【完結】腹黒公爵様の浮気癖、なぜか私にだけは本気らしい!?~借金令嬢の政略結婚は大波乱~

朝日みらい

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第十二章(最終章) 「未来へ続く誓い」

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 借金返済と政略のためだけに始まった結婚でした。
 けれど、いま振り返れば――それは運命が仕組んだ奇跡の扉であったのかもしれません。

 何度も嘲られ、幾度も心を折られそうになりながら、わたしたちは数々の試練を共に越えてきました。
 その果てに、漆黒の公爵は仮面を脱ぎ捨て、ただ一人の夫としての姿を示してくれたのです。

 結婚式を改めて執り行って数日が過ぎたころ。
 公爵邸の庭園には、たわわに咲き誇る薔薇と白百合の花が風に揺れ、人々の祝福の声がまだ記憶に新しく残っていました。

 穏やかな午後。
 わたしは帳簿の山から解放され、庭園を散策していました。
 その隣では、いつの間にか居場所を当然のようにしてしまった大きな犬――ミルがのんびりと歩いています。

「まさか結婚式の最中に、ケーキに飛びかかるなんて……」

 思い出して苦笑すれば、ミルは得意げに尻尾を振ります。
 でもそのおかげで緊張が和らぎ、皆が笑顔になったのですから……彼も立派な式の功労犬だったのかもしれません。

「……リディア」

 名を呼ばれて振り返れば、リアン様が立っていました。
 いつもの漆黒の礼装ではなく、外套も帽子も持たぬ、ひとりの男性の姿で。

 その表情は、もう“黒薔薇公爵”の冷笑を貼り付けることもなく。
 穏やかな光を湛え、ただただ真っ直ぐに、わたしだけを見つめていました。

「あなたこそ、お仕事は大丈夫なのですか?」

 問えば、彼は少し照れくさそうに笑います。

「今日は休みだ。……いや、休みを取った。お前と過ごすためにな」

 唐突な言葉に心臓がぎゅっと跳ねました。
 この不器用な人が、わざわざそんなことを言うなんて。

「リディア、少し来い」

 彼の手が差し出されます。
 わたしは頷いて手を置きました。大きな掌は温かく、そのまま強引に引き寄せられます。

「ひゃ……っ!」

 驚いた拍子に、わたしはよろけてしまいました。
 けれど彼の腕がしっかりと腰に回され、抱き留められます。

「相変わらず、危なっかしいな」

「そ、それは……!」

 言い返そうとしても、至近距離で見つめられると声が震えてしまいます。
 不器用に笑う彼の指が、わたしの頬にそっと触れました。

「俺は公爵家を、国を背負う立場を持っている。
 だが――それよりも大切なものを持った。……お前だ」

 言葉は短く、飾り気なく。けれど真実しかなくて。

 わたしの視界は涙でにじみました。

「……わたしもです。あなたがどんな人でも。女遊びの仮面をかぶっていようと――冷酷に見えようとも……あなたは、わたしのたった一人の夫です」

 差し出す言葉は震えて止まらず、けれど誠実さだけは胸に込めました。

 リアン様はしばし黙し、それからゆっくりとかぶりを振りました。

「もう仮面はいらない。俺は女遊びの公爵でも、“黒薔薇”でもない。ただの男だ。……お前と未来を生きる」

 強く、ことばを刻むように抱きしめられます。
 彼の胸の鼓動が、重ねた胸板ごしに響いてきて、胸も合わせて熱く震えました。

「だから、もう一度だけ誓わせてくれ。リディア。……どんな困難があろうとも、二人なら必ず超えられる」

 そうして彼は、わたしの髪を撫で、深く見つめました。

 心臓が脈うつ音の中で、そっと重ねられる口づけ。
 それは初めてではなく、けれど今までで一番、甘く熱いものでした。

 数多の嵐を越えて、借金まみれから始まった結婚は、愛と信頼に満ちたものへと変わりました。
 わたしはもう嘲られる田舎娘ではなく、堂々たる公爵夫人。
 彼は女遊びの仮面を脱ぎ捨て、誠実に国と妻を守る公爵へと生まれ変わったのです。

 互いに支え合い、未来を見据え。

「リアン様……これからも」
「ああ。ずっと傍に」

 二人でなら、どんな困難も乗り越えられる――そう信じながら。

※完。
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