【完結】彼は皇帝なので、彼女は薬師として尽くすことにしました。

朝日みらい

文字の大きさ
2 / 40

2. 未知の存在 

しおりを挟む
アラクシウスが村に現れた理由はすぐにわかった。

病に苦しむ母親を助けるため、薬を探していたらしい。

そう、皇帝様にも母親がいるなんて、ちょっと驚きだった。

いや、そりゃいるだろうけど、何て言うか、あの威圧感からして母親とか家庭のイメージが湧かないっていうか。  

でも、それよりも衝撃的だったのは、村のみんなが彼を避けたことだ。

理由は、まあ…見た目だろう。

狼の耳に鋭い爪、圧倒的な存在感。そんな姿の彼を前にして、村の薬師たちはビクビクして何も言えなかった。  

「…お前らには頼まない。」  

彼が低い声で吐き捨てるように言ったとき、私は胸がズキンとした。

怒りや失望が滲んだ声で、あまりにも悲しそうに聞こえたからだ。  

気づいたら、私は動いていた。

薬草籠を手に取って、彼に歩み寄った。

いや、正直怖かった。

でも、それよりも胸の中で「放っておけない」って気持ちが勝った。  

「これ…使ってみてください。」  

そう言いながら、私は籠の中から薬草をひとつ取り出し、彼に差し出した。  

「君は…恐れないのか?」  

驚いたように目を見開くアラクシウス。

その表情が少しだけ可愛く見えたのは気のせいじゃない…と思う。  

「え?だって、あなた困ってるんでしょ?だったら、助けるのが普通じゃないですか。」  

自分でも驚くくらいあっさり言えた。

でも、彼の視線が私に固定された瞬間、急に恥ずかしくなってきて、視線を逸らした。  

「…普通、か。」  

彼は一瞬呟いて、それから薬草をじっと見つめた。

いや、そんな真剣に見るものでもないと思うけど…。  

「これをどうやって使う?」  

「あ、えっと、煎じてお湯にして、それから冷ましてから飲ませるといいです。それで症状が少しずつ和らぐと思います。」  

つい説明口調になっちゃうのは職業病みたいなものだ。

彼は黙って私の説明を聞きながら、小さく頷いた。  

そして、不意に私をじっと見つめる。  

「君は…変わっている。」  

「え?そうですか?」  

なんて言うか、褒められてるのか、呆れられてるのか、よくわからない。

でも、その言葉のあと、彼の口元が少しだけ緩んだ。  

「ありがとう、エリナ。」  

「えっ、名前覚えてるんですか!?」  

つい素直に驚いてしまった。

いや、昨日一応名乗ったけど、まさか皇帝様に覚えられるとは思わなかったんだもん!  

「覚えない理由がない。」  

そんな真面目に言わなくても…。

 私は慌てて顔を背けたけど、耳まで熱くなっているのが自分でもわかった。  

アラクシウスは私が差し出した薬草を丁寧に籠に戻して、馬に戻った。

その仕草が妙に慎重で、何て言うか…優しかった。  

「母の命に繋がる薬草だ。大切に使う。」  

「そ、そうですか。それならよかったです…。」  

私はぎこちなく返事をしたけど、彼の言葉には何だか胸がじんわりと暖かくなるようなものを感じた。  

それから彼は馬に乗り、振り返りもせずに村を去った。

でも、その背中がどこか柔らかく見えたのは私の気のせいじゃない。  

…いや、気のせいかもしれないけど。  

でもね、あの瞬間の彼の「ありがとう」の言葉だけは、どうしても忘れられない。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

処理中です...