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とんだ災難
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そんな修羅場をくぐり抜けて、わりあい平穏な生活が半月ほど過ぎた、ある下校の昼下がりのことだった。
自宅の屋敷まで、学園から馬車で城壁の外に出て、2、30分すれば辺りはすっかり寂れた路地ばかりが増えてくる。貴族階級で最下位の男爵家、田舎男爵令嬢の屋敷は、このようなへんぴな場所にある。
こうしたほとんど人など通らない寂れた路地の一角で、立派な剣を持った、覆面姿の、ふたりの男が現れ、馬車を取り囲んだ。お腹が膨れた丸っこい体型と、ずいぶんとスリムで長身の美形の二人組だ。
驚いた馬は悲鳴じみて嘶き(いななき)、雇われ御者は守りもせずにさっさと退散してしまう。一人残されたエミリスは、観念して車内から降り、
「お金なら、全て差し上げますわ。さあ、どうぞ」
と、学生服のスカートから財布や、髪飾りやブレスレットを路上に放り投げる。
「ふん。そんなもの、いらない。ほしいのは、エミリス嬢。あなたの首だ」
太った小男が言うので、
「ごめんなさい。今、わたしの名前を言っちゃった?」
と、エミリスは不思議がって訊いた。
「おい、親分。なに、余計なこと口走ってる」
長身、スリム体型の男が、太った小男に突っ込みを入れた。
すると、親分、吹っ切れたように、
「どうせ、殺すんだ。真実をいってやる。俺たちはな、ある方に頼まれ……」
「ジョセフィーヌ公爵令嬢ですかね? ご名答?」
と、今度はエミリスに突っ込みを入れられた。
二人組が顔を見合わせると、エミリスはクスクスと小さく笑って、
「ふふふ。でしょうね。分かっていました。いずれ、こんなことになるかも、とは」
と言い、破顔を整え、あらたまって地面に膝をつき、首を差しだし、
「では、盗賊様。いえ、暗殺者様。死ぬ前に、本音の話をしていいですか? だれかに真実を話さないと、死んでも死にきれないんですわ」
と、これまでジョセフ王太子の溺愛の顛末を、腹に溜まった想いを洗いざらい話した。
「なんてひどい話だ。かわいそうにな。俺だって、ジョセフィーヌ様の用心棒でこき使われてきて、挙げ句の果ては殺せだと」
涙もろいお頭がごしごし、噴きこぼれたなみだを拭いた。
「おいおい。確かに、ジョセフィーヌ様の人使いは手荒いが。金はもらっているじゃないか」
と、スリムの部下が額をこすって、エミリスを見た後、
「それにだ。あんたが死んだことにしないと、俺たちが殺さなくても、次の用心棒がくるだけだし」
と言う。
「でしょう。なら、わたしを殺した証拠を出さないといけないわよね」
と、エミリスは顎に手をやり、ひどく冷静に答える。それから、
「わたしにいい案があるの。もちろん、あなたたちだって、損をしない話なんだけど」
と、立ち上がる。
「いいこと? これからわたしがあなたたちを雇い入れます。もちろん、我が家の使用人としてです。御給金だって、倍に弾みます」
「ふん。そんなこと、バレたら、ジョセフィーヌ様の公爵様にどんな制裁がされるか、分かったもんじゃない」と、親分。
「信用できるのか?」と、スリムな部下。
「平気よ。わたしの後ろには王太子様がいるんですから。まずは、馬車で王宮へ連れていきなさい。覆面やこんなマントは脱ぎなさい。まずは、ちゃんとした服装をするのよ」
二人の用心棒は、再び、顔を見合わせた。それから、スリム形の男は、覚悟を決めて、
「分かった。俺はあなたを信じよう」
と、覆面を脱ぎ、マントを脱ぎすてると、これまた想像以上の美男子で、エミリスはジイっと見入ってしまう。
「ついでだが、お前は可愛いし、なにより賢い。おれと結婚してくれよ」
「まあ、わたしもあなた、嫌いじゃない感じ。助かったら、考えてあげてもよくってよ。さあ、お願いします」
自宅の屋敷まで、学園から馬車で城壁の外に出て、2、30分すれば辺りはすっかり寂れた路地ばかりが増えてくる。貴族階級で最下位の男爵家、田舎男爵令嬢の屋敷は、このようなへんぴな場所にある。
こうしたほとんど人など通らない寂れた路地の一角で、立派な剣を持った、覆面姿の、ふたりの男が現れ、馬車を取り囲んだ。お腹が膨れた丸っこい体型と、ずいぶんとスリムで長身の美形の二人組だ。
驚いた馬は悲鳴じみて嘶き(いななき)、雇われ御者は守りもせずにさっさと退散してしまう。一人残されたエミリスは、観念して車内から降り、
「お金なら、全て差し上げますわ。さあ、どうぞ」
と、学生服のスカートから財布や、髪飾りやブレスレットを路上に放り投げる。
「ふん。そんなもの、いらない。ほしいのは、エミリス嬢。あなたの首だ」
太った小男が言うので、
「ごめんなさい。今、わたしの名前を言っちゃった?」
と、エミリスは不思議がって訊いた。
「おい、親分。なに、余計なこと口走ってる」
長身、スリム体型の男が、太った小男に突っ込みを入れた。
すると、親分、吹っ切れたように、
「どうせ、殺すんだ。真実をいってやる。俺たちはな、ある方に頼まれ……」
「ジョセフィーヌ公爵令嬢ですかね? ご名答?」
と、今度はエミリスに突っ込みを入れられた。
二人組が顔を見合わせると、エミリスはクスクスと小さく笑って、
「ふふふ。でしょうね。分かっていました。いずれ、こんなことになるかも、とは」
と言い、破顔を整え、あらたまって地面に膝をつき、首を差しだし、
「では、盗賊様。いえ、暗殺者様。死ぬ前に、本音の話をしていいですか? だれかに真実を話さないと、死んでも死にきれないんですわ」
と、これまでジョセフ王太子の溺愛の顛末を、腹に溜まった想いを洗いざらい話した。
「なんてひどい話だ。かわいそうにな。俺だって、ジョセフィーヌ様の用心棒でこき使われてきて、挙げ句の果ては殺せだと」
涙もろいお頭がごしごし、噴きこぼれたなみだを拭いた。
「おいおい。確かに、ジョセフィーヌ様の人使いは手荒いが。金はもらっているじゃないか」
と、スリムの部下が額をこすって、エミリスを見た後、
「それにだ。あんたが死んだことにしないと、俺たちが殺さなくても、次の用心棒がくるだけだし」
と言う。
「でしょう。なら、わたしを殺した証拠を出さないといけないわよね」
と、エミリスは顎に手をやり、ひどく冷静に答える。それから、
「わたしにいい案があるの。もちろん、あなたたちだって、損をしない話なんだけど」
と、立ち上がる。
「いいこと? これからわたしがあなたたちを雇い入れます。もちろん、我が家の使用人としてです。御給金だって、倍に弾みます」
「ふん。そんなこと、バレたら、ジョセフィーヌ様の公爵様にどんな制裁がされるか、分かったもんじゃない」と、親分。
「信用できるのか?」と、スリムな部下。
「平気よ。わたしの後ろには王太子様がいるんですから。まずは、馬車で王宮へ連れていきなさい。覆面やこんなマントは脱ぎなさい。まずは、ちゃんとした服装をするのよ」
二人の用心棒は、再び、顔を見合わせた。それから、スリム形の男は、覚悟を決めて、
「分かった。俺はあなたを信じよう」
と、覆面を脱ぎ、マントを脱ぎすてると、これまた想像以上の美男子で、エミリスはジイっと見入ってしまう。
「ついでだが、お前は可愛いし、なにより賢い。おれと結婚してくれよ」
「まあ、わたしもあなた、嫌いじゃない感じ。助かったら、考えてあげてもよくってよ。さあ、お願いします」
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