熱愛をご所望の令嬢は、子爵の欲望に翻弄されます

朝日みらい

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「拒否したって?」

 エルセーヴは戸惑い、眉根を寄せました。

(彼が私に興味を持っていると思っていたのに。間違いだったの?」

  3人の中でハモンドだけは結婚したいという意思をはっきりと示してはいなかったのです。けれども それは関心がないからではなく、慎重で思慮深い人だからだと思っていたのです。

 片思いだったと思うと何だか悔しさがこみ上げて、エルセーヴは目を閉じました。

「返事は直接申し上げたいとおっしゃられて……」

  エルセーヴは、ハッと目を開きました。

 「な、何ですって!」 

 驚いて声を上げたとたん、子爵 その人が部屋に入って、黙って会釈をしました。

「あっ………」

  その体ときたら、引き締まった腰に鍛え上げられた腿とふくらはぎ。ハモンドは肉欲を形にしたような男性です。彼を見たら裸の姿を想像せずにはいられません。

  ハモンドには何か磁力のようなものを発していて、エルセーヴの内臓を反転させ、いつもの冷静な思考をかき乱だすのです。

 なんとか落ち着きを取り戻し、エルセーヴは震える膝を深く折って優雅に会釈をしました。 

「子爵様。私の手紙が届いた時に、お返事のペンはお持ちでなかったの? あら、黙ってらっしゃるのは、まさか舌までなくなりまして?」 

 返事ができただけじゃなく、気の利いた洒落を言えたのが自分でも意外なくらいでした。

 ハモンドの喉から、低い笑い声が漏れました。

 褐色の目、風変わりな落ち葉色の瞳が楽しめに輝きました。 

「ご心配なく。僕の舌もペンも問題なく使えますよ。お望みなら、いつでも喜んで駆使いたします」

  彼は意味深長に眉を持ち上げました。

「くうっ……」

  エルセーヴはうめき声ともクスクス笑いともつかないものを飲み込みました。

(なんて悪い人なんだろう)

  ハモンドがどんな風にペンや舌を使うのか想像してみたら、股間のうずきが急に突き上げてきて、エルセーヴは慌ててそれを鎮めようと太ももや下半分が無意識に引きつりました。

  ハモンドはそれも見越して、彼女の様子を観察しているに違いありません。

 (私がもっと経験があったら彼の誘惑の言葉に同じように機知に富んだ返事で応戦できたのにな……)

 仕方なくエルセーヴはただハプスバラとグランドルの返事をドレスのポケットにしまい、従僕を下がらせました。

 キビキビとした改まった態度を取り繕って、エルセーヴは子爵に姉へ注意を向けさせました。

「姉のルベスバーグ伯爵夫人はご存知かしら」 

 ハモンドは頷きました。

「またお会いできて光栄です。あレディー・ルベスバーグ」

  そう言ってに紳士の礼を取ります。

「お元気そうですね」

「ありがとう」 

 ロゼリッタは、答えて立ち上がりました。

「でも、ちょっと急ぎの用事を思い出したので、家のルベスバーグハウスに戻らなければ 。2人とも申し訳ないけれども失礼するわね」 

 エルセーヴは驚いた姉を見つめました。

 (まさか、お姉さまがこの部屋から出ていくと本気で言ってる?) 

 そんなことは計画に入っていません。まだ心の準備ができていないのです。 

「もちろん 構いませんよ」

 ハモンドが如才なく答えました。 

「旦那様によろしくお伝えください 」

 ロゼリッタは唇をゆがめ苦笑を浮かべました。 

「ご自分で直接お伝えになって。夫はあちこちの娼館で遊んでばかりで家は開けがちなの。会うのは私よりも殿方のあなたの方が先になるかも」

 そしてエルセーヴのそばを通り過ぎる時に、身をかがめて耳打ちしました。

 「彼と二人きりになりたいんでしょ。楽しんで。私なら そうするわ」

 絹ずれの音を立てて、ロゼリッタは部屋を出て行き、ドアが静かにしまりました。
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