【完結】辺境騎士団長は恋に鈍感! 元王都魔導士見習いの私、初恋成就作戦が今日も空回りしてます!

朝日みらい

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第9章:村祭りの夜

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収穫祭の夜、星空の下で

幻獣フェルンの討伐から数日後、村は収穫祭の日を迎えました。

広場にはたくさんの露店が並び、香ばしい匂いが風に乗って漂ってきます。

子供たちの楽しそうな声や、大人たちの笑い声が響き渡り、色とりどりの提灯が飾られていました。

日が暮れると、その明かりが幻想的な光景を作り出し、村全体が魔法にかけられたかのようです。

「リリアちゃん、カイルちゃんと一緒に行かないのかい?」

雑貨屋のマルタおばさんに声をかけられ、私は思わず顔を赤くしました。

「ま、まさか! まだ、そんな関係じゃ……」

「あら、そうかい? でも、あんたたちが一番お似合いだと思ってるのは、村じゅうみんな同じだよ」

マルタおばさんは、そう言って、ニヤニヤと笑っていました。

おばさんの言葉は、私の心を少しだけ温めてくれました。

でも、カイルとの距離は、まだ縮まっていないのです。

あの日の告白めいた言葉も、まだ答えを聞けていないままでした。

そんな私の背中を、神官エリオットが、遠くからじっと見ていました。

「やあ、リリア嬢。一人でいるなんて、もったいないよ」

エリオットは、私の隣に立つと、私に微笑みかけました。

彼の笑顔は、まるで夜空に浮かぶ星のようにきらめいて見えます。

「エリオットさん……」

「いいかい、恋は、待っているだけじゃ始まらないんだ」

そう言って、エリオットは、私の背中をポンッと押しました。

彼の指先から、不思議な力が伝わってくるような気がしました。

「カイル殿と、二人きりになれる場所があるんだ。行ってみないかい?」

エリオットの言葉に、私はドキッとしました。心臓が、まるで祭りの太鼓のように鳴り響きます。

「え? どこに……?」

「村の丘の上さ。きっと、ロマンチックな夜景が見えるはずだよ」

エリオットは、いたずらっぽく微笑みながら、私にそっと耳打ちしました。

「カイル殿も、きっとそこで待っているさ」

私は、エリオットの言葉を信じ、期待に胸を膨らませて、丘の上へと向かいました。

丘の上には、カイルが一人で立っていました。

祭りの喧騒から離れたその場所は、とても静かで、星の光だけが私たち二人を照らしています。

「カイル……!」

私が声をかけると、カイルは振り返り、私に優しい笑顔を向けてくれました。

その笑顔は、満月のように穏やかで、私の心を安堵で満たします。

「リリア、どうしてここにいるんだ?」

「エリオットさんに、カイルがここにいるって聞いて……」

「そうか……」

カイルは、少しだけ照れたように微笑み、私を丘の上へと誘ってくれました。

夜空には、満天の星が輝き、村の明かりが、宝石のようにキラキラと輝いています。

「綺麗だね……」

「ああ、本当に綺麗だ」

私たちは、二人で黙って、夜空を見上げていました。

二人の間に流れる時間は、とても穏やかで、このまま永遠に続けばいいのに、と願わずにはいられませんでした。

不意に、カイルが私に近づいてきました。

彼の温かい体温が、すぐそばから伝わってきます。

「リリア……」

カイルの瞳が、私をまっすぐに見つめます。

その瞳の奥に、何か言いたげな光を見つけ、私は心臓がバクバクと音を立てて鳴り響くのを感じました。

「……そろそろ戻るか」

カイルは、最後まで何も言わず、私に背を向け、丘を下りていってしまいました。

私は、その場に一人取り残され、肩を落としました。

「やっぱり、私はまだ、カイルにとって、幼馴染のままなのかな……」

その時、祭りの終わりを告げる鐘が、村中に響き渡りました。

その鐘の音は、同時に、幻獣の再出没を知らせる警鐘でもありました。

「え……?」

私は、驚いて村のほうを見ると、村人たちが慌てて家に駆け込んでいくのが見えました。

楽しかった祭りの賑わいは、一瞬で恐怖へと変わってしまいました。

「カイル!」

私は、慌ててカイルを追いかけ、村へと戻っていきました。

祭りの夜は、あっという間に、不穏な空気に包まれてしまったのです。
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