【完結】余命一年と告げられた聖女は、冷酷公爵の愛に溺れる

朝日みらい

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第4章「淡い約束と初めての笑顔」

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 朝の庭園は、まだ空気が少し冷たくて。

けれど白薔薇が咲き始める季節には、どこか凛とした気配が漂うのです。

 ベンチに腰掛けながら、私は白い花々を見つめていました。

 綻び始めた花びらが風に揺れて、そのやさしい波打ちに心が静まってゆくようで……気づけばぽつりと、独り言のように呟いていました。

「父は……私を、愛していなかったのかもしれません」

 本当は聞いてほしくない言葉。

けれど、誰かに届いてしまったなら、それでもいいと思ったのかもしれません。

 ――届きました。

「違う」

 ライナルト様の低くやさしい声が、隣から返ってきました。

「君が愛されたかどうかなんて、他人が決めることじゃない。君は、君の人生を生きろ」

 その言葉が、胸にまっすぐに入ってきました。

 ……人生を、生きる。

 わたしにはその選択肢が、残されているのでしょうか。

 彼は、そっと花束を手渡してくれました。

白薔薇――一本だけ。

茎はまっすぐで、花は誇らしげに開いていて。

「……こんなに綺麗なのに、命は短いんですって。咲いたと思ったら、すぐに散ってしまう」

「だからこそ、咲いた瞬間が大切なんだ」

 見上げれば、彼の瞳はまるで陽光のような色をしていました。

 その言葉に、胸の奥がじんと熱くなって。

気づけば、小さな笑みがこぼれていました。

 ……笑っている。私が?

「君は死なない。必ず、俺が助ける」

 その言葉が、まるで誓いのように響いて。

 わたしは、初めて素直な声で返すことができました。

「……ありがとう。公爵様」

 

 その夜、侍女がそっと話しかけてきました。

「セリーヌ様、今日初めて……微笑まれましたね」

 思わず頬が熱くなるのを感じながら、枕に顔を埋めました。

 恋ではない。希望。

 それでも、彼の言葉ひとつで、世界は少しだけ明るくなった気がする。

 

 ――小さな約束。

それは大きな希望への始まりだったのです。
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