【完結】彼は皇帝なので、彼女は薬師として尽くすことにしました。

朝日みらい

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5. 初恋の兆し

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その日、アラクシウスが私の家を訪れたのは夕方のことだった。

いつものように扉を開けると、彼はなぜか少し憂いを帯びた表情をしていた。  

「何かあったんですか?」  

私は尋ねたけれど、彼は答えずに、静かに家の中に入ってきた。

そして、いつもの席に座り、何か考え込むように目を伏せた。

珍しい。

彼がこんなに静かでいるなんて。  

「…エリナ。」  

名前を呼ばれ、私はちょっとびっくりする。

いつも軽口を叩く彼が、今日はなぜか真剣だったからだ。  

「どうしたんですか?」  

「俺の話を聞いてくれないか。」  

その声はどこか遠くを見つめるような響きで、私は静かにうなずいた。  

「昔、俺には愛した人がいた。」  

その言葉に、一瞬息が止まる。

愛した人?

そういう話をするつもりだったの?

私はなぜか胸の奥がズキンと痛むのを感じた。  

「彼女は、美しくて優しかった。だが、俺の血筋を知った途端、俺を恐れて去っていった。」  

アラクシウスの目は悲しげに揺れていた。

私は、何と声をかければいいのかわからなくて、ただ黙って彼を見つめた。  

「その時、俺は思ったんだ。俺は誰かを愛してはいけないんだって。愛することは、ただ傷つくだけなんだって。」  

その言葉に、私は思わず拳を握りしめてしまった。  

「でも…それは違います!」  

自分の声の大きさに驚きながらも、私は続けた。  

「誰かを愛することが悪いなんて、そんなの間違ってます。たとえ傷つくことがあっても、それでも…その瞬間の幸せや温かさは、本物のはずです。」  

私の言葉に、アラクシウスはゆっくりと顔を上げた。

その金色の瞳がまっすぐ私を見つめてきて、思わず心臓が跳ねた。  

「…エリナ、お前は強いな。」  

「そ、そんなことないですよ。ただ、私はそう思うだけで…。」  

視線をそらそうとしても、彼の目が離れない。

その熱い視線に、私は顔がどんどん赤くなっていくのを感じた。  

「エリナ、お前といると、俺は少しずつ変わっていく気がする。」  

「変わる…って?」  

「また誰かを信じたいと思えるようになった。そして…また誰かを愛してもいいのかもしれない、と。」  

その言葉に、私の胸はドキリと大きく鳴った。

彼がそんな風に話してくれるなんて、まるで夢みたいだった。

でも、それと同時に、自分の心の中で何かが芽生え始めているのを感じた。  

これって…恋?  

自分でもわからない。

でも、彼の言葉や仕草が、こんなにも私の心を揺さぶるなんて。  

「アラクシウス…それなら、私が証明しますよ。」  

「証明?」  

「誰かを愛することが、素晴らしいことだって。」  

私は恥ずかしさを紛らわすように笑ってみせたけど、彼はそれを見て小さく微笑んだ。

その微笑みが、胸の奥をじんわりと温める。  

「エリナ、お前は…本当に不思議なやつだな。」  

彼がそう言って、私の髪をそっと撫でた時、私の顔はもう茹で上がったように熱くなっていた。  

「あ、あの!それ、やめてください!」  

「どうしてだ?俺はただ感謝を伝えてるだけだぞ。」  

「そういう問題じゃなくて…!」  

彼の手を振り払おうとするけど、どこか嬉しい気持ちが混ざってしまう。

これ以上、こんな気持ちを持て余すのは困るのに。  

でも、彼の笑顔を見た時、私は少しだけこう思ってしまった。  

――もしかしたら、この気持ちをもっと知りたいって。  
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