無罪で流刑のわたしは、隣国の公子様に見守られすぎです。

朝日みらい

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 それから2週間程が過ぎました。わたしはその間、自問自答を繰り返していました。

(ブルー様はいったい、何を考えてらっしゃるの……?)

 ブルー様とあの因縁の相手、アドレス子爵とご令嬢ベアトリス嬢と結ばれるなんて想像しただけでも恐ろしくさえ感じてしまいます。ブルー様はわたしの流刑になった経緯を承知の上で、婚約をなさったのですから。

 あれ以来ベイリーさんは来ていません。淡々と別の庭師が庭先にやってきては草を刈って帰っていきます。わたしが庭先のベランダでデッサンをしていても、チラチラ様子を見ているだけで、話しかけてくることはありません。

「あの……?」

 呼び止めようとしたり、声をかけただけで、彼は「へい、へい」と頭を振るだけで、まともに顔を合わせようとはしないのです。

(庭師をブルー様にしてほしいなんてお願いできないし……。どうしたらいいのかしら)

***

 考えあぐねているうちに大公殿下の使いより、王宮への招待状が手渡されて3日後、わたしは馬車に揺られていました。

 大公のご命令ですから、行きたくないという正直な気持ちは封印しなければならないでしょう。でもこの手紙の内容は、心浮き立つものでもありません。

『ブリジット伯爵令嬢殿。ブルー・メイス公子と隣国ザトビア国ベアトリス子爵令嬢との婚約式の記念絵画を描くように』

 絵を描くということは、婚約者のふたりを前に絵筆を持つということになります。つまり、ブルー様が他の女性、自分を不幸の底に追いやったアドレス子爵の娘ベアトリス嬢と結ばれる場に立ち会うことに他なりません。

 宮殿の周りには、諸侯の貴族たちの馬車が城の門で入場するのを待っています。30分ほど待ってから、私たちも門を抜けて城内へと足を踏み入れたのです。

(なんて……素敵)

 美しいという一言では言い尽くせません。白亜の大理石の壁は幾何学装飾を施され、左右に立ちのぼった三角屋根は可愛らしい薄桃色でした。

 建物正面には噴水がしぶきを上げて、小さな虹をかけています。

 他の貴族たちが中央エントランスから大広間へと続く正面階段を上がっていく中、公国のえんじ色の制服姿の若い女性が現れました。 

 彼女はわたしに一礼してから、

「ようこそ。秘書管のアレクサと申します。これから公子様の部屋へとお連れいたします」

と、脇の廊下へ連れていきます。

 廊下に面して公国の役人用の部屋が配置されていて、数人の職員とも行き交います。

「緊張されていますか? ブリジット様?」

「ええ……」

 わたしは大きく息をしながら、ドギマギする気持ちを抑えて言いました。

「でも、最初にお会いしてから、ずいぶんここにも慣れたのではないですか」

「すみません。私、あなたにいつお会いしましたか」

「あの早朝の朝の海ですよ。私はあなたにスープをよそいました」

 そしてふと振り返り、私の耳元でリリアーヌ様と小さく笑みを浮かべてつぶやきました。

 ぱたりと足が止まりました。

「それほど驚かなくてもいいでしょう。私はブルー・メイス様の直属の秘書であり、また、あの方の裏の秘密のお仕事でお助けもしているわけです。困ったものですけれどもね」

 そういうとまた、何事もなかったように先方を歩いて行きます。
 
 1番端の階段を上り、3階にさしかかる途中、わたしは足を止めました。 その絵は この薄暗い廊下の一角にまるで忘れ去られたように飾られていました。

「お気づきになられましたか」

 アレクサは、私は見つめている小さな肖像画を見つめました。

 色白の美しい15ほどの少女は、快活そうなキラキラしたグリーンの長い銀色の髪を肩まで垂らして、微笑んでいました。その小さな可憐な方の上には、真っ青の小鳥が止まっているのでした。

「大変美しい方だわ。どなたなの?」

「アマリリス・レーン嬢。公子様の最初の婚約者ですわね」

(ブルー様の、最初の婚約者……?)
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