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第27章:王宮への道
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王都の朝は、いつになく騒がしかった。
それもそのはず――“ルシアン王子、ついに婚約者を正式に王宮に迎える”というビッグニュースに、街中がざわついていたのだ。
そしてその婚約者とは――かつての侯爵夫人にして、現在は街一番の人気菓子職人、セリーヌ・リュミエール。
……というわけで、セリーヌ本人も今、絶賛ざわついていた。
「ちょ、ちょっとルシアン! このドレス、背中のボタンがとまらないの!」
「え、君の背中に何が起きてるの? 甘いものの食べすぎ?」
「それはあなたのせいでしょ!? “試作品だよ”って差し入れしてくるから!」
鏡の前であたふたとドレスと格闘するセリーヌに、侍女たちがあわてて手を貸す。その様子を、ルシアンはのんびり紅茶を飲みながら見守っていた。
「……で、緊張してる?」
「するに決まってるでしょ! あの王宮に、婚約者として行くんだから!」
「大丈夫。君は君のままでいればいい。堂々と、自信を持って」
その言葉に、セリーヌはふっと笑った。
「……前だったら、“ドレスも言葉も全部指示通り”で動いてたのにね。今は、自分の意思で選んだの。ドレスも、言葉も」
真紅のドレスは、華美ではないが、深い輝きを湛えていた。腕には菓子職人としての小さな火傷跡がある。それすら、彼女にとっては“勲章”だった。
――そして、ついにセリーヌは王宮の大広間へと立つ。
王や貴族たち、そして民衆までもが見守る中、彼女は一歩一歩、堂々と壇上へと歩みを進めた。
ドレスの裾を軽くさばき、まっすぐ前を見て、セリーヌは口を開いた。
「私は、セリーヌ・リュミエール。お菓子職人であり、ひとりの女性として――ここに立っています」
ざわ…と一瞬空気が揺れた。
「貴族の家に生まれながら、道半ばで捨てられ、職人として生き直し……そして今、またこうして皆さまの前に立てることを、心から誇りに思います」
「私の手で作ったお菓子が、誰かの笑顔を生むように。私は、これからも自分の手で、人生を作っていきたい」
拍手が、ひとつ、またひとつと鳴り響く。
やがてそれは、大きな歓声と喝采となって広がっていった。
「――言ったでしょ? 君は君のままでいいって」
すぐ隣でルシアンが、まるで子供のように嬉しそうに囁いた。
「……あのとき断ったのが、今じゃ信じられないわ」
「僕は信じてたけどね、君のこと。君の焼くタルトくらい確かな味だ」
「……ちょっと、それ誉め言葉になってる?」
「なってるとも! 世界一、甘くて、誇り高いタルトさ!」
彼の茶目っ気たっぷりの言葉に、セリーヌはふっと笑い、そっと手を彼の手に重ねた。
――その手は、もう誰かに導かれるためのものではなかった。
彼女は、自分の足で歩いている。
けれどその隣には、確かに誰かがいて。
二人は同じ速さで、同じ未来を見ていた。
それもそのはず――“ルシアン王子、ついに婚約者を正式に王宮に迎える”というビッグニュースに、街中がざわついていたのだ。
そしてその婚約者とは――かつての侯爵夫人にして、現在は街一番の人気菓子職人、セリーヌ・リュミエール。
……というわけで、セリーヌ本人も今、絶賛ざわついていた。
「ちょ、ちょっとルシアン! このドレス、背中のボタンがとまらないの!」
「え、君の背中に何が起きてるの? 甘いものの食べすぎ?」
「それはあなたのせいでしょ!? “試作品だよ”って差し入れしてくるから!」
鏡の前であたふたとドレスと格闘するセリーヌに、侍女たちがあわてて手を貸す。その様子を、ルシアンはのんびり紅茶を飲みながら見守っていた。
「……で、緊張してる?」
「するに決まってるでしょ! あの王宮に、婚約者として行くんだから!」
「大丈夫。君は君のままでいればいい。堂々と、自信を持って」
その言葉に、セリーヌはふっと笑った。
「……前だったら、“ドレスも言葉も全部指示通り”で動いてたのにね。今は、自分の意思で選んだの。ドレスも、言葉も」
真紅のドレスは、華美ではないが、深い輝きを湛えていた。腕には菓子職人としての小さな火傷跡がある。それすら、彼女にとっては“勲章”だった。
――そして、ついにセリーヌは王宮の大広間へと立つ。
王や貴族たち、そして民衆までもが見守る中、彼女は一歩一歩、堂々と壇上へと歩みを進めた。
ドレスの裾を軽くさばき、まっすぐ前を見て、セリーヌは口を開いた。
「私は、セリーヌ・リュミエール。お菓子職人であり、ひとりの女性として――ここに立っています」
ざわ…と一瞬空気が揺れた。
「貴族の家に生まれながら、道半ばで捨てられ、職人として生き直し……そして今、またこうして皆さまの前に立てることを、心から誇りに思います」
「私の手で作ったお菓子が、誰かの笑顔を生むように。私は、これからも自分の手で、人生を作っていきたい」
拍手が、ひとつ、またひとつと鳴り響く。
やがてそれは、大きな歓声と喝采となって広がっていった。
「――言ったでしょ? 君は君のままでいいって」
すぐ隣でルシアンが、まるで子供のように嬉しそうに囁いた。
「……あのとき断ったのが、今じゃ信じられないわ」
「僕は信じてたけどね、君のこと。君の焼くタルトくらい確かな味だ」
「……ちょっと、それ誉め言葉になってる?」
「なってるとも! 世界一、甘くて、誇り高いタルトさ!」
彼の茶目っ気たっぷりの言葉に、セリーヌはふっと笑い、そっと手を彼の手に重ねた。
――その手は、もう誰かに導かれるためのものではなかった。
彼女は、自分の足で歩いている。
けれどその隣には、確かに誰かがいて。
二人は同じ速さで、同じ未来を見ていた。
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