとしている。

「……日高くんが、荷物忘れたかと思って……。その絵、私?」

 日高くんは、がっくりと項垂れた。隠すのをやめたらしい。

「どうして、私の絵を……?」

 素人目にもすごく上手だ。太陽の下で私が笑っている絵。光に当たっている私の絵は、陰影がはっきりしていて、とても立体的だ。そして──私が、すごく美人に描かれていた。

「……お前、が」

 日高くんが、ぼそりと言った。

「お前が、虹川が、何となく……描きたくなったんだよ。お前がいつも俺のこと見てくるから、つい、俺だって見て……。ああっ! 俺は、何を言って……!」

 彼は手で顔を覆ってしまった。私は何回も、日高くんと絵を見比べた。ビスクドールのような白い頬が真っ赤だ。
 私達は、しばらく黙り込んだ。

「……私、こんなに、綺麗じゃないわよ……」

 私の絵に見えるけれど、美人すぎる。こんなに綺麗ではない。日高くんは顔を覆っていた手を外した。

「……俺には、こう見えるんだ。お前は、割と綺麗だと、思う……」

 私まで赤面した。それから、彼の絵のモデルになることになった。

 ♦ ♦ ♦

「どうして美術部に入らないで、美術準備室で絵を描いているの?」

 私の疑問に、色を塗り重ねていた日高くんは眉をひそめた。

「入部させてもらえなかったんだよ。『日高厄』はお断りって顔に書いてあった」
「失礼な話ね」

 絵が描きたかった彼は、美術教師に掛け合って、美術準備室の使用許可を取ったらしい。絵は独学だと言っていた。
 私はただ、窓辺に座っていた。モデルというより、話し相手のような感じだ。却って邪魔だろうか。

「美大とかに行くの?」
「行きたいけど、独学じゃ無理。このまま美苑の大学入る」
「じゃあ、一緒ね」

 日高くんといられると思うと、何だか嬉しい。私が笑顔を向けると、彼は何故かそっぽを向いた。

「同じ大学行くからって、学部違うと会わないだろ……」
「そっか……」

 その言葉に落ち込む。
 ──あれ、何で私、日高くんの言うことに一喜一憂しているの?
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