25番目の花嫁 ~妹の身代わりで嫁いだら、冷徹公爵が私を溺愛し始めました~

朝日みらい

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第44章 雪原の告白

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 目を覚ましてから、七日が経ちました。

 まだ身体の芯に少しだるさが残っていますが、窓から見える空はいつもより澄んで見えました。  
 あの事件以来、屋敷は静かな安堵に包まれています。  
 外の庭では、雪解けの水が小川をつくり、土の匂いを運んできました。

「奥様! 歩くので? お医者さまももう大丈夫っておっしゃってますが……でも心配です!」
「ふふ……メアったら、まるで子どもの監視のようです」
「当たり前です! 三日も眠り続けてたときの旦那様の顔、怖くて夢に出ますよ!」

 彼女の言葉に、思わず吹き出してしまいました。  
 確かに、あの時のアレクシス様の顔は、夢に見るほど心配そうだったに違いありません。

「じゃあ、ちょっとだけ外に出てみますね。すぐ戻りますから」
「……はい。足元おきをつけて!」

 外気に触れると、思わず深呼吸しました。  
 鼻先を冷たい風が掠め、冬と春の境を感じます。  
 遠くに見える雪原は、まるで銀の布を広げたように静まり返り、その真ん中に一面の白い花が咲いていました。

「……雪解け草、ですか」

 私がかつて植えた、小さな希望の花。  
 あの草には、病を癒し、寒気を柔らげる力があると言われています。  
 時が経っても枯れず、こうして新たな季節を迎えていたことに、胸がいっぱいになりました。

「やはりここにいたか」

 背後から、懐かしい低い声がしました。  
 振り向けば、アレクシス様が厚手の外套を纏って立っておられます。  
 冷たい風に銀の髪が揺れ、その横顔がいっそう凛々しく見えました。

「身体はもう平気か」
「はい。少し歩くだけなら大丈夫です」
「無理はするなよ。お前はいつも限界の少し先まで行こうとする」

 呆れたような声なのに、瞳の奥は優しさで満ちていました。  
 私が笑ったのを見て、彼もゆっくりと微笑みました。

 私は視界の眩しさに目を細めます。  
 その瞬間、アレクシス様の手がそっとこちらへ伸ばされました。

 厚い手袋を外し、直接触れた彼の掌は冷たくて温かい――不思議な矛盾を孕んだ温度。  
 心臓が、ゆっくりと跳ねました。

「リリアーナ。  
 お前を疑ったこと、一瞬でも怖れを向けてしまったこと……ずっと詫びねばと思っていた」

「いいえ。公爵様は私を守ってくださっただけです」

「違う。守りたいと思いながら、疑いの目を向けた。それが俺の弱さだ。  
 だが――お前があの夜、命を賭してまで花を止めたとき、ようやく気づいた。  
 勇気とは、恐れないことじゃない。恐れても、信じることを選ぶ力なんだと」

 彼の声は震えていました。  
 その手が、私の頬にそっと触れる。  
 冷たさではなく、愛おしさの熱。

「君が教えてくれたんだ。……生きることも、愛することも」

 胸の奥がきゅうっと締めつけられ、涙が溢れました。  
 私はその手を握りしめ、震える声で返しました。

「私の方こそ……あなたがいなければ、あんな勇気は無かったはずです。この世界を怖いままだったと思います。  
 だから、今こうして春を迎えられることが……本当に、幸せなんです」

 風が止まり、雪が溶けはじめた地面に滴が落ちます。  
 一滴、二滴――それは涙のようでした。

 アレクシス様はゆっくりと私を抱き寄せました。  
 外套の中に包まれて、胸の鼓動が耳に響きます。

「もう二度と、離さない。たとえ季節がどれほど巡ろうと」

「ええ……もちろん、離れません」

 その言葉とともに、世界が音を失ったかのように静まり返りました。  
 雪原の白、風の匂い、遠くの鐘の音――すべてが優しく溶け合っていく。

 アレクシス様は私の髪を撫で、微笑んで言いました。

「ようやく、春が来たのだな」
「はい。長い冬が終わって……」

 私は見上げ、彼の胸へ顔を埋めました。  
 心の奥で、芽吹きの音がかすかに鳴った気がします。  
 それはきっと、私たちの“再生”のはじまりでした。

……◇……

 夕暮れまで二人で雪原を歩きました。  
 空は茜色から群青へ。  
 白い雪に足跡が二つ並び、やがて一つに寄り添うように続いていきます。

「来年には、このあたりを薬草園にしましょうか」
「……また働く気か。ほどほどにしろよ」
「手伝ってくださるなら、無理はしませんけど」
「断る理由があると思うか?」

 その穏やかなやり取りに、笑いがこぼれました。  
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