熱愛をご所望の令嬢は、子爵の欲望に翻弄されます

(6)

　ハモンドは冷静に考えを巡らしていました。

　他の状況なら、エルセーヴ嬢の罠にはめられたのではないかと疑っていたでしょう。しかしここには自分の意志で予告なしに訪ねてきたのです。

 (レディー・ルベスバーグはなぜ突然席を外したんだ) 

　ハモンドには全く糸口がつかめませんでした。

　けれどそれ以上に気にかかるのは、エルセーヴ嬢が自分と2人のライバルに一体どんなゲームを仕掛けているのかということです。

 　ハモンドは、エルセーヴがこちらの思惑に気づかれる前に彼女のポケットに手を伸ばして、従僕が渡した2通の書簡を取り上げました。

 ｢うわあっ！　ちょっと 一体……｣

　ハモンドの手がポケットに触れ 、エルセーヴが上ずった声を上げました。

｢やめて返してちょうだい！　これは私宛ての手紙よ。あなたに読む権利はないはずよ！｣

 　ハモンドが首を横に振り、エルセーヴの手の届かないところまで持ち上げると、彼女は足を踏み鳴らして青い目を怒りに燃え上がらせました。

　冷たいクリスタルの湖を思わせる目がかがり火のように熱く燃え、ハモンドはその瞳に魅了されましたが、もっとそそられたのは彼女が腕を伸ばした時に豊かな胸でボディスが浮き上がった様でした。

　彼女の胸が手のひらからわずかにこぼれるサイズかどうかを確かめてみたい。ハモンドは誘惑にかられたものの、それを抑えて言いました。

｢ルールも競争相手も知らないまま、ゲームに参加するつもりはない。僕を参加させたいなら、何をすることになるか教えてくれ。誰と争うことになるのかもだ｣

 　一瞬目を見開いて、警戒の色を浮かべた後、エルセーヴはすっとぼけて、その表情を抑え込みました。

 ｢な、何を言ってるのか、よくわからんないし……｣

(いや、分かっているはずだろ)

　ハモンドは息を殺して、1通目の書簡を開き、文面を読み上げました。

 『レディー・エルセーヴ・ホッテンはランドリー伯爵を来週火曜日の午後2時にあるルベスバーグ・ハウスで開かれる素敵なピクニック ランチに謹んでご招待いたします』

　エルセーヴの表情が目に見えて 暗くなっていきます。

　そしてハモンドは続けて2通目を開きました。

　こっちも似たような内容でした。

　宛先はハプスバラ公爵で日付は月曜日になっています。そして興味深いことに胸ポケットにもうもう１通書簡 が入っています。

 ｢残りは招待されていない水曜日の午後なんだけどね。それはどう考えればいいのかな、嘘つきお嬢さん？｣

｢ふん。好きなようにお考えになって結構よ。私の社交生活について説明する義務はないし。あなたは私の頑固な父親ではないんだから｣ 

　ハモンドは苦笑いしました。

｢ああ、もちろん違う｣ 

　エルセーヴは顔をしかめました。

｢それに私の夫でもないわ、まだね。結婚しても今のような態度を取るのだとすれば、あなたが夫になることはなさそうね。傲慢で独善的で、ずる賢くて、ふしだらで……んんっ……｣

 　ハモンドは可愛らしい女性から言われのない不当な非難を受けた時にとる唯一の手段で対抗しました。

　キスをしたのです。