【完結】辺境騎士団長は恋に鈍感！ 元王都魔導士見習いの私、初恋成就作戦が今日も空回りしてます！

第7章：無謀な援護

　幻獣討伐当日、カイルは騎士団員たちを率いて、夜明けと共に深い森へと入っていきました。

　朝焼けが、彼らの背中を赤く染め上げています。

　私は、カイルが「危険だから来るな」と言った言葉を胸に、大人しく村に残っていようと、そう決めていました。

　しかし、私の足は、どうしても動かないのです。

「カイル……」

　私は、そっと窓から森のほうを眺めました。

　朝露に濡れた木々が、カイルを飲み込むように見えました。

　彼が危ない目に遭うかもしれない。

　そう思うと、いてもたってもいられなくなってしまいます。

　じっとしていることなど、私には到底できませんでした。

『初恋成就計画ノート』に書かれた「幻獣討伐作戦」は、私にとって、カイルの役に立てる、そして彼に特別な存在だと認めてもらえる、最後のチャンスなのかもしれませんでした。

「だめだ、やっぱり行かなくちゃ！」

　私は、そう決意すると、こっそり家を抜け出し、音を立てないように、騎士団の後を追いました。

　森の中は、ひんやりとした空気が肌を刺します。

　木の葉を踏むたびに、心臓が大きく跳ねました。

　私は、騎士団から少し離れた、安全な場所から魔法で援護するつもりでした。

　けれど、幻獣フェルンは、私の予想をはるかに超える速さで、騎士団員たちを襲いかかります。

　銀色の体毛が森の木々の間を縫うように駆け抜け、鋭い牙が光りました。

「きゃあ！」

　騎士団員の一人が、フェルンの鋭い爪で吹き飛ばされました。

　その悲鳴に、私の心臓が凍り付きます。

「リリア、どうしてここにいるんだ！ 早く逃げろ！」

　カイルの声が、森に響き渡りました。

その声には、焦りと怒りが混じっています。

しかし、もう遅かったのです。

フェルンは、私がいることに気づき、まるで獲物を見定めたかのように、鋭い牙を剥き出しにして、私に襲いかかってきました。

あっという間に、フェルンの爪と牙の間に追い詰められ、私は逃げ場を失ってしまいました。

恐怖で体がすくみ、声も出せません。

「もう、だめだ……」

　そう覚悟した瞬間、カイルが怒声と共に飛び込んできました。

まるで嵐のように、一瞬にして私の前に現れます。

カイルは、私の前に立ち塞がると、剣でフェルンの攻撃を弾き飛ばしました。金属がぶつかり合う、甲高い音が森に響き渡ります。

「リリア！ 大丈夫か！」

　カイルは、私を必死に抱き寄せると、耳元で「二度とこんな無茶はするな！」と、怒りに震えた声で叱りました。

彼の腕の中に包まれ、私は初めて息ができたような気がしました。

彼の声には、怒りよりも、私を案じる焦りと、安堵の色が強く感じられました。

私の胸の奥が、じんわりと熱くなるのを感じます。

彼の腕の温かさが、私の心を深く満たしていくようでした。

　カイルは、私を抱きしめたまま、フェルンを睨みつけました。

その瞳には、強い光が宿っています。

「こいつは、俺がやる。お前は、後ろにいろ！」

　そう言って、カイルは私を背中に庇うように、剣を構えました。

彼の背中は、以前よりもずっと大きく、頼もしく見えます。

私は、カイルの背中越しに、彼の頼もしい姿を見て、自然と涙が溢れてきました。

このまま、彼の背中に隠れていればいいのでしょうか？ 

でも、それでは、私はまた、彼に守られるだけの存在になってしまう。

それは嫌だ。

私も、彼と共に戦いたい。

　私は、カイルの背中から顔を出し、彼の横に並びました。

「私も、戦う！」

　そう言って、私は、震える指先に、精一杯の魔力を練り上げ始めました。

カイルは、一瞬驚いた顔をしましたが、すぐに私の隣で、フェルンと対峙しました。

二人の間に、目には見えないけれど、確かな絆が生まれたような気がしました。

　私たち二人の、本当の戦いは、ここから始まったのです。