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第7章: 宮廷の罠
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ヴァルトハイムの宮廷生活。
正直、これが「新しい人生の幕開け」だなんて言えたもんじゃない。
派手な衣装を纏い、飾られた言葉で会話をする貴族たちの中にいると、まるで別世界に迷い込んだような気分になる。
でも、何より私を困らせるのは、彼らの「好奇心」と「敵意」だ。
「まあ、アリシア様。この色のドレス、お似合いですわ。とても…新鮮な選択で」
一見褒めているように聞こえるが、その微笑みの裏には鋭い棘が隠されている。
こういう嫌味の応酬は日常茶飯事だ。
でも、毅然としていれば大丈夫。
笑顔を絶やさず、言葉に込められた毒を正面から受け止めないようにするコツを学びつつある。
とはいえ、特に厄介なのが侯爵令嬢ミレーユ。彼女は一歩も引かない。
ある日の舞踏会。
私はレースのついた薄青色のドレスを纏い、できるだけ周囲に溶け込むように静かに立っていた。
すると、どこからともなくミレーユが近づいてきた。
「アリシア様、お久しぶりですわね。今日は特にお美しいですこと!」
ああ、まただ。
美しいと言いながら、目はまるで値踏みをするかのように私を見ている。
「ミレーユ様も、とても華やかで素敵です。まるで宮廷の花のようですわ」
私が微笑んで返すと、彼女は少し眉をひそめた。
それがほんのわずかだったとしても、私の中で小さな勝利感が湧いた。
その後、彼女は私の隣でダンスを踊るフリをしながら、わざと長いドレスの裾を私の足元に引っ掛けてきた。
結果?
見事に私は転びかけた。
「きゃっ!」
とっさに椅子の背に手をついて立て直したものの、会場は一瞬ざわついた。
「まあ、大丈夫ですの?」
ミレーユが心配そうな顔を装って言う。
だが、その唇の端が微かに歪むのを私は見逃さなかった。
「ええ、もちろん。少しバランスを崩しただけですわ。お気遣いありがとうございます、ミレーユ様」
毅然と答えた私に、彼女は何か言い返そうとしたが、その時、低く響く声が割って入った。
「アリシア、踊る気がないなら、こちらへ来い」
振り向くと、そこにはレオニードが立っていた。
彼は相変わらず冷たい表情だったけれど、少しだけ目元が険しかった気がする。
私は一瞬戸惑ったものの、彼に手を引かれるままその場を離れた。
「どうしてあそこにいた?ああいう場所で目立つのは得策ではない」
レオニードは少し眉をひそめて私を見下ろした。
「目立とうとしたわけではありません。ただ、あの場にいることも私の役目ですから」
「役目だと?」
彼は少しだけ目を細めた。
「はい。どんなに嫌味を言われても、転ばされそうになっても、私はこの地で役目を果たすと決めています。それが王女としての務めですから」
私が言い切ると、彼の瞳が僅かに揺れたように見えた。
「…君は強いんだな」
それが褒め言葉なのか、それともただの感想なのか分からない。
でも、彼の声はどこか柔らかかった。
それからもミレーユの嫌がらせは続いた。
たとえば、飲み物を私のドレスに「うっかり」こぼすとか。
でも、その度に私は毅然と対応した。
時には侍女たちの助けを借りながら、それでも負けるものかと歯を食いしばった。
そして気づけば、彼の瞳が私を見ている時間が増えていた。
彼は相変わらず冷たく無関心を装っているけれど、私は知っている。
彼が陰から私を見守っていることを。
…まるで、私がどれだけ耐えられるのか試しているように。
でも、その試練を超える度に、彼との距離がほんの少しずつ縮まっている気がする。
いや、そう信じたいだけかもしれないけれど――。
正直、これが「新しい人生の幕開け」だなんて言えたもんじゃない。
派手な衣装を纏い、飾られた言葉で会話をする貴族たちの中にいると、まるで別世界に迷い込んだような気分になる。
でも、何より私を困らせるのは、彼らの「好奇心」と「敵意」だ。
「まあ、アリシア様。この色のドレス、お似合いですわ。とても…新鮮な選択で」
一見褒めているように聞こえるが、その微笑みの裏には鋭い棘が隠されている。
こういう嫌味の応酬は日常茶飯事だ。
でも、毅然としていれば大丈夫。
笑顔を絶やさず、言葉に込められた毒を正面から受け止めないようにするコツを学びつつある。
とはいえ、特に厄介なのが侯爵令嬢ミレーユ。彼女は一歩も引かない。
ある日の舞踏会。
私はレースのついた薄青色のドレスを纏い、できるだけ周囲に溶け込むように静かに立っていた。
すると、どこからともなくミレーユが近づいてきた。
「アリシア様、お久しぶりですわね。今日は特にお美しいですこと!」
ああ、まただ。
美しいと言いながら、目はまるで値踏みをするかのように私を見ている。
「ミレーユ様も、とても華やかで素敵です。まるで宮廷の花のようですわ」
私が微笑んで返すと、彼女は少し眉をひそめた。
それがほんのわずかだったとしても、私の中で小さな勝利感が湧いた。
その後、彼女は私の隣でダンスを踊るフリをしながら、わざと長いドレスの裾を私の足元に引っ掛けてきた。
結果?
見事に私は転びかけた。
「きゃっ!」
とっさに椅子の背に手をついて立て直したものの、会場は一瞬ざわついた。
「まあ、大丈夫ですの?」
ミレーユが心配そうな顔を装って言う。
だが、その唇の端が微かに歪むのを私は見逃さなかった。
「ええ、もちろん。少しバランスを崩しただけですわ。お気遣いありがとうございます、ミレーユ様」
毅然と答えた私に、彼女は何か言い返そうとしたが、その時、低く響く声が割って入った。
「アリシア、踊る気がないなら、こちらへ来い」
振り向くと、そこにはレオニードが立っていた。
彼は相変わらず冷たい表情だったけれど、少しだけ目元が険しかった気がする。
私は一瞬戸惑ったものの、彼に手を引かれるままその場を離れた。
「どうしてあそこにいた?ああいう場所で目立つのは得策ではない」
レオニードは少し眉をひそめて私を見下ろした。
「目立とうとしたわけではありません。ただ、あの場にいることも私の役目ですから」
「役目だと?」
彼は少しだけ目を細めた。
「はい。どんなに嫌味を言われても、転ばされそうになっても、私はこの地で役目を果たすと決めています。それが王女としての務めですから」
私が言い切ると、彼の瞳が僅かに揺れたように見えた。
「…君は強いんだな」
それが褒め言葉なのか、それともただの感想なのか分からない。
でも、彼の声はどこか柔らかかった。
それからもミレーユの嫌がらせは続いた。
たとえば、飲み物を私のドレスに「うっかり」こぼすとか。
でも、その度に私は毅然と対応した。
時には侍女たちの助けを借りながら、それでも負けるものかと歯を食いしばった。
そして気づけば、彼の瞳が私を見ている時間が増えていた。
彼は相変わらず冷たく無関心を装っているけれど、私は知っている。
彼が陰から私を見守っていることを。
…まるで、私がどれだけ耐えられるのか試しているように。
でも、その試練を超える度に、彼との距離がほんの少しずつ縮まっている気がする。
いや、そう信じたいだけかもしれないけれど――。
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