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とんだ結婚
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エミリスは王太子妃となったものの、ジョセフ王太子との結婚生活は快活かといったら、とんでもない話だった。
もちろん、王太子が彼女を愛していないのでなく、彼は彼女のために欲しいものは何でも買い与えたし、楽しそうな場所にも連れていってくれる。
だが、子どもを早く産めだの、しきたりはどうだの、横やりやら、宮廷内のいざこざや社交儀礼にはうんざりしていた。
王太子妃として、気の置けない隣国との外遊も仕事だった。そばにはいつも騎士団の護衛役が付き添い、その中でも最強の剣士である騎士団長がいた。
なかなかの男前で、スタイル抜群だった。
今回、同行している王太子は、他国との会合に参加していて、エミリスは別の宿泊先に滞在していた。
今日は一日、ひさしぶりの自由時間で、夫とも会わないで済む日だった。
「エミリス様、今回の護衛役のライナスともうします。お見知りおきを」
片膝をつき、頭を垂れる彼の肌は色黒で、堀が深くて、つい、見とれてしまう。
「よろしく、ライナス騎士団長様」
と、握手してから、
「……どこかで、会ったことがあるかしら」と、首をかしげる。
ライナスは、目を輝かせて、
「わたしを覚えていますか。あの、ジョセフィーヌ公爵令嬢に雇われた、あの用心棒のことを」
「あ、あのときの、スリム体型の方でしたよね?」
「……そんなふうに覚えられていたのですか」
と、ライナスは苦笑いをする。
「ごめんなさい。ところで、親分さんはお元気?」
「達者です。もう年なので、今は前線から退いて、騎士団の補給など裏方仕事をしています」
「そう。なにより、元気で良かったわ。命を助けてくれていなかったら、今のわたしはいないものね」
「ですが、王太子妃様の顔は、いつもどこか浮かない顔をしています」
「ほんと? あなたには、そう見える?」
「ええ。あれから、ずっとお慕いしておりました。愛してました」
(あのう、アピール、遅いっつーの)
エミリスは、ふうとため息をつき、大窓から流れるちぎれ雲を眺めていたが、ふと、向き直り、
「だったら、わたしを殺してよ」
と、ライナスに向き直る。
「ご冗談はよしてください。まるで、あのときの覆面の盗賊みたいではないですか!」
「ちがうわよ。殺されたふり。正直なんだから」
エミリス嬢は、クスクス笑うと、
「計画は練ってあるのよ。どう? 乗ってくれません?」
と、ライナスに顔を近づけた。
「わたし、計画立てるのは得意なの、知っているでしょう?」
もちろん、王太子が彼女を愛していないのでなく、彼は彼女のために欲しいものは何でも買い与えたし、楽しそうな場所にも連れていってくれる。
だが、子どもを早く産めだの、しきたりはどうだの、横やりやら、宮廷内のいざこざや社交儀礼にはうんざりしていた。
王太子妃として、気の置けない隣国との外遊も仕事だった。そばにはいつも騎士団の護衛役が付き添い、その中でも最強の剣士である騎士団長がいた。
なかなかの男前で、スタイル抜群だった。
今回、同行している王太子は、他国との会合に参加していて、エミリスは別の宿泊先に滞在していた。
今日は一日、ひさしぶりの自由時間で、夫とも会わないで済む日だった。
「エミリス様、今回の護衛役のライナスともうします。お見知りおきを」
片膝をつき、頭を垂れる彼の肌は色黒で、堀が深くて、つい、見とれてしまう。
「よろしく、ライナス騎士団長様」
と、握手してから、
「……どこかで、会ったことがあるかしら」と、首をかしげる。
ライナスは、目を輝かせて、
「わたしを覚えていますか。あの、ジョセフィーヌ公爵令嬢に雇われた、あの用心棒のことを」
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