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2. 未知の存在
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アラクシウスが村に現れた理由はすぐにわかった。
病に苦しむ母親を助けるため、薬を探していたらしい。
そう、皇帝様にも母親がいるなんて、ちょっと驚きだった。
いや、そりゃいるだろうけど、何て言うか、あの威圧感からして母親とか家庭のイメージが湧かないっていうか。
でも、それよりも衝撃的だったのは、村のみんなが彼を避けたことだ。
理由は、まあ…見た目だろう。
狼の耳に鋭い爪、圧倒的な存在感。そんな姿の彼を前にして、村の薬師たちはビクビクして何も言えなかった。
「…お前らには頼まない。」
彼が低い声で吐き捨てるように言ったとき、私は胸がズキンとした。
怒りや失望が滲んだ声で、あまりにも悲しそうに聞こえたからだ。
気づいたら、私は動いていた。
薬草籠を手に取って、彼に歩み寄った。
いや、正直怖かった。
でも、それよりも胸の中で「放っておけない」って気持ちが勝った。
「これ…使ってみてください。」
そう言いながら、私は籠の中から薬草をひとつ取り出し、彼に差し出した。
「君は…恐れないのか?」
驚いたように目を見開くアラクシウス。
その表情が少しだけ可愛く見えたのは気のせいじゃない…と思う。
「え?だって、あなた困ってるんでしょ?だったら、助けるのが普通じゃないですか。」
自分でも驚くくらいあっさり言えた。
でも、彼の視線が私に固定された瞬間、急に恥ずかしくなってきて、視線を逸らした。
「…普通、か。」
彼は一瞬呟いて、それから薬草をじっと見つめた。
いや、そんな真剣に見るものでもないと思うけど…。
「これをどうやって使う?」
「あ、えっと、煎じてお湯にして、それから冷ましてから飲ませるといいです。それで症状が少しずつ和らぐと思います。」
つい説明口調になっちゃうのは職業病みたいなものだ。
彼は黙って私の説明を聞きながら、小さく頷いた。
そして、不意に私をじっと見つめる。
「君は…変わっている。」
「え?そうですか?」
なんて言うか、褒められてるのか、呆れられてるのか、よくわからない。
でも、その言葉のあと、彼の口元が少しだけ緩んだ。
「ありがとう、エリナ。」
「えっ、名前覚えてるんですか!?」
つい素直に驚いてしまった。
いや、昨日一応名乗ったけど、まさか皇帝様に覚えられるとは思わなかったんだもん!
「覚えない理由がない。」
そんな真面目に言わなくても…。
私は慌てて顔を背けたけど、耳まで熱くなっているのが自分でもわかった。
アラクシウスは私が差し出した薬草を丁寧に籠に戻して、馬に戻った。
その仕草が妙に慎重で、何て言うか…優しかった。
「母の命に繋がる薬草だ。大切に使う。」
「そ、そうですか。それならよかったです…。」
私はぎこちなく返事をしたけど、彼の言葉には何だか胸がじんわりと暖かくなるようなものを感じた。
それから彼は馬に乗り、振り返りもせずに村を去った。
でも、その背中がどこか柔らかく見えたのは私の気のせいじゃない。
…いや、気のせいかもしれないけど。
でもね、あの瞬間の彼の「ありがとう」の言葉だけは、どうしても忘れられない。
病に苦しむ母親を助けるため、薬を探していたらしい。
そう、皇帝様にも母親がいるなんて、ちょっと驚きだった。
いや、そりゃいるだろうけど、何て言うか、あの威圧感からして母親とか家庭のイメージが湧かないっていうか。
でも、それよりも衝撃的だったのは、村のみんなが彼を避けたことだ。
理由は、まあ…見た目だろう。
狼の耳に鋭い爪、圧倒的な存在感。そんな姿の彼を前にして、村の薬師たちはビクビクして何も言えなかった。
「…お前らには頼まない。」
彼が低い声で吐き捨てるように言ったとき、私は胸がズキンとした。
怒りや失望が滲んだ声で、あまりにも悲しそうに聞こえたからだ。
気づいたら、私は動いていた。
薬草籠を手に取って、彼に歩み寄った。
いや、正直怖かった。
でも、それよりも胸の中で「放っておけない」って気持ちが勝った。
「これ…使ってみてください。」
そう言いながら、私は籠の中から薬草をひとつ取り出し、彼に差し出した。
「君は…恐れないのか?」
驚いたように目を見開くアラクシウス。
その表情が少しだけ可愛く見えたのは気のせいじゃない…と思う。
「え?だって、あなた困ってるんでしょ?だったら、助けるのが普通じゃないですか。」
自分でも驚くくらいあっさり言えた。
でも、彼の視線が私に固定された瞬間、急に恥ずかしくなってきて、視線を逸らした。
「…普通、か。」
彼は一瞬呟いて、それから薬草をじっと見つめた。
いや、そんな真剣に見るものでもないと思うけど…。
「これをどうやって使う?」
「あ、えっと、煎じてお湯にして、それから冷ましてから飲ませるといいです。それで症状が少しずつ和らぐと思います。」
つい説明口調になっちゃうのは職業病みたいなものだ。
彼は黙って私の説明を聞きながら、小さく頷いた。
そして、不意に私をじっと見つめる。
「君は…変わっている。」
「え?そうですか?」
なんて言うか、褒められてるのか、呆れられてるのか、よくわからない。
でも、その言葉のあと、彼の口元が少しだけ緩んだ。
「ありがとう、エリナ。」
「えっ、名前覚えてるんですか!?」
つい素直に驚いてしまった。
いや、昨日一応名乗ったけど、まさか皇帝様に覚えられるとは思わなかったんだもん!
「覚えない理由がない。」
そんな真面目に言わなくても…。
私は慌てて顔を背けたけど、耳まで熱くなっているのが自分でもわかった。
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その仕草が妙に慎重で、何て言うか…優しかった。
「母の命に繋がる薬草だ。大切に使う。」
「そ、そうですか。それならよかったです…。」
私はぎこちなく返事をしたけど、彼の言葉には何だか胸がじんわりと暖かくなるようなものを感じた。
それから彼は馬に乗り、振り返りもせずに村を去った。
でも、その背中がどこか柔らかく見えたのは私の気のせいじゃない。
…いや、気のせいかもしれないけど。
でもね、あの瞬間の彼の「ありがとう」の言葉だけは、どうしても忘れられない。
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