98 / 124
番外編 Side:虹川夢乃
最終話 恋心
しおりを挟む
日高くんの油絵が完成した。
「ここで自分が気に入ったから終わり。じゃないと、いつまでもこれに拘っちゃうからな」
第一印象は、上手。次の印象は、私はこんなに綺麗じゃない。
太陽の光の下で、長い髪の少女が楽しげに笑っている。日高くんから見た、私。
「その絵、どうするの?」
「家に持って帰って、自分の部屋に飾る。今までで一番上手く描けた気がする。モデルやってくれて、ありがとな」
日高くんは、さくらんぼ色の唇を吊り上げて笑った。私の絵が彼の部屋に飾られるなんて……何だか、恥ずかしい。
「ねえ、その絵……私にくれない?」
「どうしてだよ?」
「だって、私の絵なんて……そんな、日高くんの部屋に飾ることないと思うの」
日高くんは考え込んだ。
「あげてもいいんだけど……。でも、やっぱり俺がもらう。俺が描いた絵だし。何より、虹川の絵だし……。あ」
彼は口を押さえた。
「私の絵だし……?」
「忘れろ! 失言だ! とにかくこの絵は、俺の物」
顔を真っ赤にして、日高くんは言い放った。
「でも……もし、またお前がモデルしてくれるなら……。その絵はお前にやる」
呟くように付け足した。私は笑顔になった。
「じゃあ、また私を描いて? それで、私の絵を頂戴」
「うん……」
私は日高くんのモデルを続けることになった。
放課後、毎日一緒に美術準備室。おしゃべりをしながら彼は描き続ける。
「虹川って不思議だよな」
今度は、普通に私が窓辺に座っている絵。
「『日高厄』に平気で近寄ってくるし、世話を焼くし。……後、何故だか、お前を描きたい気分になる」
「『日高楽』くんでしょ。私も何だか、日高くんのことが気になるの。絵に描いてもらって嬉しいわ」
絵が完成するまで、二人きりで話をした。
私はいつの間にか『楽くん』と呼び、彼は私のことを『夢乃』と呼ぶようになった。
完成した絵は約束通り、私にくれた。私に見えるけれど、もっと綺麗な、楽くんから見た私。
「ありがとう、楽くん。こんなに綺麗に描いてくれて……。一生大事にするわね」
私はお礼を言って絵をもらった。自室に飾って、毎日楽しんだ。
モデルが終わっても、私は美術準備室に入り浸った。楽くんと同じ空間にいるのは居心地がいい。
やがて高等部の卒業が間近となった。私と楽くんは行く学部が違う。これまでのように身近にはいられない。
私が悲しんでいると、楽くんは一枚の鉛筆画を差し出した。
「……夢乃に、やる」
見事な鉛筆画。私と楽くんが、楽しそうにおしゃべりしている絵。
「ずっとこんな風に、楽くんといたかったわ……」
「じゃあ、ずっと、こんな風に過ごすか? 夢乃」
私は鉛筆画から顔を上げた。
ビスクドールのような色白の頬が、朱色に染まっている。
「どういう、意味……?」
「そのままの、意味。俺は、夢乃と一緒に過ごしたい。夢乃は?」
ようやっと、私は恋心を自覚した。
「……私も、楽くんと一緒に過ごしたい。いつまでも。──好きよ」
不思議な虹彩の瞳を見つめて言った。彼は、私の手を握った。油絵具を洗い落しているせいか、少し荒れた手。
「俺も好きだ、夢乃。いつまでも、一緒にいような」
噂ではなく本当に付き合うことになった。今日も楽くんに「夢占い」をしてあげる。
「楽くん。試しに油絵をコンクールに出してみたら? いい線行くと思うわ」
「また、夢占いか?」
「そうよ、当たるわよ。出してみてね」
彼は入賞するはずだ。予知夢では喜んでいた。
「じゃあ、夢乃の絵を出そう。自信作だ」
私達は美術準備室で、笑い合った。
「ここで自分が気に入ったから終わり。じゃないと、いつまでもこれに拘っちゃうからな」
第一印象は、上手。次の印象は、私はこんなに綺麗じゃない。
太陽の光の下で、長い髪の少女が楽しげに笑っている。日高くんから見た、私。
「その絵、どうするの?」
「家に持って帰って、自分の部屋に飾る。今までで一番上手く描けた気がする。モデルやってくれて、ありがとな」
日高くんは、さくらんぼ色の唇を吊り上げて笑った。私の絵が彼の部屋に飾られるなんて……何だか、恥ずかしい。
「ねえ、その絵……私にくれない?」
「どうしてだよ?」
「だって、私の絵なんて……そんな、日高くんの部屋に飾ることないと思うの」
日高くんは考え込んだ。
「あげてもいいんだけど……。でも、やっぱり俺がもらう。俺が描いた絵だし。何より、虹川の絵だし……。あ」
彼は口を押さえた。
「私の絵だし……?」
「忘れろ! 失言だ! とにかくこの絵は、俺の物」
顔を真っ赤にして、日高くんは言い放った。
「でも……もし、またお前がモデルしてくれるなら……。その絵はお前にやる」
呟くように付け足した。私は笑顔になった。
「じゃあ、また私を描いて? それで、私の絵を頂戴」
「うん……」
私は日高くんのモデルを続けることになった。
放課後、毎日一緒に美術準備室。おしゃべりをしながら彼は描き続ける。
「虹川って不思議だよな」
今度は、普通に私が窓辺に座っている絵。
「『日高厄』に平気で近寄ってくるし、世話を焼くし。……後、何故だか、お前を描きたい気分になる」
「『日高楽』くんでしょ。私も何だか、日高くんのことが気になるの。絵に描いてもらって嬉しいわ」
絵が完成するまで、二人きりで話をした。
私はいつの間にか『楽くん』と呼び、彼は私のことを『夢乃』と呼ぶようになった。
完成した絵は約束通り、私にくれた。私に見えるけれど、もっと綺麗な、楽くんから見た私。
「ありがとう、楽くん。こんなに綺麗に描いてくれて……。一生大事にするわね」
私はお礼を言って絵をもらった。自室に飾って、毎日楽しんだ。
モデルが終わっても、私は美術準備室に入り浸った。楽くんと同じ空間にいるのは居心地がいい。
やがて高等部の卒業が間近となった。私と楽くんは行く学部が違う。これまでのように身近にはいられない。
私が悲しんでいると、楽くんは一枚の鉛筆画を差し出した。
「……夢乃に、やる」
見事な鉛筆画。私と楽くんが、楽しそうにおしゃべりしている絵。
「ずっとこんな風に、楽くんといたかったわ……」
「じゃあ、ずっと、こんな風に過ごすか? 夢乃」
私は鉛筆画から顔を上げた。
ビスクドールのような色白の頬が、朱色に染まっている。
「どういう、意味……?」
「そのままの、意味。俺は、夢乃と一緒に過ごしたい。夢乃は?」
ようやっと、私は恋心を自覚した。
「……私も、楽くんと一緒に過ごしたい。いつまでも。──好きよ」
不思議な虹彩の瞳を見つめて言った。彼は、私の手を握った。油絵具を洗い落しているせいか、少し荒れた手。
「俺も好きだ、夢乃。いつまでも、一緒にいような」
噂ではなく本当に付き合うことになった。今日も楽くんに「夢占い」をしてあげる。
「楽くん。試しに油絵をコンクールに出してみたら? いい線行くと思うわ」
「また、夢占いか?」
「そうよ、当たるわよ。出してみてね」
彼は入賞するはずだ。予知夢では喜んでいた。
「じゃあ、夢乃の絵を出そう。自信作だ」
私達は美術準備室で、笑い合った。
0
あなたにおすすめの小説
丘の上の王様とお妃様
よしき
恋愛
木崎珠子(35才)は、大学を卒業後、帝国財閥の子会社に勤めていた、ごくごく平凡なOLだった。しかし、同じ職場の彼に二股をかけられ、職場にも居づらくなり、あげくに両親が交通事故でいっぺんに他界。結局会社を退職し、両親がやっていた喫茶店「坂の上」を引き継ごうと、地元へ帰ってくる。喫茶店の仕事は、会社務めに比べると、珠子にはなんとなくあっているようで...ご近所さんを相手にユルくやっていた。そんな珠子が地元へ戻ってから半年ほどして、喫茶店「坂の上」の隣にある、通称「お化け屋敷」と呼ばれる大豪邸に、帝国財閥の偉い人が越してくると話題になる。珠子は、「別の世界の人間」だからと、あまり意識をしていなかったのだか...
「お化け屋敷」の噂からひと月後。いつもは見ない紳士が、喫茶「坂の上」によってきて。そこから始まる現代シンデレラ物語
同居人の一輝くんは、ちょっぴり不器用でちょっぴり危険⁉
朝陽七彩
恋愛
突然。
同居することになった。
幼なじみの一輝くんと。
一輝くんは大人しくて子羊みたいな子。
……だったはず。
なのに。
「結菜ちゃん、一緒に寝よ」
えっ⁉
「結菜ちゃん、こっちにおいで」
そんなの恥ずかしいよっ。
「結菜ちゃんのこと、どうしようもなく、
ほしくてほしくてたまらない」
そんなにドキドキさせないでっ‼
今までの子羊のような一輝くん。
そうではなく。
オオカミになってしまっているっ⁉
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
如月結菜(きさらぎ ゆな)
高校三年生
恋愛に鈍感
椎名一輝(しいな いつき)
高校一年生
本当は恋愛に慣れていない
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
オオカミになっている。
そのときの一輝くんは。
「一緒にお風呂に入ったら教えてあげる」
一緒にっ⁉
そんなの恥ずかしいよっ。
恥ずかしくなる。
そんな言葉をサラッと言ったり。
それに。
少しイジワル。
だけど。
一輝くんは。
不器用なところもある。
そして一生懸命。
優しいところもたくさんある。
そんな一輝くんが。
「僕は結菜ちゃんのこと誰にも渡したくない」
「そんなに可愛いと理性が破壊寸前になる」
なんて言うから。
余計に恥ずかしくなるし緊張してしまう。
子羊の部分とオオカミの部分。
それらにはギャップがある。
だから戸惑ってしまう。
それだけではない。
そのギャップが。
ドキドキさせる。
虜にさせる。
それは一輝くんの魅力。
そんな一輝くんの魅力。
それに溺れてしまう。
もう一輝くんの魅力から……?
♡何が起こるかわからない⁉♡
織田信長の妹姫お市は、異世界でも姫になる
猫パンダ
恋愛
戦国一の美女と言われた、織田信長の妹姫、お市。歴史通りであれば、浅井長政の元へ嫁ぎ、乱世の渦に巻き込まれていく運命であるはずだったーー。しかし、ある日突然、異世界に召喚されてしまう。同じく召喚されてしまった、女子高生と若返ったらしいオバサン。三人揃って、王子達の花嫁候補だなんて、冗談じゃない!
「君は、まるで白百合のように美しい」
「気色の悪い世辞などいりませぬ!」
お市は、元の世界へ帰ることが出来るのだろうか!?
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
不器用な大富豪社長は、闇オクで買った花嫁を寵愛する
獅月@体調不良
恋愛
「 御前を幸せにする為に、俺は買ったんだ 」
〜 闇オク花嫁 〜
毒親である母親の為だけに生きてきた彼女は、
借金を得た母の言葉を聞き、
闇オークションへ売られる事になった。
どんな形にしろ借金は返済出来るし、
母の今後の生活面も確保出来る。
そう、彼女自身が生きていなくとも…。
生きる希望を無くし、
闇オークションに出品された彼女は
100億で落札された。
人食を好む大富豪か、
それとも肉体を求めてか…。
どちらにしろ、借金返済に、
安堵した彼女だが…。
いざ、落札した大富豪に引き渡されると、
その容姿端麗の美しい男は、
タワマンの最上階から5階部分、全てが自宅であり、
毎日30万のお小遣いですら渡し、
一流シェフによる三食デザート付きの食事、
なにより、彼のいない時間は好きにしていいという自由時間を言い渡した。
何一つ手を出して来ない男に疑問と不満を抱く日々……だが……?
表紙 ニジジャーニーから作成
エブリスタ同時公開
モース10
藤谷 郁
恋愛
慧一はモテるが、特定の女と長く続かない。
ある日、同じ会社に勤める地味な事務員三原峰子が、彼をネタに同人誌を作る『腐女子』だと知る。
慧一は興味津々で接近するが……
※表紙画像/【イラストAC】NORIMA様
※他サイトに投稿済み
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる