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第23章:姑との再会
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セリーヌの工房は、今や王都中の噂となっていた。
「“ひと口で恋に落ちるお菓子”だって!」「“食べたら涙が出た”って人もいたわよ!」
街角の噂にまぎれて、「行列が午前中で締め切られた」と嘆く客もいるほど。見習いの少女たちは忙しさに目を回しながらも、笑顔で働いていた。
そんなある日、工房の扉が重々しく開かれた。
「お客様ですか? すみません、今は整理券が——」
受付の少女の声が途中で止まったのは、そこに立っていた女性の、ただならぬ気配のせいだった。
黒いレースの手袋、歳月を感じさせない冷たい瞳、そしてセリーヌには見覚えのあるシニヨンの形。
「……リュステル夫人」
そう、かつての姑がそこにいた。
「お久しぶりですわね、セリーヌ。あなた……少し痩せたかしら? でも顔つきは、随分、凛々しくなった」
リュステル夫人は冷たく笑った。だがその声には、かすかに動揺が混ざっていた。
「何をしに?」
「……あなたを迎えに来たのよ」
「迎えに?」
「ええ。家にはもう、あの子を諫められる者がいないの。今、ガレオンは苦しんでいる。あなたがいれば……少しは変わるかもしれないと思って」
店内に静けさが満ちる。見習いたちは手を止め、誰もがセリーヌの返答を待った。
セリーヌは一歩、夫人に近づいた。そして優雅に頭を下げ、静かに微笑んだ。
「ご心配ありがとうございます、リュステル夫人。でも、私はもう——誰にも仕えるつもりはありません」
「……っ!」
「お義母様に良くしていただいたことは、感謝しております。ですが、あの家に戻る理由も、理由もありません」
その声音には、かつて“ガレオン家の従順な妻”と呼ばれた面影はなかった。
「私は、私の足で立ちたいのです。自分の意志で、お菓子を作って生きていきたい。それが、今の私です」
見習いたちは息を呑み、思わず拍手しそうになるのを手で抑える。
リュステル夫人は一瞬、口を引き結んだが、やがてその瞳に、何かを飲み込んだような深い感情がよぎった。
「……あなた、本当に強くなったのね。まるで、昔の貴族の令嬢のように」
「昔のままではいられませんから」
そのとき、厨房から顔を出したルシアンが、にこやかに割って入った。
「リュステル夫人、お飲み物はいかがです? 少しお時間をいただければ、うちの“焼きりんごと紅茶のガナッシュ”が仕上がりますよ。ちょっと噛みつきたくなる味です」
「……お断りしますわ。王子」
冷たく言い放ち、夫人は背を向けて店を後にした。
静まり返る工房に、セリーヌがふっと息をつく。
「ちょっと緊張した……。でも、言えたわね。ちゃんと、私の言葉で」
ルシアンは近づき、彼女のエプロンの端をそっと直してくれる。
「美しかったよ。まるで、“誇り”を纏ってるみたいだった。僕の中の王妃候補ランキング、一位更新かも」
「……二位は?」
「僕の母。三位はセリーヌが作ったチョコレートムース」
「お菓子と張り合ってるの!? 私!」
二人は顔を見合わせて笑った。
風が、扉の隙間からふわりと入り込んで、工房にかすかなリンゴの香りを運んだ。
「“ひと口で恋に落ちるお菓子”だって!」「“食べたら涙が出た”って人もいたわよ!」
街角の噂にまぎれて、「行列が午前中で締め切られた」と嘆く客もいるほど。見習いの少女たちは忙しさに目を回しながらも、笑顔で働いていた。
そんなある日、工房の扉が重々しく開かれた。
「お客様ですか? すみません、今は整理券が——」
受付の少女の声が途中で止まったのは、そこに立っていた女性の、ただならぬ気配のせいだった。
黒いレースの手袋、歳月を感じさせない冷たい瞳、そしてセリーヌには見覚えのあるシニヨンの形。
「……リュステル夫人」
そう、かつての姑がそこにいた。
「お久しぶりですわね、セリーヌ。あなた……少し痩せたかしら? でも顔つきは、随分、凛々しくなった」
リュステル夫人は冷たく笑った。だがその声には、かすかに動揺が混ざっていた。
「何をしに?」
「……あなたを迎えに来たのよ」
「迎えに?」
「ええ。家にはもう、あの子を諫められる者がいないの。今、ガレオンは苦しんでいる。あなたがいれば……少しは変わるかもしれないと思って」
店内に静けさが満ちる。見習いたちは手を止め、誰もがセリーヌの返答を待った。
セリーヌは一歩、夫人に近づいた。そして優雅に頭を下げ、静かに微笑んだ。
「ご心配ありがとうございます、リュステル夫人。でも、私はもう——誰にも仕えるつもりはありません」
「……っ!」
「お義母様に良くしていただいたことは、感謝しております。ですが、あの家に戻る理由も、理由もありません」
その声音には、かつて“ガレオン家の従順な妻”と呼ばれた面影はなかった。
「私は、私の足で立ちたいのです。自分の意志で、お菓子を作って生きていきたい。それが、今の私です」
見習いたちは息を呑み、思わず拍手しそうになるのを手で抑える。
リュステル夫人は一瞬、口を引き結んだが、やがてその瞳に、何かを飲み込んだような深い感情がよぎった。
「……あなた、本当に強くなったのね。まるで、昔の貴族の令嬢のように」
「昔のままではいられませんから」
そのとき、厨房から顔を出したルシアンが、にこやかに割って入った。
「リュステル夫人、お飲み物はいかがです? 少しお時間をいただければ、うちの“焼きりんごと紅茶のガナッシュ”が仕上がりますよ。ちょっと噛みつきたくなる味です」
「……お断りしますわ。王子」
冷たく言い放ち、夫人は背を向けて店を後にした。
静まり返る工房に、セリーヌがふっと息をつく。
「ちょっと緊張した……。でも、言えたわね。ちゃんと、私の言葉で」
ルシアンは近づき、彼女のエプロンの端をそっと直してくれる。
「美しかったよ。まるで、“誇り”を纏ってるみたいだった。僕の中の王妃候補ランキング、一位更新かも」
「……二位は?」
「僕の母。三位はセリーヌが作ったチョコレートムース」
「お菓子と張り合ってるの!? 私!」
二人は顔を見合わせて笑った。
風が、扉の隙間からふわりと入り込んで、工房にかすかなリンゴの香りを運んだ。
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