【完結】離縁された令嬢は、お菓子片手に第二の人生を歩みます

朝日みらい

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第24章:裁きと終わり

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 ある日、王都を騒がせるひとつの知らせがセリーヌのもとにも届いた。

「……リュステル家、不正会計で取り調べ中ですって」

 見習いの少女が新聞を抱えて駆け寄ってきた。そこには、かつて“名門”と称された家の凋落が、大々的に書き立てられていた。

 裏帳簿、贈収賄、偽装申請──。そして責任を問われたガレオン・リュステルは爵位を剥奪されたうえ、王都からの追放が決定したという。

「奥様、奥様……新しい奥様、とうとう逃げ出したそうですよ。実家に保護されてるとか……」

「まあ……お菓子より賞味期限短かったわね」

 セリーヌはひとり静かに呟いた。

 しかしその夜、予想もしなかった人物が、工房の扉を叩いた。

「……セリーヌ」

 雨に濡れた外套のまま、かつての夫、ガレオンが立っていた。

 以前の傲慢さも、上から目線の口調も影を潜め、彼はただ一人の男として、目の前の彼女を見ていた。

「話がある。少しだけでいい」

 セリーヌは一瞬だけ戸惑い、けれど頷いた。応接間に案内する間も、ガレオンはまるで別人のように静かだった。

 温かい紅茶を置くと、彼はそれを見つめるだけで、口を開いた。

「……全部、なくなった」

「ええ。知ってるわ」

「爵位も、家も……人も、金も。何もかもだ」

「……」

「けど、今でも忘れられないんだ。以前お前と食べた、あのレモンケーキの香り。……もう一度、あの頃みたいにやり直せないか?」

 見習いたちが息を潜めて戸口から覗いている。厨房ではルシアンが、泡立て器を力強く握りしめていた。

 セリーヌは、微笑んだ。

 そして、毅然と立ち上がる。

「いいえ、ガレオン。私はもう、あなたの過去に戻るつもりはないわ」

「……セリーヌ」

「あなたが私を必要としなかったあの頃、私はずっと一人で傷を抱えて、泣いて、立ち上がって、歩いてきたの」

 彼女は一歩前に出て、まっすぐに彼の目を見た。

「私は今、私の人生を生きているの。もう誰かの付属品には戻らない。……だから、ごめんなさい」

 静かな拒絶の言葉だった。だが、それは彼女の中にある優しさの証でもあった。

 ガレオンは何も言えず、ただ椅子から立ち上がった。扉を開けて出ていこうとした時、セリーヌの背後からひょいとルシアンが現れた。

「雨、止んできたよ。……まあ、傘は貸さないけどね。セリーヌの気持ちは、僕がずっと見てきた」

「……っ!」

「彼女を泣かせた過去には、もう戻れないよ。今の彼女は、誰かに守られるだけの人じゃない」

 その言葉にガレオンは何も返さず、ただ背を向けて歩き去った。

 静寂が戻った店内。セリーヌは深く息を吐き、ソファに腰を下ろした。

「……ふぅ、久々に胃が重いわね」

「ケーキでも食べる? “再出発のモンブラン”とか、“過去と絶交ティラミス”とか?」

「そんなネーミング、メニューに載せないでよ」

 笑い合うふたりの間に、もうかつての影はなかった。

 セリーヌは今、確かに“自分の物語”を歩んでいた。
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