予知姫と年下婚約者

チャーコ

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閑話・別視点②

本多航平くん視点・日高楽くん視点

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● 本多航平くん視点

 俺の婚約者のちーちゃんは、二歳年上で、すっごく綺麗。そして優しい。
 長い髪はつやつや。瞳が大きくまつ毛も長い。
 鼻筋だって通っていて、口元にはいつも笑みを浮かべている。
 初等部三年のときに、いきなり婚約を申し込まれたことは驚いたけど……。
 こんな綺麗で優しい人だったら大歓迎だ。
 ちーちゃんの大学卒業と同時に、俺達は結婚した。
 俺はまだ大学三年生だったけど、婿入りなので、経済面で不自由させないと言われた。
「虹川航平」になってから、信じられないような話を聞いた。
 何でも虹川家直系女子は、未来予知が出来る、予知夢という夢を視るらしい。

「じゃあ、ちーちゃん。このラノベの次の巻、いつ発売になるか予知してみてよ」

 試しにそう言ってみると、ちーちゃんはライトノベルをじっと見つめた。
 翌日、夢で視たと教えてくれた。
 後日発表された発売日は、見事的中していた。
 ちーちゃんは綺麗なだけじゃなく、すごい特技を持っていたんだ。
 俺はちーちゃんの役に立てるよう、虹川家の役に立てるよう、必死で勉強した。
 お義祖父さんにも、お義父さんにも、経営学の勉強を褒められた。
 お義父さんは、ちーちゃんにそっくりだ。若くて美形。頭も良い。

「航平くんは、勉強頑張っているね。ちーちゃんとも仲良しだし。自慢のお婿さんだ」

 お義父さんに言われて、少し照れた。お義父さんも優しい。
 俺はまだまだだ。お義父さんの足元にも及ばない。
 虹川家の婿として、ちーちゃんには是非、俺との間に女の子を生んでもらわなくては。
 義務感だけじゃなく、ちーちゃんのことは愛しているので、色々仲良くした。
 そうして仲良くした後、ちーちゃんは妊娠した。絶対女の子だと思った。

「ちーちゃん。女の子だったら、何て名前つけたい?」
「そうねえ……」

 二人で考え込んだ。
 俺としてはちーちゃんの「知乃」から名前をもらいたい。
 ちーちゃんのように、綺麗で優しい子になって欲しい。
 生まれた子どもは女の子だった。思った通りだ。俺は言った。

「ちーちゃん、お疲れ様。そして、子どもを生んでくれてありがとう」

 ちーちゃんは疲れていたけど、笑ってくれた。

「女の子だったわね。名前、どうしようかしら?」

 俺は考えていた名前を口にした。

「知乃から一文字もらって、知枝未ちえみなんてどうかな」

 未来予知が当たって、ちーちゃんのように優しい子になるように。

「いい名前ね。普段はえみちゃんって呼ぼうかしら」
「そうだな。えみちゃんって呼ぼうか。ちーちゃんだと被っちゃうからな」

 えみちゃんはすくすく育って四歳になった。
 ちーちゃんに似て、可愛い。
 えみちゃんはある日、俺の持っていたラノベの表紙を指差した。

「おとうさま。このおとこのこと、このおんなのこが、ちゅっとしているゆめをみたよ」

 俺は慌てた。

「えみちゃん。予知夢を視るのはいいんだけど、ネタバレは禁止!」

 えみちゃんは、お構いなしに話を続けた。

「おとうさま。おとうさまとおかあさまが、なかよくちゅっとしているゆめもみたよ」

 今度は慌てなかった。だって、当然の夢だから。

「当たり前だよ、えみちゃん。俺達はずっと仲良しなんだからね!」

 笑ってえみちゃんに頬ずりした。

 ♦ ♦ ♦

● 日高楽くん視点

 俺は人付き合いが苦手だ。
 生まれつき、何だか運が悪い。しかも結構なドジ。
 そんな俺に他人を巻き込むのが悪くて、人との関わりを避けてきた。
 しかしそんな俺を、ずっと見つめてくる奴がいる。
 前の席の、虹川夢乃だ。
 彼女はものすごい美少女で有名。特に長い黒髪が綺麗だ。
 やたらと俺に構い、お節介を焼く。
 お節介とは、やや違うかもしれない。彼女のしてくれることは何故か当を得る。
 彼女が見つめてきて、色々世話をしてくれる度に、俺は虹川の絵が描きたくなった。
 趣味で描いている絵。しかしある日、虹川に見つかってしまった。

「その絵、私? どうして、私の絵を……?」

 その頃には、俺は虹川のことが好きな気持ちに、気付いていた。
 こんなに俺の世話をしてくれて、しかもとびきり綺麗。
 俺の独学の絵の技術では表現出来ないくらい美しい笑顔が、それでも描きたかった。
 虹川は、俺の絵のモデルになってくれた。
 色々おしゃべりをする。でも、口下手な俺。だって、今までそんなに親密に人と接してこなかった。
 そんな俺のつまらないだろう話を、虹川は微笑んで聞いてくれる。
 虹川の話も面白い。何でも父親は大恋愛の末、十八歳の誕生日に結婚したのだとか。
 すごい情熱だ。その情熱を、少し俺に分けて欲しい。
 虹川の油絵が描き終わった。俺にしたら、今までで一番の出来だ。
 ……何しろ、虹川の絵だからな。力が入った。
 部屋に飾って楽しもうと思っていたら、虹川が絵を欲しいと言ってきた。

「あげてもいいんだけど……。でも、やっぱり俺がもらう。俺が描いた絵だし。何より、虹川の絵だし……。あ」

 本音が零れてしまった。でも、虹川は俺の本心に気付いていない様子。
 もう一枚絵を描いて、それを虹川にあげる約束をした。
 またモデルをしてくれる彼女に話しかける。

「なあ、夢乃」

 彼女の父親の情熱を見習って、勇気を出して名前呼び。
 彼女は少し目を見開いた後、にっこりした。

「何かしら、楽くん?」

 嬉しい。家族以外で名前を呼ばれたのは初めてだ。
 しかもその相手が、虹川夢乃。俺はキャンバスに顔を隠した。
 きっと今の俺の顔は、笑み崩れている。
 名前で呼び合うようになって、夢乃の絵も完成した。
 これで縁がなくなってしまうかと密かに落胆していたが、夢乃はそれからも俺と一緒にいた。

「楽くんと過ごすのは、何だか楽しいわ」

 見惚れる笑顔。そして、期待してしまう言葉。

「俺も夢乃といられるのは、嬉しい」

 高等部卒業が近くなって、俺は想いを込めて鉛筆画を描いた。
 俺と夢乃がしゃべっている絵。ずっと、こうしていたい。
 鉛筆画をプレゼントしたら、夢乃は俺と同じくずっとこうしていたかったと言った。
 俺はまた勇気を出した。あまり気の利いたことは言えない俺。

「俺は、夢乃と一緒に過ごしたい。夢乃は?」

 夢乃は少し驚いた表情の後、これ以上ない笑みを浮かべた。

「……私も、楽くんと一緒に過ごしたい。いつまでも。──好きよ」

 夢乃に先に「好き」と言わせてしまった。俺はちょっと後悔しながら、柔らかい夢乃の手を握った。

「俺も好きだ、夢乃。いつまでも、一緒にいような」

 まだほんの少しだけ、卒業まで間がある。
 いつも俺が絵を描いている、美術準備室で二人きり。恋人と、二人きり。
 窓辺に座る彼女の横に、俺も座る。
 改めて夢乃を眺める。
 綺麗な長い髪。色白の美しい顔立ち。こんな夢乃と付き合っているなんて、未だに信じられない。
 見つめていたら、彼女も見つめ返してきた。大きな瞳。俺はその瞳を閉じさせたくなった。

「夢乃。目を閉じて」

 お願いすると、不思議そうにしながらも、瞳を閉じてくれた。
 無防備な顔に、俺の顔を近寄せる。つやつやと輝いている唇に、俺のそれを重ねた。

「……!」

 途端、開いた瞳。俺の顔が映っている。
 構わずキスを深めた。彼女は再び目を閉じてくれた。

「……好きだ、夢乃」

 初めてのキスの後、そう言った。それしか言えない自分がもどかしい。

「私も大好きよ、楽くん」

 頬を少し染めながら、夢乃は一番欲しい言葉をくれた。
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