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第2章:初手から全滅
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『初恋成就計画ノート』第一弾、それは「胃袋をつかめ!作戦」でした。
「男の人って、やっぱり手作りの料理に弱いんだから!」
私の記憶が正しければ、カイルは昔から甘いパンが大好きでした。
だから、朝一番に焼きたてのハチミツパンを、それから温かい野菜スープをたっぷり作りました。
焼きたてのパンからは、甘く香ばしい匂いが立ち上り、スープからは、故郷の温かさが立ち上るようでした。
それらを小さな木製の籠に詰めました。
もちろん、その籠は、カイルを想って何日もかけて編んだ、特別なものです。
指先に残る籐の感触が、私の決意を強くしてくれました。
「よし、これで完璧!」
気合を入れて、騎士団の詰所へと向かいました。
入り口にいた見張りの騎士さんは、私がカイルの幼馴染だと知っているからか、にこやかに通してくれました。
詰所の扉を開けると、男の人たちの熱気がこもっていて、少し緊張しました。
訓練から戻ってきたばかりなのか、騎士団員たちが汗を拭いながら休憩しています。
その中心に、私が何年も想い続けた、あの背中がありました。
「カイル!」
私が名前を呼ぶと、カイルはハッと顔を上げ、私を見つけました。
その表情は、一瞬驚いたあと、すぐに溶けるように柔らかな笑顔に変わります。
「リリア、どうしたんだ? 荷馬車はもう片付いたのか?」
「う、うん。それはもう大丈夫。あのね、これ、カイルに……」
私は、とっておきの笑顔で籠を差し出しました。
ドキドキしながら、彼の反応を待ちます。
私の手から離れて、彼の手に渡るまで、ほんのわずかな時間でしたが、それは永遠のように感じられました。
「おお、助かる!」
カイルは迷うことなく籠を受け取りました。
その表情は、本当に嬉しそうで、私の胸は期待で高鳴ります。
これで、一歩前進!
そう思った次の瞬間、彼の口から出た言葉は、私の心を凍らせました。
「腹が減ってたんだ。ありがとう、リリア。さあ、みんな、昼飯だ!」
そう言って、カイルは私の差し入れを、そのまま詰所にいた全員に分け始めたのです。
焼きたてのハチミツパンは、あっという間に騎士団員たちの手に渡り、温かいスープも大きな鍋に移されてしまいました。
「え……え?」
私の言葉は、彼の大きな声にかき消されてしまいました。
慌てて声をかけようとしましたが、彼の笑顔は、とても自然で、私だけのために持ってきた、なんてとても言えませんでした。
「さすがは王都帰りだな、味が違う!」
ある騎士団員が、パンを一口食べて声を上げました。
「ああ、本当だ! こんなに丁寧に編まれた籠、王都じゃ当たり前なのか?」
別の騎士団員が、籠をまじまじと見つめながら言います。
私は、その言葉に、思わず目を丸くしてしまいました。
彼らが褒めてくれたのは、私の焼いたパンでも、作ったスープでもなく、カイルのために何日もかけて編んだ籠でした。
カイルは、そんなやりとりを横目に、パンを美味しそうに頬張っています。
「うん、うまい。やっぱりリリアのパンは最高だ」
私は、カイルのその言葉に、少しだけ救われたような気がしました。
けれど、この差し入れが、彼にとって「私だけの特別」ではなかったという事実が、胸に重くのしかかります。
私の放った恋の矢は、彼のすぐそばを通り過ぎ、まるで煙のように消え去ってしまいました。
「あ、あの……じゃあ、わたしはこれで」
居たたまれなくなって、私は早々に詰所を後にしました。
詰所を出て、とぼとぼと歩いていると、道の端に置いてあったベンチが目に入りました。
私はそこに腰を下ろし、そっと懐から『初恋成就計画ノート』を取り出します。
「……作戦、修正」
ノートの第一弾のページに、大きく「全滅」と書き込みました。
そして、次のページをめくり、新しい作戦を書き始めます。
「次は……次こそは絶対、カイルだけに向けた好意だって気づかせる!」
私は、心の中でそう決意を新たにするのでした。
カイルの鈍感さは、私の想像を遥かに超えていました。
これは、思っていたよりもずっと、長い戦いになりそうです。
「男の人って、やっぱり手作りの料理に弱いんだから!」
私の記憶が正しければ、カイルは昔から甘いパンが大好きでした。
だから、朝一番に焼きたてのハチミツパンを、それから温かい野菜スープをたっぷり作りました。
焼きたてのパンからは、甘く香ばしい匂いが立ち上り、スープからは、故郷の温かさが立ち上るようでした。
それらを小さな木製の籠に詰めました。
もちろん、その籠は、カイルを想って何日もかけて編んだ、特別なものです。
指先に残る籐の感触が、私の決意を強くしてくれました。
「よし、これで完璧!」
気合を入れて、騎士団の詰所へと向かいました。
入り口にいた見張りの騎士さんは、私がカイルの幼馴染だと知っているからか、にこやかに通してくれました。
詰所の扉を開けると、男の人たちの熱気がこもっていて、少し緊張しました。
訓練から戻ってきたばかりなのか、騎士団員たちが汗を拭いながら休憩しています。
その中心に、私が何年も想い続けた、あの背中がありました。
「カイル!」
私が名前を呼ぶと、カイルはハッと顔を上げ、私を見つけました。
その表情は、一瞬驚いたあと、すぐに溶けるように柔らかな笑顔に変わります。
「リリア、どうしたんだ? 荷馬車はもう片付いたのか?」
「う、うん。それはもう大丈夫。あのね、これ、カイルに……」
私は、とっておきの笑顔で籠を差し出しました。
ドキドキしながら、彼の反応を待ちます。
私の手から離れて、彼の手に渡るまで、ほんのわずかな時間でしたが、それは永遠のように感じられました。
「おお、助かる!」
カイルは迷うことなく籠を受け取りました。
その表情は、本当に嬉しそうで、私の胸は期待で高鳴ります。
これで、一歩前進!
そう思った次の瞬間、彼の口から出た言葉は、私の心を凍らせました。
「腹が減ってたんだ。ありがとう、リリア。さあ、みんな、昼飯だ!」
そう言って、カイルは私の差し入れを、そのまま詰所にいた全員に分け始めたのです。
焼きたてのハチミツパンは、あっという間に騎士団員たちの手に渡り、温かいスープも大きな鍋に移されてしまいました。
「え……え?」
私の言葉は、彼の大きな声にかき消されてしまいました。
慌てて声をかけようとしましたが、彼の笑顔は、とても自然で、私だけのために持ってきた、なんてとても言えませんでした。
「さすがは王都帰りだな、味が違う!」
ある騎士団員が、パンを一口食べて声を上げました。
「ああ、本当だ! こんなに丁寧に編まれた籠、王都じゃ当たり前なのか?」
別の騎士団員が、籠をまじまじと見つめながら言います。
私は、その言葉に、思わず目を丸くしてしまいました。
彼らが褒めてくれたのは、私の焼いたパンでも、作ったスープでもなく、カイルのために何日もかけて編んだ籠でした。
カイルは、そんなやりとりを横目に、パンを美味しそうに頬張っています。
「うん、うまい。やっぱりリリアのパンは最高だ」
私は、カイルのその言葉に、少しだけ救われたような気がしました。
けれど、この差し入れが、彼にとって「私だけの特別」ではなかったという事実が、胸に重くのしかかります。
私の放った恋の矢は、彼のすぐそばを通り過ぎ、まるで煙のように消え去ってしまいました。
「あ、あの……じゃあ、わたしはこれで」
居たたまれなくなって、私は早々に詰所を後にしました。
詰所を出て、とぼとぼと歩いていると、道の端に置いてあったベンチが目に入りました。
私はそこに腰を下ろし、そっと懐から『初恋成就計画ノート』を取り出します。
「……作戦、修正」
ノートの第一弾のページに、大きく「全滅」と書き込みました。
そして、次のページをめくり、新しい作戦を書き始めます。
「次は……次こそは絶対、カイルだけに向けた好意だって気づかせる!」
私は、心の中でそう決意を新たにするのでした。
カイルの鈍感さは、私の想像を遥かに超えていました。
これは、思っていたよりもずっと、長い戦いになりそうです。
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