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終章 そして、未来へ
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“王妃、離婚を宣言”
その報せが王都を駆け巡ったのは、私が正式な辞表を王に提出した翌日でした。
最初に驚いたのは、まさかのマルタです。
「お、おおおおおお、王妃様っ!? 本気で陛下と離婚なさるんですか!?」
「本気よ。というより、ずっと決めてましたから」
「で、でも王様、反対なさるのでは……?」
「きっとね。けれど彼が初めに言ったことばを、私は忘れていません」
私が小さく笑うと、マルタは息をのんで固まりました。
「“婚約者を大事にする必要はない”と。なら、私も“夫を大事にしない”ことにしただけですわ」
その皮肉に、なぜか涙がこぼれそうになりました。
---
それから数日後。
離婚申請の報告を受けた国王アルトゥール陛下は、
滅多に見せない沈黙を保ったまま、私を謁見の間に呼び出しました。
扉の向こうに立つ私は、初めて彼の妻としてではなく、
一人の“人間”として向き合う覚悟を持っていました。
「クラリス……本気なのか」
低く掠れた声。
私が彼に初めて出会った頃とはまるで違う。
傲慢でも、王の余裕でもない。ただ一人の孤独な男の声。
「ええ、本気です。
愛で結んだ結婚ではありませんでしたが、それでも十全に努めました。
今、ようやく、私自身のために生きたいと思えるのです」
国王の肩が震えます。
厳格だった顔に刻まれた皺が、痛いほどに人間らしかった。
「……お前を手放すなど、考えもしなかった」
「でも、あなたはもう手放していましたわ。
仕事に、権威に、義務に。
――私を、王妃としてしか見なかったのです」
静かな空気の中、私は深く一礼しました。
「お世話になりました、陛下。
どうか、これからは“国王”としての誇りを取り戻してください」
振り返った瞬間、背後から手が伸びる気配がしました。
でも私は、振り向きませんでした。
(泣いてしまったら、終われなくなる)
---
王宮を出て、長い階段を下りる。
迎えの馬車の前で、マルタとレオンが待っていました。
「王妃様……」
「もう“王妃”じゃありません。クラリスで十分よ」
そう笑うと、マルタが泣きながらハンカチを押し付けてきます。
「では、これからどちらへ?」とレオン。
「東の丘よ。クラリス学院の新校舎が完成したって報告があったの」
「……やっぱり行くんですね」
「ええ。まだやることが山ほどあるもの」
レオンのまっすぐな眼差しが、風よりも温かい。
その瞳に映る自分の姿を見て、私はようやく“ひとり”ではないと気づきました。
「お供します、クラリス。これからも、ずっと」
「なら条件があるわ。恋よりも、まず会計報告を守ること」
「……条件が現実的すぎる」
笑い合った後、彼がそっと馬車への手を差し出します。
その手を取った瞬間、温かな風が頬を撫でました。
---
街を離れる途中、城門前には驚くほどの人々が集まっていました。
新しい生活を始める“元王妃”を見送るために。
「王妃様、ありがとう!」
「新しい学校、ぜったい行きます!」
「クラリス様、あなたこそ私たちの希望です!」
民の声が、潮のように広がる。
私は手を振り、馬車の窓を開けました。
「ありがとう。みんな、前を向いていきなさい。
幸せは、誰かに与えられるものじゃない。自分の手で掴むものです」
拍手と歓声が響く中、馬車がゆっくりと動き出す。
王都を離れ、丘へと向かう道――
空は眩しいほどの青に満ちていました。
---
そして、数日後。
新天地アルブル丘。
野に咲く花の香りが風に混ざり、新築の学院が白く輝いています。
玄関前には、笑顔の女学生たち。
キアラ、そしてほかの留学組も帰国していました。
「お帰りなさいませ、クラリス学院長!」
「学院長!? ……ちょっと、誰がそんな肩書き決めたの?」
「わたしたち全員の一致です!」
ため息をつきつつも、笑みが溢れました。
「まったく……悪女、ついに学院長ですか」
レオンが隣で肩をすくめます。
「それ、タイトルにしたら受けが良さそうね」
「え?」
「“悪女学院長クラリス、日々改革す。”――どう? 本、出してみようかしら」
「どこまでも商人気質ですね」
二人の笑い声が丘に響き、
学生たちが祝福の鐘を鳴らしました。
---
その日の夕暮れ。
学院の屋上から見た空は、深い金色に染まっていました。
私は風に髪を遊ばせながら、小さく呟きます。
「悪女でよかった。
悪女だったから、私は自分を救えたのね」
遠くに見える王都の塔の方へ、そっと手を伸ばす。
「さよなら、クラリス王妃。
こんにちは、ただのクラリス。
――そして、自由に生きる女たちの未来へ。」
太陽が沈み、夜の星々が瞬き始める。
その光の中で、私は確かに感じました。
(この世界が、ようやく“誰の都合でもない女の物語”を歩き出したことを。)
風が頬をくすぐり、静かに微笑みました。
(完)
その報せが王都を駆け巡ったのは、私が正式な辞表を王に提出した翌日でした。
最初に驚いたのは、まさかのマルタです。
「お、おおおおおお、王妃様っ!? 本気で陛下と離婚なさるんですか!?」
「本気よ。というより、ずっと決めてましたから」
「で、でも王様、反対なさるのでは……?」
「きっとね。けれど彼が初めに言ったことばを、私は忘れていません」
私が小さく笑うと、マルタは息をのんで固まりました。
「“婚約者を大事にする必要はない”と。なら、私も“夫を大事にしない”ことにしただけですわ」
その皮肉に、なぜか涙がこぼれそうになりました。
---
それから数日後。
離婚申請の報告を受けた国王アルトゥール陛下は、
滅多に見せない沈黙を保ったまま、私を謁見の間に呼び出しました。
扉の向こうに立つ私は、初めて彼の妻としてではなく、
一人の“人間”として向き合う覚悟を持っていました。
「クラリス……本気なのか」
低く掠れた声。
私が彼に初めて出会った頃とはまるで違う。
傲慢でも、王の余裕でもない。ただ一人の孤独な男の声。
「ええ、本気です。
愛で結んだ結婚ではありませんでしたが、それでも十全に努めました。
今、ようやく、私自身のために生きたいと思えるのです」
国王の肩が震えます。
厳格だった顔に刻まれた皺が、痛いほどに人間らしかった。
「……お前を手放すなど、考えもしなかった」
「でも、あなたはもう手放していましたわ。
仕事に、権威に、義務に。
――私を、王妃としてしか見なかったのです」
静かな空気の中、私は深く一礼しました。
「お世話になりました、陛下。
どうか、これからは“国王”としての誇りを取り戻してください」
振り返った瞬間、背後から手が伸びる気配がしました。
でも私は、振り向きませんでした。
(泣いてしまったら、終われなくなる)
---
王宮を出て、長い階段を下りる。
迎えの馬車の前で、マルタとレオンが待っていました。
「王妃様……」
「もう“王妃”じゃありません。クラリスで十分よ」
そう笑うと、マルタが泣きながらハンカチを押し付けてきます。
「では、これからどちらへ?」とレオン。
「東の丘よ。クラリス学院の新校舎が完成したって報告があったの」
「……やっぱり行くんですね」
「ええ。まだやることが山ほどあるもの」
レオンのまっすぐな眼差しが、風よりも温かい。
その瞳に映る自分の姿を見て、私はようやく“ひとり”ではないと気づきました。
「お供します、クラリス。これからも、ずっと」
「なら条件があるわ。恋よりも、まず会計報告を守ること」
「……条件が現実的すぎる」
笑い合った後、彼がそっと馬車への手を差し出します。
その手を取った瞬間、温かな風が頬を撫でました。
---
街を離れる途中、城門前には驚くほどの人々が集まっていました。
新しい生活を始める“元王妃”を見送るために。
「王妃様、ありがとう!」
「新しい学校、ぜったい行きます!」
「クラリス様、あなたこそ私たちの希望です!」
民の声が、潮のように広がる。
私は手を振り、馬車の窓を開けました。
「ありがとう。みんな、前を向いていきなさい。
幸せは、誰かに与えられるものじゃない。自分の手で掴むものです」
拍手と歓声が響く中、馬車がゆっくりと動き出す。
王都を離れ、丘へと向かう道――
空は眩しいほどの青に満ちていました。
---
そして、数日後。
新天地アルブル丘。
野に咲く花の香りが風に混ざり、新築の学院が白く輝いています。
玄関前には、笑顔の女学生たち。
キアラ、そしてほかの留学組も帰国していました。
「お帰りなさいませ、クラリス学院長!」
「学院長!? ……ちょっと、誰がそんな肩書き決めたの?」
「わたしたち全員の一致です!」
ため息をつきつつも、笑みが溢れました。
「まったく……悪女、ついに学院長ですか」
レオンが隣で肩をすくめます。
「それ、タイトルにしたら受けが良さそうね」
「え?」
「“悪女学院長クラリス、日々改革す。”――どう? 本、出してみようかしら」
「どこまでも商人気質ですね」
二人の笑い声が丘に響き、
学生たちが祝福の鐘を鳴らしました。
---
その日の夕暮れ。
学院の屋上から見た空は、深い金色に染まっていました。
私は風に髪を遊ばせながら、小さく呟きます。
「悪女でよかった。
悪女だったから、私は自分を救えたのね」
遠くに見える王都の塔の方へ、そっと手を伸ばす。
「さよなら、クラリス王妃。
こんにちは、ただのクラリス。
――そして、自由に生きる女たちの未来へ。」
太陽が沈み、夜の星々が瞬き始める。
その光の中で、私は確かに感じました。
(この世界が、ようやく“誰の都合でもない女の物語”を歩き出したことを。)
風が頬をくすぐり、静かに微笑みました。
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