【完結】辺境騎士団長は恋に鈍感！ 元王都魔導士見習いの私、初恋成就作戦が今日も空回りしてます！

第8章：すれ違いと本音

　フェルンとの激闘は、カイルと私が力を合わせたことで、なんとか勝利を収めることができました。

騎士団員たちの怪我も、私が治癒魔法で手当てすることができ、私は安堵のため息をつきました。

けれど、心の中に残るのは、安堵だけではありませんでした。

「カイル……」

私がカイルに声をかけると、彼は私のほうへ振り返りました。

その表情は、先ほどまでの頼もしい表情ではなく、険しいものでした。

太陽の光が、彼の顔に影を落とし、まるで怒っているかのように見えます。

「どうして、俺の言うことを聞かなかったんだ」

カイルは、私を責めるような口調で言いました。

その声は、静かでありながら、彼の怒りがひしひしと伝わってきます。

「ご、ごめんなさい……でも、カイルが危ない目に遭ったらって思ったら、いてもたってもいられなくて……」

私は、カイルに怒られることよりも、彼の怪我のほうが心配でした。

カイルの服には、フェルンの鋭い爪で裂かれた跡があり、そこから血が滲み出ています。

私の心臓が、再び痛みを訴えました。

「何が心配だ。俺はお前に、怪我なんてさせたくないんだ」

カイルは、そう言って、私の頭をそっと撫でてくれました。

その手は、優しくて、でも、どこか寂しそうで、私の心は、またしても締め付けられました。

それはまるで、遠い昔、小さな私をなだめるようにしてくれた、あの頃の彼のようでした。

「私は、ただの幼馴染じゃない！」

私は、堪えきれずに叫んでいました。

抑えきれない想いが、言葉となって溢れ出します。

「もっと、カイルにとって、特別な存在でいたいの！」

私の言葉に、カイルは沈黙しました。

彼の表情は、何を考えているのか分からず、私は不安になりました。

胸の奥が、冷たい水に浸されたように感じます。

「カイル……？」

私が、もう一度名前を呼ぶと、彼は小さく、蚊の鳴くような声で呟きました。

「……お前は、大切だよ」

その言葉は、とても優しくて、私の心を温めてくれました。

でも、「大切」の先に続く言葉はありませんでした。

「カイルにとって、私は、どれくらい大切なのかな……」

私は、温かいのに物足りない彼の言葉に、胸を締め付けられました。

それは、まるで美味しい料理を一口だけ食べさせてもらったような、そんな感覚でした。

でも、同時に、私はカイルの瞳に、初めて見る揺らぎを見ました。

それは、私の言葉に、彼もまた、何かを感じてくれたのだと、私に希望を与えてくれました。

「カイル、もう一度、聞くね。私は、カイルにとって、どれくらい大切？」

私が、そう問いかけると、カイルは、またしても沈黙してしまいました。

その沈黙が、私にとっては、一番辛いものでした。

「ごめん、もう聞かない。でも……」

私は、カイルの背中を、そっと押しました。

「いつか、カイルの口から、ちゃんと聞きたいな」

私の言葉に、カイルは、何も答えませんでした。

でも、私は、彼の背中から、かすかに頷いたような気がしました。

私たち二人の、すれ違いと本音は、まだ、始まったばかりでした。