【完結】彼は皇帝なので、彼女は薬師として尽くすことにしました。

朝日みらい

文字の大きさ
4 / 40

4. 誤解と距離

しおりを挟む
あの日から、アラクシウスは何度も私の家を訪れるようになった。

理由は毎回「お前の薬草の使い方を学びたい」とか「帝国のために知識を得る必要がある」とか、もっともらしいことを言うけれど、実際のところただお茶を飲みに来ているようにしか見えない。  

「エリナ、今日の茶菓子は何だ?」  

玄関の扉を開けた瞬間、いつもの低い声が響いて、私は思わずため息をつく。

彼は、皇帝という肩書に似合わず、妙にくだけた態度で私に接してくるのだ。

それが厄介でもあり、ちょっと…いや、かなり心が揺れる原因でもあった。  

「今日はハーブクッキーですけど…皇帝様、自分の仕事は大丈夫なんですか?」  

「仕事は山積みだが、俺には優先すべきことがある。」  

「それがここに来ることなんですか?」  

「そうだ。お前に会うことが最優先だ。」  

さらっとそんなことを言われて、私は言葉を失った。

いつも彼は冗談なのか本気なのかわからないようなことを言って、私を翻弄する。

そんな顔で見つめないでほしい。

心臓がもたない。  

「…あの、もう少し控えめにしてください。私、普通の薬師なんで、そういうの慣れてないんです。」  

「控えめに?俺が?」  

彼は一瞬考えるふりをして、にやりと笑った。

その笑顔が反則的にかっこよくて、私の顔は熱くなる一方だった。  

「なら、お前が慣れるまで毎日通うとしよう。」  

「ちょっと待ってください!そんな必要ありませんから!」  

必死に否定する私を見て、彼は楽しそうに笑う。

その無邪気な笑い声に、私はますます混乱した。  

でも、本当に困るのは、その後だった。

彼が帰った後の静かな時間、どうしても彼の顔が頭から離れないのだ。

あの金色の瞳や低い声、時折見せる優しい表情…全部が、私の心を揺さぶる。  

「私…どうしちゃったんだろう。」  

一人つぶやいて、ため息をつく。

彼に対して感じるこの気持ちは、ただの友情?

それともそれ以上のもの?

自分でもわからなくて、もどかしい。  


そんなある日、彼がまた現れた。

今回は、村の外れで採取した珍しい薬草を手に持っていた。  

「エリナ、これは使えるか?」  

「わあ…こんな珍しい薬草、どうやって見つけたんですか?」  

「お前のために探した。」  

またさらっとそんなことを言って、私は動揺を隠すのに必死だった。

でも、その時ふと、彼の手に小さな傷があるのに気づいた。  

「ちょっと!こんな傷作ってまで探さなくてもいいのに!」  

彼の手を取って見ると、彼は少しだけ驚いたように目を見開いた。  

「そんなに気にするな。俺には大したことじゃない。」  

「大したことありますよ!ちゃんと消毒しないと!」  

私は慌てて薬箱を取り出し、彼の手に薬を塗りながら、なぜか胸がざわつくのを感じていた。

こんな風に彼と触れ合うのは初めてで、その距離の近さに気づくと、ますます動揺してしまう。  

「エリナ、お前の顔が真っ赤だぞ。」  

「そ、そんなことないです!」  

必死に否定するけれど、彼は私の顔をじっと見つめてくる。

その視線に耐えられなくて、私は目をそらした。  

「…お前がそんな風に俺を気にしてくれるのは、悪い気がしないな。」  

「だから、そういうこと言わないでくださいってば!」  

どうして彼は、いつもこんなに簡単に私を混乱させるんだろう。

心臓がバクバクするのを抑えながら、私は彼から少し距離を取ろうとした。

でも、彼の手が私の手をそっと引き止めた。  

「エリナ、お前が俺を避ける理由が何かあるなら教えてくれ。」  

その真剣な声に、私は思わず言葉を詰まらせた。

彼にどう答えればいいのかわからない。

ただ、胸の中に芽生えたこの感情が、友情だけではないことに気づき始めていた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...