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とんだ迷惑
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「エミリス嬢、お前と王太子との結婚はゆるさない」
突然、国王に、ジョセフ王太子と共に呼び出されたエミリス男爵令嬢は、驚いて目を見張る。
ジョセフ王太子がすかさずエミリスをかばうように前に立ち、
「ちょっと待ってください。エミリスに何かありましたか?」
と、抗議する。
「大ありだ、ジョセフ。お前はすでにジョセフィーヌ公爵令嬢との婚約が決まっている。なのに、急にそれを白紙にして、田舎娘のエミリス嬢と結ばれたいなどと!」
「それは分かっています。ですが、これはぼくがまだ5歳で決められた結婚です。ぼくが望んだ人生ではないんです」
「これは国内の平和のため。わたしだって、こうして有力者と契りを交わしてきたのだ。16であれば、これくらいの分別を持て」
国王は、顎髭を撫でながら、ため息をついた。
「ですが、お父様。この形式だけの家庭生活がいかに息子のぼくが辛かったか、わかりますか? お母様とは家庭内別居中で、あちこち遊びに出かけて、1年で数えるだけしか王宮にはおられません。今はどこに居られるかも、便りしか分からずじまいです。ぼくはそんな夫婦にはなりたくありません」
「民よりも、おのれの利益を優先して、この国を治められるものか。まったく、近ごろの若者ときたら!」
そんな父と息子の喧嘩は、いつものことだ。
(もう、何回、わたくし、関係ないのに、呼び出されているのかしら)
エミリスは、内心、うんざりしていた。
15歳で王立学園の高等部に入学して、自然豊かな田舎から都にやって来た男爵令嬢にすぎない。
だが、成績優秀で、しかも肌が褐色で野生的な美しさを兼ね備えていたので、他の生徒たちから目立ってしまった。
それに、ジョセフ王太子までもが、一目惚れしてしまったので、平穏に過ごしたいと思った学生生活はめちゃくちゃになってしまった。
(はあ、この喧嘩はいつ終わるんだろうなあ……)
エミリスは、半ば呆れ顔で傍観していると、国王から、
「エミリス嬢、君はジョセフをどう思っているのだ」
と、問いかけられる。
あらためて、王太子の方に顔を向けてみると、彼ののっぺりした童顔に目を細めた。
(別に、なあ……)
たしかに、ジョセフ王太子は、エミリスにはつきあっていて、悪い方ではなかった。正式には損がないということか。
舞踏会にも演劇にも、人気のレストランにも、どこにでも、一番の席に座らせてくれた。一流の仕立屋で仕立てた最高のドレスを着れたし、国宝級のネックレスや宝石は数知れず。男爵家では絶対に許されないような王宮の夜会にも頻繁に参加してきた。どれもこれも一級品。
(でも、それだけの方なのよね……)
さすがに時期国王の前で、権力も金もあるけれど、魅力はない方と、真っ正直に言ってしまえば、すっきりする。それに、婚約者であるジョセフィーヌ公爵令嬢からは、いつも殺気立つ眼差しを浴びている。
校内でも、王太子と並んで歩いていれば、皆はぺこぺこ頭を下げるのに、ひとたび、一人になれば挨拶などされないどころか、
「田舎男爵イモのくせに、いい気になっちゃって」
「ジョセフィーヌ様がかわいそう」
「どっかに消えてしまえばいいのに」
と、陰口を叩かれる。
教科書や文房具を盗まれることは数知れず、部屋に閉じ込められたことさえあった。
エミリスは勉強の中でも算術が得意なので、恋愛の足し引きをやってみる。
(そう思うと、プラスマイナス、弱プラスかしら)
と、エミリスは値踏みして、答に窮していたら、突然、ジョセフ王太子が強引に、彼女の肩を引き寄せた。
「お父様。エミリスを困らせるのはおやめください。板挟みになる彼女の乙女心がなぜわからないのですか。さあ、エミリス、もう、帰ろう」
(ちょっと痛いっつーの……本音をわかってないのは、ジョセフ様本人かもしれないけど)
王の執務室から、王太子に連れられて廊下に出たエミリスは、胸中は複雑だったものの、地獄の1時間を何とか脱せたので安堵した。
それからは、また、王太子と慰めのプレゼント(今度は、高級な香水)の代償で、今度は熱烈な、
「すきだ」
「愛してる」
「ぼくのそばにいろ」
のアプローチや抱擁の試練が待っていた。
突然、国王に、ジョセフ王太子と共に呼び出されたエミリス男爵令嬢は、驚いて目を見張る。
ジョセフ王太子がすかさずエミリスをかばうように前に立ち、
「ちょっと待ってください。エミリスに何かありましたか?」
と、抗議する。
「大ありだ、ジョセフ。お前はすでにジョセフィーヌ公爵令嬢との婚約が決まっている。なのに、急にそれを白紙にして、田舎娘のエミリス嬢と結ばれたいなどと!」
「それは分かっています。ですが、これはぼくがまだ5歳で決められた結婚です。ぼくが望んだ人生ではないんです」
「これは国内の平和のため。わたしだって、こうして有力者と契りを交わしてきたのだ。16であれば、これくらいの分別を持て」
国王は、顎髭を撫でながら、ため息をついた。
「ですが、お父様。この形式だけの家庭生活がいかに息子のぼくが辛かったか、わかりますか? お母様とは家庭内別居中で、あちこち遊びに出かけて、1年で数えるだけしか王宮にはおられません。今はどこに居られるかも、便りしか分からずじまいです。ぼくはそんな夫婦にはなりたくありません」
「民よりも、おのれの利益を優先して、この国を治められるものか。まったく、近ごろの若者ときたら!」
そんな父と息子の喧嘩は、いつものことだ。
(もう、何回、わたくし、関係ないのに、呼び出されているのかしら)
エミリスは、内心、うんざりしていた。
15歳で王立学園の高等部に入学して、自然豊かな田舎から都にやって来た男爵令嬢にすぎない。
だが、成績優秀で、しかも肌が褐色で野生的な美しさを兼ね備えていたので、他の生徒たちから目立ってしまった。
それに、ジョセフ王太子までもが、一目惚れしてしまったので、平穏に過ごしたいと思った学生生活はめちゃくちゃになってしまった。
(はあ、この喧嘩はいつ終わるんだろうなあ……)
エミリスは、半ば呆れ顔で傍観していると、国王から、
「エミリス嬢、君はジョセフをどう思っているのだ」
と、問いかけられる。
あらためて、王太子の方に顔を向けてみると、彼ののっぺりした童顔に目を細めた。
(別に、なあ……)
たしかに、ジョセフ王太子は、エミリスにはつきあっていて、悪い方ではなかった。正式には損がないということか。
舞踏会にも演劇にも、人気のレストランにも、どこにでも、一番の席に座らせてくれた。一流の仕立屋で仕立てた最高のドレスを着れたし、国宝級のネックレスや宝石は数知れず。男爵家では絶対に許されないような王宮の夜会にも頻繁に参加してきた。どれもこれも一級品。
(でも、それだけの方なのよね……)
さすがに時期国王の前で、権力も金もあるけれど、魅力はない方と、真っ正直に言ってしまえば、すっきりする。それに、婚約者であるジョセフィーヌ公爵令嬢からは、いつも殺気立つ眼差しを浴びている。
校内でも、王太子と並んで歩いていれば、皆はぺこぺこ頭を下げるのに、ひとたび、一人になれば挨拶などされないどころか、
「田舎男爵イモのくせに、いい気になっちゃって」
「ジョセフィーヌ様がかわいそう」
「どっかに消えてしまえばいいのに」
と、陰口を叩かれる。
教科書や文房具を盗まれることは数知れず、部屋に閉じ込められたことさえあった。
エミリスは勉強の中でも算術が得意なので、恋愛の足し引きをやってみる。
(そう思うと、プラスマイナス、弱プラスかしら)
と、エミリスは値踏みして、答に窮していたら、突然、ジョセフ王太子が強引に、彼女の肩を引き寄せた。
「お父様。エミリスを困らせるのはおやめください。板挟みになる彼女の乙女心がなぜわからないのですか。さあ、エミリス、もう、帰ろう」
(ちょっと痛いっつーの……本音をわかってないのは、ジョセフ様本人かもしれないけど)
王の執務室から、王太子に連れられて廊下に出たエミリスは、胸中は複雑だったものの、地獄の1時間を何とか脱せたので安堵した。
それからは、また、王太子と慰めのプレゼント(今度は、高級な香水)の代償で、今度は熱烈な、
「すきだ」
「愛してる」
「ぼくのそばにいろ」
のアプローチや抱擁の試練が待っていた。
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