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第5章 「風の庭で、手を取る日」
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辺境の離宮を揺らした春の嵐は、一夜にして過ぎ去りました。
翌朝、わたくし――セレーネが目を覚ますと、窓の外にはまるで記憶を塗り替えるような静かな青空が広がっていました。湖面は鏡のように穏やかで、朝日を受けた水面のきらめきが部屋いっぱいに反射しています。
「セレーネ嬢、おはようございます。よく眠れましたか?」
リオさまは、暖炉脇の小さな卓で朝食の支度をしながら微笑みかけてくださいました。
嵐の夜に、お互いの愛を静かに確かめ合い――わたしたちは、言葉よりも深く、ひとつ心を重ねたのです。
「はい。リオさまの隣でしたので、どのような嵐も怖くはありませんでした」
頬が少し熱を帯びるのを感じながら、わたしは彼の頬をそっと指先で撫でました。
リオさまの頬も、ほんのりと温かい色を帯びています。
「その笑顔……王宮での氷の表情とは、雲泥の差ですね」
そう囁き、彼はわたしの手に唇を触れさせました。
***
朝食を終えると、わたしたちは嵐を越えた庭へと向かいました。
「庭は無事でしょうか……せっかく耕した土が」
わたしの不安を聞き、リオさまは力強く頷きます。
「大丈夫です。貴女が丁寧に耕し、俺が固めた土です。私たちの愛は、嵐ごときに負けません」
花壇の前に立った瞬間――わたしは目を見開きました。
確かに一部の土は流されていましたが、花壇の形はしっかりと残っていたのです。
そして、その中に……鮮やかな命の兆しが。
「リオさま……見てください!」
つややかな緑の芽が、小さな体で空に向かって伸びていました。
「これは……アリアの芽だ!」
リオさまの声には驚きと喜びが混ざっていました。
母から受け継いだ、“解放”を意味する花。荒れた庭の土に根付き、嵐を乗り越えて芽吹いた――その小さな存在が、わたしの胸を震わせます。
「……生きていてくれた」
そっと指先を触れると、温かな涙が頬を伝いました。それは、悲しみではなく再生の喜び。
***
「セレーネ、泣かないで」
リオさまは、わたしを抱き寄せ、穏やかな声で告げました。
「これは、貴女がここで生きると決めた証。新しい人生の象徴です」
胸が熱くなり、わたしは素直に言いました。
「ありがとう、リオさま……貴方がいてくださって、よかった」
リオさまはわたしの髪を撫で、笑みを浮かべます。
「この芽のためにも、もっと仲間を増やしましょう。今日こそ、庭を完成させる日です」
二人で嵐の痕を整えながら、種や球根を植え、花壇を広げていきました。
侯爵令嬢であった頃の誇りなど、この瞬間には一欠片もありません。あるのは、この場所を愛で満たすという情熱だけ。
数時間後、手も頬もすっかり泥にまみれた頃――リオさまが、静かにわたしの前に跪きました。
「リオさま?」
彼は、わたしの汚れた指先を両手で包み込み、真剣な眼差しを向けます。
「セレーネ。貴女はもう誰かの影を歩く必要はない。自分の意志を貫く、その強さを俺は誇りに思う」
まるで宝石のように大切にわたしの手を扱い、指先にそっと口付けを落としました。
「愛しています。俺とこの庭で、夫婦として共に歩んでいただけませんか?」
胸がいっぱいになり、笑顔が自然にあふれました。
「はい、リオさま。わたくしも心から、貴方を愛しています」
***
わたしたちは泥まみれのまま抱き合い、互いの誓いを刻むように唇を重ねました。
それは“夫婦となる約束”――愛の結実を告げる一瞬でした。
作業の合間に、リオさまが湖畔で摘んだ小さな野花を、アリアの芽の隣に植えてくれます。
「この花は、貴女の笑顔に似ています。素朴で、けれど誰よりも美しい」
庭の中央には、彼が持ってきた若木を一緒に植えました。
「これは“忠誠”の木。俺が貴女に尽くすと誓う証です」
「わたくしも、この木にわたしの誓いを託します」
こうして植えられた若木と芽吹いたアリアは、わたくしたちのこれからを見守る象徴になりました。
***
夜、更けゆく離宮で暖炉の火を前に、わたしは小さく問いかけました。
「リオさま……また王都から使者が来たら?」
「来ませんよ。王宮は自らの混乱に溺れています。それに――彼らが何を言おうと、この庭と愛は壊せない」
「はい。わたくしの居場所は、もう王宮ではありません。このリオさまの隣です」
「俺は今、世界一幸せな男ですよ、セレーネ」
再び重ねられた唇の温もりは、嵐の後の澄み切った青空のように清らかで、確かなものでした。
***
数週間後、アリアの芽は更に大きく育ち、庭は彩りを帯び始めます。
リオさまは旅を終え、正式にこの離宮で伴侶として暮らすことを選びました。
村人たちは、わたしたちをただの“静かな庭師夫婦”として受け入れ、過去の悪評を知る者はいません。
ある日、湖畔で見つけた小石を磨き、木の枝に埋め込んだ手作りの指輪をリオさまが差し出しました。
「俺の正式な誓いの証です。受け取ってくれますか?」
「世界で一番美しい指輪です!」
そう告げて指輪を受け取りました。
翌朝、わたくし――セレーネが目を覚ますと、窓の外にはまるで記憶を塗り替えるような静かな青空が広がっていました。湖面は鏡のように穏やかで、朝日を受けた水面のきらめきが部屋いっぱいに反射しています。
「セレーネ嬢、おはようございます。よく眠れましたか?」
リオさまは、暖炉脇の小さな卓で朝食の支度をしながら微笑みかけてくださいました。
嵐の夜に、お互いの愛を静かに確かめ合い――わたしたちは、言葉よりも深く、ひとつ心を重ねたのです。
「はい。リオさまの隣でしたので、どのような嵐も怖くはありませんでした」
頬が少し熱を帯びるのを感じながら、わたしは彼の頬をそっと指先で撫でました。
リオさまの頬も、ほんのりと温かい色を帯びています。
「その笑顔……王宮での氷の表情とは、雲泥の差ですね」
そう囁き、彼はわたしの手に唇を触れさせました。
***
朝食を終えると、わたしたちは嵐を越えた庭へと向かいました。
「庭は無事でしょうか……せっかく耕した土が」
わたしの不安を聞き、リオさまは力強く頷きます。
「大丈夫です。貴女が丁寧に耕し、俺が固めた土です。私たちの愛は、嵐ごときに負けません」
花壇の前に立った瞬間――わたしは目を見開きました。
確かに一部の土は流されていましたが、花壇の形はしっかりと残っていたのです。
そして、その中に……鮮やかな命の兆しが。
「リオさま……見てください!」
つややかな緑の芽が、小さな体で空に向かって伸びていました。
「これは……アリアの芽だ!」
リオさまの声には驚きと喜びが混ざっていました。
母から受け継いだ、“解放”を意味する花。荒れた庭の土に根付き、嵐を乗り越えて芽吹いた――その小さな存在が、わたしの胸を震わせます。
「……生きていてくれた」
そっと指先を触れると、温かな涙が頬を伝いました。それは、悲しみではなく再生の喜び。
***
「セレーネ、泣かないで」
リオさまは、わたしを抱き寄せ、穏やかな声で告げました。
「これは、貴女がここで生きると決めた証。新しい人生の象徴です」
胸が熱くなり、わたしは素直に言いました。
「ありがとう、リオさま……貴方がいてくださって、よかった」
リオさまはわたしの髪を撫で、笑みを浮かべます。
「この芽のためにも、もっと仲間を増やしましょう。今日こそ、庭を完成させる日です」
二人で嵐の痕を整えながら、種や球根を植え、花壇を広げていきました。
侯爵令嬢であった頃の誇りなど、この瞬間には一欠片もありません。あるのは、この場所を愛で満たすという情熱だけ。
数時間後、手も頬もすっかり泥にまみれた頃――リオさまが、静かにわたしの前に跪きました。
「リオさま?」
彼は、わたしの汚れた指先を両手で包み込み、真剣な眼差しを向けます。
「セレーネ。貴女はもう誰かの影を歩く必要はない。自分の意志を貫く、その強さを俺は誇りに思う」
まるで宝石のように大切にわたしの手を扱い、指先にそっと口付けを落としました。
「愛しています。俺とこの庭で、夫婦として共に歩んでいただけませんか?」
胸がいっぱいになり、笑顔が自然にあふれました。
「はい、リオさま。わたくしも心から、貴方を愛しています」
***
わたしたちは泥まみれのまま抱き合い、互いの誓いを刻むように唇を重ねました。
それは“夫婦となる約束”――愛の結実を告げる一瞬でした。
作業の合間に、リオさまが湖畔で摘んだ小さな野花を、アリアの芽の隣に植えてくれます。
「この花は、貴女の笑顔に似ています。素朴で、けれど誰よりも美しい」
庭の中央には、彼が持ってきた若木を一緒に植えました。
「これは“忠誠”の木。俺が貴女に尽くすと誓う証です」
「わたくしも、この木にわたしの誓いを託します」
こうして植えられた若木と芽吹いたアリアは、わたくしたちのこれからを見守る象徴になりました。
***
夜、更けゆく離宮で暖炉の火を前に、わたしは小さく問いかけました。
「リオさま……また王都から使者が来たら?」
「来ませんよ。王宮は自らの混乱に溺れています。それに――彼らが何を言おうと、この庭と愛は壊せない」
「はい。わたくしの居場所は、もう王宮ではありません。このリオさまの隣です」
「俺は今、世界一幸せな男ですよ、セレーネ」
再び重ねられた唇の温もりは、嵐の後の澄み切った青空のように清らかで、確かなものでした。
***
数週間後、アリアの芽は更に大きく育ち、庭は彩りを帯び始めます。
リオさまは旅を終え、正式にこの離宮で伴侶として暮らすことを選びました。
村人たちは、わたしたちをただの“静かな庭師夫婦”として受け入れ、過去の悪評を知る者はいません。
ある日、湖畔で見つけた小石を磨き、木の枝に埋め込んだ手作りの指輪をリオさまが差し出しました。
「俺の正式な誓いの証です。受け取ってくれますか?」
「世界で一番美しい指輪です!」
そう告げて指輪を受け取りました。
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