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それから、わたしは子爵様の屋敷の離れに泊まりながら、朝から日暮れまで、広い庭園の手入れをしました。
剪定されてこなかった草木は伸び放題になっていました。雑草は生えに生え、せっかく植えてあった、かつての季節の花々を痛め、あるいは枯らしてしまっていました。
それでも、わたしは帽子を被り、強い陽射しの中、汗をかきながら、せっせと草の根を抜き、枝を剪定ばさみやノコギリなどで刈り込んでいったのです。
ハリエットさんは、感じはよくないし、ぶっきらぼうな態度なのは変わらずです。
でも、管理人のベンさんや、家畜の世話役のアルベルトさんを紹介してくれましたし、ふたりはとても気のよいおじいさまなので、いっしょに荷物を運んでくれたり、焼却してくれたり、とても助かりました。
子爵様は自宅から外には出ずに、ピアノを弾いたり、リビングで物書きをしたりして、過ごしています。
いつも傍らには酒瓶は欠かせないようです。
不思議ですが、屋敷内には貴族の邸宅には珍しく、絵画などは一切ありませんし、使用人も広さのわりに最低限しかおらず、客人もなく、静まりかえっています。
毎晩は必ず子爵様と、夕食をすることが日課となりました。
食堂には立派な2メートルもありそうな長テーブルが置かれていましたが、ふたりしかいないので、子爵さまは暖炉近くに丸いテーブルを置いて、向かい合って食事をしました。
彼は決して、わたしを平民としてではなく、一人の令嬢として扱ってくださいます。
ハリエットさんに給仕をさせず、子爵みずから椅子を引き、食事を取り分けることもあります。二人でいるとき、彼は使用人を極力、入れないようでした。
その時間を、子爵さまは大切になさっている、わたしにはそう思いました。
「マチルダさん、調子はどうですか?」
子爵はいつも穏やかにわたしに進捗をききました。
「順調です。ただ手入れがされてなかっただけのようですわ。綺麗に磨けば、美しいお庭になりそうです。そもそも、お庭をお造りになったのは、どなたなのですか?」
子爵の料理を口に運ぶ手が止まりました。
長い沈黙でした。
それは1分くらいだったはずですが、それはずいぶんと長く感じられました。
きいてはいけない質問だったようです。子爵様は質問を聞き忘れたような素振りで、言いました。
「それで。マチルダさんは庭をどのようにしたいとお考えです?」
「まだ分かりません。ですが、お庭にはその土地や風土や、そこに暮らしている想いが反映されるものですから。それを壊さないよう心がけますわ」
「なるほど。でも、それを壊すのも忘却してしまうのも、アリなのではないかな? 創造は破壊から生まれます。お酒は、悪夢を忘れさせてくれる鎮痛剤ですよ」
子爵は、快活な口調でこたえました。
わたしは首をひねりました。
「子爵さまは、この立派なお庭を壊してしまいたいのですか?」
子爵様は返答しませんでした。
子爵様には、何か複雑なものを抱えていると、わたしは思いました。
剪定されてこなかった草木は伸び放題になっていました。雑草は生えに生え、せっかく植えてあった、かつての季節の花々を痛め、あるいは枯らしてしまっていました。
それでも、わたしは帽子を被り、強い陽射しの中、汗をかきながら、せっせと草の根を抜き、枝を剪定ばさみやノコギリなどで刈り込んでいったのです。
ハリエットさんは、感じはよくないし、ぶっきらぼうな態度なのは変わらずです。
でも、管理人のベンさんや、家畜の世話役のアルベルトさんを紹介してくれましたし、ふたりはとても気のよいおじいさまなので、いっしょに荷物を運んでくれたり、焼却してくれたり、とても助かりました。
子爵様は自宅から外には出ずに、ピアノを弾いたり、リビングで物書きをしたりして、過ごしています。
いつも傍らには酒瓶は欠かせないようです。
不思議ですが、屋敷内には貴族の邸宅には珍しく、絵画などは一切ありませんし、使用人も広さのわりに最低限しかおらず、客人もなく、静まりかえっています。
毎晩は必ず子爵様と、夕食をすることが日課となりました。
食堂には立派な2メートルもありそうな長テーブルが置かれていましたが、ふたりしかいないので、子爵さまは暖炉近くに丸いテーブルを置いて、向かい合って食事をしました。
彼は決して、わたしを平民としてではなく、一人の令嬢として扱ってくださいます。
ハリエットさんに給仕をさせず、子爵みずから椅子を引き、食事を取り分けることもあります。二人でいるとき、彼は使用人を極力、入れないようでした。
その時間を、子爵さまは大切になさっている、わたしにはそう思いました。
「マチルダさん、調子はどうですか?」
子爵はいつも穏やかにわたしに進捗をききました。
「順調です。ただ手入れがされてなかっただけのようですわ。綺麗に磨けば、美しいお庭になりそうです。そもそも、お庭をお造りになったのは、どなたなのですか?」
子爵の料理を口に運ぶ手が止まりました。
長い沈黙でした。
それは1分くらいだったはずですが、それはずいぶんと長く感じられました。
きいてはいけない質問だったようです。子爵様は質問を聞き忘れたような素振りで、言いました。
「それで。マチルダさんは庭をどのようにしたいとお考えです?」
「まだ分かりません。ですが、お庭にはその土地や風土や、そこに暮らしている想いが反映されるものですから。それを壊さないよう心がけますわ」
「なるほど。でも、それを壊すのも忘却してしまうのも、アリなのではないかな? 創造は破壊から生まれます。お酒は、悪夢を忘れさせてくれる鎮痛剤ですよ」
子爵は、快活な口調でこたえました。
わたしは首をひねりました。
「子爵さまは、この立派なお庭を壊してしまいたいのですか?」
子爵様は返答しませんでした。
子爵様には、何か複雑なものを抱えていると、わたしは思いました。
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