【完結】余命一年と告げられた聖女は、冷酷公爵の愛に溺れる

朝日みらい

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第5章「花の祝祭と告白」

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 春の訪れを告げる花祭りの日。

 王都中が花々の香りに包まれ、人々は色とりどりの衣を纏い、通りには音楽と笑い声が満ちていました。

 わたしも、その空気に溶け込むように、軽やかなドレスに袖を通していました。

淡い藤色の布地は、公爵邸の侍女が祭りに合わせて仕立ててくれたものです。

「とてもよくお似合いです、セリーヌ様」

 照れくささを隠すように微笑んでいると、隣から聞き慣れた声が――。

「歩けそうか?」

 振り向けば、ライナルト様が立っていました。

 彼はいつも通り黒を基調とした礼装に身を包んでいて、それなのにどこか柔らかな空気を纏っていました。

春の陽射しのせいでしょうか。それとも――。

「ええ、今日は少し調子がいいみたいです」

 そう答えると、彼の瞳が少しだけ揺れたのが見えました。

「無理はするな。君の体が、今どれだけ……」

「でも、少しくらい笑いたいんです。街の人たちみたいに。あなたと一緒に」

 その瞬間、彼はほんの少し、目を伏せてからゆっくりと頷きました。

 

 祭りの広場では、花びらが舞い、人々が踊り、喜びを分かち合っていました。

 でも、その華やかさの中で、わたしの体は静かに限界を迎えていたのです。

 頭がぐらりと揺れて、胸がきゅっと締め付けられました。

 そして――。

「セリーヌ……っ!」

 気づいたときには、ライナルト様の腕の中でした。

顔をゆがめるほど必死な表情で、彼がわたしを抱きかかえ、人混みをかき分けて進む様子が、朧げな意識の中でも伝わってきました。

「道を開けろ、医師を呼べ!」

 屋敷へ戻る馬車の中で、彼は無言でした。わたしの手をぎゅっと握りながら、唇を強く噛みしめていました。

 そして、静かな怒りの中で絞り出すような声で言ったのです。

「お前をこんな目に遭わせた父親を、俺は決して許さない」

 それは、まっすぐな怒りでした。

 でも、その後に続いた言葉は――。

「……愛してる。君がいないと、俺は……もう、生きていけない」

 それは、理性も立場も全てを投げ捨てて、魂の底からぶつけるような告白でした。

 わたしは息を呑みました。

 こんなにも真っ直ぐな感情をぶつけられたことなど、かつてなかったのです。

「わたしは……」

 でも、答えを言えませんでした。身体が痛くて、心が揺れて、頭がまっしろで。

 ただ、彼の手を握り返すことだけは、できました。
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