【完結】前世で私を斬った将軍殿下が、今世では跪いて愛を誓ってきました

朝日みらい

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終章 誓いの口づけ

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 静かな月夜でした。

 昼の喧騒と華やぎが嘘のように消え、王宮の庭園は青白い光に包まれております。
 白い砂利の小道は月明かりを受けて鈍く輝き、花壇の薔薇には露が宿り、幽かな香りを放っていました。

 数日前、わたしは毒杯で倒れかけました。
 その時、彼が必死に抱き上げ、怒りと恐れをあらわに叫んでくれた姿が……忘れられません。

 (あの方は、ほんとうに)

 前世の記憶からすれば、理屈は通りません。
 なのに心は、どうしようもなく動いているのです。



 「セリーヌ」

 背後から名を呼ばれました。
 振り返ると、レオンハルト様が姿を現しておられました。

 月光に濡れ、銀髪が淡く光を返す。
 軍神の異名を持つその御方が、今はただひとりの女性を求める男として立っているのです。

 「体調はもう大丈夫なのか」
 「はい。おかげさまで……」

 言葉はそれだけ。
 けれど、彼の眼差しがわたしを一身に捉えて離さない。
 息が詰まりそうで、けれど心地よくてたまらない視線でした。

 「……殿下」

 ついに、問いかけずにはいられませんでした。

 「本当に……わたくしでいいのですか?」

 声は震え、思わず胸元で手を組みます。
 前世の痛み、今世の不安、そのすべてが混ざり合って溢れる問いでした。



 即座に、彼は頷きました。
 迷いなど一片もなく、断固とした声で。

 「君しかいない。君を愛することこそ、俺の生きる意味だ」

 言い切られてしまって、もう逃げ場などありません。
 視線を逸らそうとしたのに、彼の両手がわたしの手をしっかりと握り込みました。

 「っ……!」

 温かい。
 大きな手の中に包まれると、不安や過去さえも融けていく気がしました。



 「セリーヌ。俺は君に会うために生まれてきた……そう思える」
 「……殿下……」

 正面からの言葉に、胸の奥の氷がすっと溶けていきます。
 知らぬ間に溢れた涙が、頬を伝いました。

 彼の指が優しく伸びてきて、それを拭ってくださいます。

 「泣かせたくはなかった。だが……君が涙するなら、その理由をすべて背負いたい」

 その声音があまりに真摯で、わたしはもう抗えませんでした。

 「……わたくし、殿下のことを……」

 声が嗚咽で詰まりそうになった瞬間。
 彼はぐっとわたしを胸元へ引き寄せました。

 厚い胸板に頬を押し当てられ、強く、しかし優しく抱きしめられる。
 髪を撫でる掌の感触に、すべてが守られていく安心を覚えました。



 「セリーヌ……」

 名前を囁かれ、そのまま額が重ねられます。
 間近で触れ合う呼吸。
 わたしは目を閉じました。

 彼の唇が、そっとわたしの唇に触れました。

 淡く、けれど決して儚くない。
 強固な誓いが込められた、甘い口づけ。

 時間が止まったかのように、ただその瞬間に溺れていました。



 唇が離れたとき、わたしはもう抗うことをやめていました。
 「……殿下。わたくしを愛してくださるなら、どうか……」

 「永遠に愛し抜く」
 言葉を重ねるより早く、彼は再び力強く抱き寄せてきます。

 胸の奥に刻まれていたはずの、前世の痛みはどこにも見当たりませんでした。

 あるのはただ、今世を生きるわたしの心と、彼の熱だけ。

 


【完】
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