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最終章:幸せはこの手の中に
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ここは「ル・ボヌール」本店の厨房。壁には使い込まれた銅の鍋がいくつもかけられ、窓から差し込む柔らかな日差しが、焼き上がったクッキーの金色の表面をきらめかせている。
セリーヌは、白いエプロン姿でクッキーの生地をこねていた。その隣には、小さな女の子。まだ七つか八つほどの年齢で、金色のカールした髪をおさげに結っている。真剣な顔で生地に指を差し込みながら、思わずつぶやいた。
「ねえセリーヌさん、甘い香りって……なんだか、幸せの匂いがするね」
その言葉に、セリーヌはふっと笑った。鼻の頭にちょこんと小麦粉がついた少女の顔は、まるで過去の自分を見るようだった。
「そうよ。幸せってね、自分の手で作るものなの」
「手で……?」
少女は、自分の小さな手をじっと見つめたあと、セリーヌの手を見た。やわらかくて、少しだけ焼き跡が残るその手は、力強く、美しかった。
「私の手でも、できる?」
「もちろんよ。だって私も、最初はあなたと同じだったの」
「そっか……! じゃあ、もっともっと練習する!」
少女が元気に笑うと、ちょうど焼き上がったクッキーがオーブンから香ばしい香りを立ち上らせた。ふたりで「せーのっ」と取り出すと、金色に焼けたそれは、まるで祝福の証のように輝いていた。
その瞬間――
「なんだか美味しそうな匂いがすると思ったら、ここだったのか」
厨房の扉を開けて入ってきたのは、相変わらず王族の威厳を一切気取らない、ややチョコレートの匂いが好きすぎるルシアンだった。
「ねえ、もうつまみ食いはやめてって言ったでしょ。前に全部なくなって、開店前に泣いたのよ、厨房が」
「……あれは幻だったということにしないか?」
少女がくすくすと笑い、セリーヌも呆れた顔でルシアンの前に一枚、まだ熱々のクッキーを差し出した。
「ほら。焼きたてよ、陛下。つまみ食いはこの一枚だけね」
「陛下じゃなくて、ルシアンで頼むよ。まったく、厨房に入るたびに格式を思い出させられるんだ」
そう言いながら、彼はそのクッキーをかじると、目を閉じてうっとりと笑った。
「うん、やっぱり。君の作るものは、僕の心を一番簡単に溶かしてしまう」
「……溶けるのはチョコだけでいいのに」
「セリーヌ。僕の人生が、こんなに甘くなるなんて、君に出会うまで知らなかったよ」
「甘ったるいセリフも、あなたにかかれば本当に砂糖みたいね」
ふたりは顔を見合わせて笑い合い、その傍で少女がひとこと、ぽつりと言った。
「ねえ、私も将来……セリーヌさんみたいになれるかな」
セリーヌは少女の手をそっと取り、優しく握った。
「きっとなれるわ。だってほら――」
彼女は少女の手のひらに、小さなハート形のクッキーをそっと置いて微笑んだ。
「幸せはね、自分の手の中にあるのよ。ほら、もうあるじゃない」
少女は目を丸くしてから、嬉しそうに笑った。その笑顔が、セリーヌの胸をじんわりと温める。
――そう、私は今、幸せを作る人間になれた。
かつては誰かの後ろを歩いていた。けれど今は、自分の足で、誰かの未来を照らす光になれる。過去のすべてが、今日の笑顔に繋がっている。
甘い香りに包まれながら、セリーヌはそっと目を閉じた。
「ようやく、見つけたのね。私の物語の、幸せの結末を」
セリーヌは、白いエプロン姿でクッキーの生地をこねていた。その隣には、小さな女の子。まだ七つか八つほどの年齢で、金色のカールした髪をおさげに結っている。真剣な顔で生地に指を差し込みながら、思わずつぶやいた。
「ねえセリーヌさん、甘い香りって……なんだか、幸せの匂いがするね」
その言葉に、セリーヌはふっと笑った。鼻の頭にちょこんと小麦粉がついた少女の顔は、まるで過去の自分を見るようだった。
「そうよ。幸せってね、自分の手で作るものなの」
「手で……?」
少女は、自分の小さな手をじっと見つめたあと、セリーヌの手を見た。やわらかくて、少しだけ焼き跡が残るその手は、力強く、美しかった。
「私の手でも、できる?」
「もちろんよ。だって私も、最初はあなたと同じだったの」
「そっか……! じゃあ、もっともっと練習する!」
少女が元気に笑うと、ちょうど焼き上がったクッキーがオーブンから香ばしい香りを立ち上らせた。ふたりで「せーのっ」と取り出すと、金色に焼けたそれは、まるで祝福の証のように輝いていた。
その瞬間――
「なんだか美味しそうな匂いがすると思ったら、ここだったのか」
厨房の扉を開けて入ってきたのは、相変わらず王族の威厳を一切気取らない、ややチョコレートの匂いが好きすぎるルシアンだった。
「ねえ、もうつまみ食いはやめてって言ったでしょ。前に全部なくなって、開店前に泣いたのよ、厨房が」
「……あれは幻だったということにしないか?」
少女がくすくすと笑い、セリーヌも呆れた顔でルシアンの前に一枚、まだ熱々のクッキーを差し出した。
「ほら。焼きたてよ、陛下。つまみ食いはこの一枚だけね」
「陛下じゃなくて、ルシアンで頼むよ。まったく、厨房に入るたびに格式を思い出させられるんだ」
そう言いながら、彼はそのクッキーをかじると、目を閉じてうっとりと笑った。
「うん、やっぱり。君の作るものは、僕の心を一番簡単に溶かしてしまう」
「……溶けるのはチョコだけでいいのに」
「セリーヌ。僕の人生が、こんなに甘くなるなんて、君に出会うまで知らなかったよ」
「甘ったるいセリフも、あなたにかかれば本当に砂糖みたいね」
ふたりは顔を見合わせて笑い合い、その傍で少女がひとこと、ぽつりと言った。
「ねえ、私も将来……セリーヌさんみたいになれるかな」
セリーヌは少女の手をそっと取り、優しく握った。
「きっとなれるわ。だってほら――」
彼女は少女の手のひらに、小さなハート形のクッキーをそっと置いて微笑んだ。
「幸せはね、自分の手の中にあるのよ。ほら、もうあるじゃない」
少女は目を丸くしてから、嬉しそうに笑った。その笑顔が、セリーヌの胸をじんわりと温める。
――そう、私は今、幸せを作る人間になれた。
かつては誰かの後ろを歩いていた。けれど今は、自分の足で、誰かの未来を照らす光になれる。過去のすべてが、今日の笑顔に繋がっている。
甘い香りに包まれながら、セリーヌはそっと目を閉じた。
「ようやく、見つけたのね。私の物語の、幸せの結末を」
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