【完結】彼は皇帝なので、彼女は薬師として尽くすことにしました。

朝日みらい

文字の大きさ
25 / 40

25. 試練の再来 

しおりを挟む
「またか…」

目の前に広がる情勢の報告書を見つめながら、私はため息をついた。

アラクシウスが帰還してからしばらく平和だったのに、どうしてこうも簡単に不安定になってしまうのだろう。

隣国との対立が激化し、再び戦の兆しが見え始めていた。

帝国の未来がまた一度、戦争によって脅かされるなんて、私は信じたくなかった。

アラクシウスが兵の指揮をとることになるだろう、という話はすぐに聞こえてきた。

彼が戦場に出るという事実が、私の心に重くのしかかる。

「エリナ。」

呼ばれて顔を上げると、アラクシウスが立っていた。

彼の顔は真剣そのもので、少し険しい表情をしている。

「心配か?」

彼は私の気持ちをお見通しのようだ。私は小さく頷く。

「うん…だって、また戦争なんて、怖いよ。」

アラクシウスは少しだけ優しく笑い、私の手を取って優しく握った。

「大丈夫だ。今回は、お前を守るためにも、早く終わらせる。」

その言葉が、私にはどうしても信じきれなかった。

確かに、彼は強い。

でも、私の心の中で感じる不安が、どうしても拭えない。

「でも、またあなたが戦場に行くと思うと、心が痛む…」

「俺もだよ。お前のことを思うと、行きたくない。でも、帝国のため、そしてお前のためにも、行かなきゃならない。」

アラクシウスは私の目を見つめ、少し強く手を握った。

「お前がいるから、戦う意味がある。だから、お前も心配しないでほしい。」

その言葉に、私は思わず涙がこぼれそうになる。

アラクシウスは、どんなに強くても、私を守るために戦ってくれている。

そんな彼に、私はどうしても頼りたくなってしまう。

「アラクシウス…」

私は思わず彼に身を寄せ、彼の胸に顔を埋めた。

「帰ってきてね。絶対に。」

アラクシウスは少し驚いたように息を飲んだが、すぐに私を優しく抱きしめてくれた。

「心配すんなって。お前が待ってるから、必ず戻る。」

その言葉が、私にとっては唯一の希望だ。

私は少しだけ心が軽くなった気がした。

でも、やっぱり不安は消えない。戦場に行けば、何が起こるか分からない。

何度もそのことを思い出しては、胸が締め付けられる。

「でも、少しだけでも長く一緒にいたいな…」

アラクシウスがふっと笑って、私の髪を撫でた。

「そんなに急かせるなよ。お前と一緒にいると、時間が止まったように感じるんだから。」

その言葉に、私は顔を赤らめる。

アラクシウスは、いつも私を甘やかすように優しい言葉をくれる。

時々、その甘さに甘えてしまう自分が恥ずかしい。

「でも、あなたが行くのは嫌だよ…」

「分かってるよ。でも、俺が帰ってきたら、また一緒に過ごせるだろ? それを楽しみにしてるよ。」

「うん…」

私は、彼の手を握りしめ、再び涙がこぼれそうになった。

戦争は本当に恐ろしい。

でも、アラクシウスが帰ってくるなら、どんなに待っても大丈夫だと思える。

「じゃあ、行ってくる。」

彼が軽く言ったその言葉に、私は一度深呼吸をして、もう一度頷いた。

「気をつけて。必ず帰ってきてね。」

アラクシウスは一瞬だけ真剣な表情をしてから、また少し笑顔を見せて、私に軽くキスをした。

「お前が待ってるから、絶対に帰るよ。」

その言葉に、私はただ無言で頷き、彼の手をしっかりと握りしめた。

戦場に行く彼を送り出すのは辛いけれど、彼が無事に帰ってくることを心から信じて、私はこの時を乗り越える覚悟を決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

処理中です...