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first clover
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『clover』 花言葉 「開拓」「始まり」「初恋」
とある遊園地で起きた殺人事件、そこに揃うは2人の探偵。片方は高校生探偵で知られる有名な名探偵。その点片方は無名の若き探偵。お荷物はすっこんでろとヤジを飛ばしてた観衆も今や黙り込んでしまい、あたりには声のない喧騒が波のように押し寄せている。
「そろそろ帰るぞ、朝日。じゃあな名探偵、また会えたらまた会おう」
お気に入りのコートをユラユラと揺らしながら彼は人波を分けていく。の後ろをトテトテとついてくる助手の姿を確認しながら彼は思う。
(また、救えなかった)
1890年のロンドンのとある屋敷。そこにいる時に俺は1人の女性を救えなかった。なにやら嫌な予感は最初からしていたのだ、しかし救えなかったという事実。とてつもなく悔しく、自分が情けなかった。最初から彼の持つ傘に違和感は有り、警戒はしていた。しかし同業者であるということ。朝日の存在を、価値を評価し真っ当に判断してもらったという事で疑う事を辞めてしまっていた。全ては自分の甘さが招いた事件、俺が彼女を殺したと言っても過言ではない。
きっとこれを朝日に言えばあいつはそれは違うと言ってくれるだろう。そしてその言葉に俺は癒され、甘えてしまうのだと思う。だがそれだけはしてはいけない、たとえどれだけ苦しむことになろうとそれだけは許されないのだ。でないとまた誰かを救えない、もしかしたら次救えないのは朝日かもしれない。それだけはごめんだ。だから知恵を磨いた、様々な知識に手を出しそれを頭に叩き込んだ。多くの殺人事件の資料を集めそれを暗記した。俺はゼロから事件を解くような頭の良さも、飛び抜けた発想力もない。だが、今まで起こった数多の事件は新たな事件に少なからず合致する点が存在する。ならばそれを見つけ出すのだ。ここ数十年から数百年の殺人事件の概要を全てに目を通し、それを暗記する。全ては何もかもを守るために。
この馬鹿げた行為は無駄ではなかったようで、多くの事件で、その記憶が生かされた。見えた点を線で繋げば自ずと形は見えてくる。単純な誰にでもできる作業をしただけ。だというのに皆はもてはやす。だがまだだ、まだ足りないまだ足りない。周りにどれだけ評価されようとあいつを守れなきゃ意味がない。俺は血眼になって過去の遺産を叩き込む。
「最近薫は資料見てばっかりだね、ねえなに読んでるの?…って文字いっぱい!なにこれ私無理、よく読めるなぁ」
そんなことを言いながら朝日がコトリとカップを机の上に置く。最近はカップを割ることも、こけることもなくなった。お気に入りの香りが肺と部屋の中をゆっくりと満たしていく
「……ありがと」
「え?…今なんて言った?」
「ん?だからコーヒー、いつもありがとうと」
一瞬キョトンとしたあと満面の笑みをは浮かべる朝日。そして上機嫌にあいつが俺の横に座る。ふと、窓の外に目をやると若干暗くなってきていた。
「もう上がっていいぞ、仕事も片付いたしな。」
「んー、もうちょっとだけいたげるよ」
ドヤ顔であいつがこちらをみてくる。わかりやすい奴だ。
「邪魔だ帰れ、お前はいるだけで煩くて仕方ない」
「うわー、最低。せっかく優しくしたのにこれだから薫は」
そう言いながらもお互い笑顔なのだから不思議で仕方ない。お互いが掛け替えのない存在、何が何でも守りたい存在、お互いが隣にいなきゃいけないのだ。だからあの時俺も朝日も相手を救えるならと直ぐに返事が出来たのだろう。まあこれは俺の勝手な憶測に過ぎないが。
そんな風に1人ぼんやりと考えているとけたたましく電話がなった、無言で立ち上がった朝日が電話をとる。どうやらあの園での一件以来俺達も世間様から少なからず注目を浴びてしまったようでお陰で依頼は日に日に増えていきついには警察が事件解決の協力を頼み込んで来るようになっていた。
「はい、こちら八須賀探偵事務所です…はい、かしこまりました。少々お待ちください。薫、かわってだって」
朝日が差し出した受話器を無言で受け取り、電話越しの声に耳を傾ける。どうやら今日も朝日が家に帰るのは難しそうだと苦笑いしながらメモ帳にサラサラと目的地を書いていき、それをポケットにしまう。
「わかりました、直ぐに伺います」
受話器を置き、残っている珈琲を一息で流し込む。実はこの贅沢な飲み方が大好きだったりするのだ。特別な香りを味わいながら、お気に入りのコートを羽織り、かけてあったキャスケット帽を被り振り返らずに声をかける。
「いくぞ朝日。事件だ」
「はーい」
そう言って彼女はトテトテとついてくる。ここに前のようにいつでも暇でゆったりと時が流れるのどかさはもうない。あの頃のここも好きだったが今の方が俺は気に入っている。憧れの探偵らしい仕事を一番の理解者とともにこなしていく、帰ってきてあいつの淹れた珈琲を飲む幸せを味わう。それが何よりも大切で誇らしい。
こんな時間がいつまでも続けば良い。
俺はきっとこの日々に恋をしている。
とある遊園地で起きた殺人事件、そこに揃うは2人の探偵。片方は高校生探偵で知られる有名な名探偵。その点片方は無名の若き探偵。お荷物はすっこんでろとヤジを飛ばしてた観衆も今や黙り込んでしまい、あたりには声のない喧騒が波のように押し寄せている。
「そろそろ帰るぞ、朝日。じゃあな名探偵、また会えたらまた会おう」
お気に入りのコートをユラユラと揺らしながら彼は人波を分けていく。の後ろをトテトテとついてくる助手の姿を確認しながら彼は思う。
(また、救えなかった)
1890年のロンドンのとある屋敷。そこにいる時に俺は1人の女性を救えなかった。なにやら嫌な予感は最初からしていたのだ、しかし救えなかったという事実。とてつもなく悔しく、自分が情けなかった。最初から彼の持つ傘に違和感は有り、警戒はしていた。しかし同業者であるということ。朝日の存在を、価値を評価し真っ当に判断してもらったという事で疑う事を辞めてしまっていた。全ては自分の甘さが招いた事件、俺が彼女を殺したと言っても過言ではない。
きっとこれを朝日に言えばあいつはそれは違うと言ってくれるだろう。そしてその言葉に俺は癒され、甘えてしまうのだと思う。だがそれだけはしてはいけない、たとえどれだけ苦しむことになろうとそれだけは許されないのだ。でないとまた誰かを救えない、もしかしたら次救えないのは朝日かもしれない。それだけはごめんだ。だから知恵を磨いた、様々な知識に手を出しそれを頭に叩き込んだ。多くの殺人事件の資料を集めそれを暗記した。俺はゼロから事件を解くような頭の良さも、飛び抜けた発想力もない。だが、今まで起こった数多の事件は新たな事件に少なからず合致する点が存在する。ならばそれを見つけ出すのだ。ここ数十年から数百年の殺人事件の概要を全てに目を通し、それを暗記する。全ては何もかもを守るために。
この馬鹿げた行為は無駄ではなかったようで、多くの事件で、その記憶が生かされた。見えた点を線で繋げば自ずと形は見えてくる。単純な誰にでもできる作業をしただけ。だというのに皆はもてはやす。だがまだだ、まだ足りないまだ足りない。周りにどれだけ評価されようとあいつを守れなきゃ意味がない。俺は血眼になって過去の遺産を叩き込む。
「最近薫は資料見てばっかりだね、ねえなに読んでるの?…って文字いっぱい!なにこれ私無理、よく読めるなぁ」
そんなことを言いながら朝日がコトリとカップを机の上に置く。最近はカップを割ることも、こけることもなくなった。お気に入りの香りが肺と部屋の中をゆっくりと満たしていく
「……ありがと」
「え?…今なんて言った?」
「ん?だからコーヒー、いつもありがとうと」
一瞬キョトンとしたあと満面の笑みをは浮かべる朝日。そして上機嫌にあいつが俺の横に座る。ふと、窓の外に目をやると若干暗くなってきていた。
「もう上がっていいぞ、仕事も片付いたしな。」
「んー、もうちょっとだけいたげるよ」
ドヤ顔であいつがこちらをみてくる。わかりやすい奴だ。
「邪魔だ帰れ、お前はいるだけで煩くて仕方ない」
「うわー、最低。せっかく優しくしたのにこれだから薫は」
そう言いながらもお互い笑顔なのだから不思議で仕方ない。お互いが掛け替えのない存在、何が何でも守りたい存在、お互いが隣にいなきゃいけないのだ。だからあの時俺も朝日も相手を救えるならと直ぐに返事が出来たのだろう。まあこれは俺の勝手な憶測に過ぎないが。
そんな風に1人ぼんやりと考えているとけたたましく電話がなった、無言で立ち上がった朝日が電話をとる。どうやらあの園での一件以来俺達も世間様から少なからず注目を浴びてしまったようでお陰で依頼は日に日に増えていきついには警察が事件解決の協力を頼み込んで来るようになっていた。
「はい、こちら八須賀探偵事務所です…はい、かしこまりました。少々お待ちください。薫、かわってだって」
朝日が差し出した受話器を無言で受け取り、電話越しの声に耳を傾ける。どうやら今日も朝日が家に帰るのは難しそうだと苦笑いしながらメモ帳にサラサラと目的地を書いていき、それをポケットにしまう。
「わかりました、直ぐに伺います」
受話器を置き、残っている珈琲を一息で流し込む。実はこの贅沢な飲み方が大好きだったりするのだ。特別な香りを味わいながら、お気に入りのコートを羽織り、かけてあったキャスケット帽を被り振り返らずに声をかける。
「いくぞ朝日。事件だ」
「はーい」
そう言って彼女はトテトテとついてくる。ここに前のようにいつでも暇でゆったりと時が流れるのどかさはもうない。あの頃のここも好きだったが今の方が俺は気に入っている。憧れの探偵らしい仕事を一番の理解者とともにこなしていく、帰ってきてあいつの淹れた珈琲を飲む幸せを味わう。それが何よりも大切で誇らしい。
こんな時間がいつまでも続けば良い。
俺はきっとこの日々に恋をしている。
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