9 / 34
(9)
しおりを挟む
「まあ、そうはよかったですわね」
セーリーヌは目を伏せた。
そして、アドニス侯爵を見上げた。
彼の瞳には静かな情熱の色が宿っている。
それに気がついたセーリーヌはなんだかいたたまれなくなった。
しかし、その熱からは逃れることができないような気がしたのだ。
アドニス侯爵はしばらくこちらを見下ろしていたかと思うと、唐突に口を開いた。
「あなたは殿下を守るために、身を挺して守った。そして大きなケガを負った。こんなに可愛らしいというのに」
「……!」
心臓が高鳴った。
なんてことを言うのだろうか、この人は!
まさかそんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
耳まで熱くなるのがわかる。きっと顔も赤くなっているに違いない。
ああ、でももうこのまま顔を隠してしまいたいくらいだ!
そんなセーリーヌの気持ちを知る由もなく、彼はただ黙ってこちらを見つめていた。
彼の容姿は一見、怖い印象を受ける。
しかし、その黒い瞳はとても優しい光を湛えていた。
その瞳を見ていると、なぜだか胸が苦しくなってくる。
「わ、わたくし……、お、お見送りいたしますわね!」
これ以上見つめ合っていられなくて、セーリーヌは目を逸らして立ち上がろうとする。
なんとかベッドから出たものの、背中の痛みでうめき声を上げ、再びベッドに倒れ込んでしまう。
アドニス侯爵が慌てて駆け寄ってきた。
「無理をするな」
彼はそういうと、ゆっくりと身体をベッドに横たえてくれた。
その大きな手から温かい体温が伝わってくる。
セーリーヌはその感覚に安心感を覚えた。
アドニス侯爵はセーリーヌの額に手のひらを乗せると、優しく撫でた。
その手がとても心地良い。思わず目を細める。
──このままずっとこうされていたい……。
そんなことを思ってしまった自分に驚いたセーリーヌは慌てて首を横に振った。
彼は不思議そうにこちらを見つめている。
なにか言わないといけないと思い口を開こうとしたが、彼のほうが早かった。
「おやすみ」
そういうと彼は立ち上がって部屋を出て行った。
その後ろ姿を見送りながらセーリーヌはそっと息を吐いた。
セーリーヌは目を伏せた。
そして、アドニス侯爵を見上げた。
彼の瞳には静かな情熱の色が宿っている。
それに気がついたセーリーヌはなんだかいたたまれなくなった。
しかし、その熱からは逃れることができないような気がしたのだ。
アドニス侯爵はしばらくこちらを見下ろしていたかと思うと、唐突に口を開いた。
「あなたは殿下を守るために、身を挺して守った。そして大きなケガを負った。こんなに可愛らしいというのに」
「……!」
心臓が高鳴った。
なんてことを言うのだろうか、この人は!
まさかそんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
耳まで熱くなるのがわかる。きっと顔も赤くなっているに違いない。
ああ、でももうこのまま顔を隠してしまいたいくらいだ!
そんなセーリーヌの気持ちを知る由もなく、彼はただ黙ってこちらを見つめていた。
彼の容姿は一見、怖い印象を受ける。
しかし、その黒い瞳はとても優しい光を湛えていた。
その瞳を見ていると、なぜだか胸が苦しくなってくる。
「わ、わたくし……、お、お見送りいたしますわね!」
これ以上見つめ合っていられなくて、セーリーヌは目を逸らして立ち上がろうとする。
なんとかベッドから出たものの、背中の痛みでうめき声を上げ、再びベッドに倒れ込んでしまう。
アドニス侯爵が慌てて駆け寄ってきた。
「無理をするな」
彼はそういうと、ゆっくりと身体をベッドに横たえてくれた。
その大きな手から温かい体温が伝わってくる。
セーリーヌはその感覚に安心感を覚えた。
アドニス侯爵はセーリーヌの額に手のひらを乗せると、優しく撫でた。
その手がとても心地良い。思わず目を細める。
──このままずっとこうされていたい……。
そんなことを思ってしまった自分に驚いたセーリーヌは慌てて首を横に振った。
彼は不思議そうにこちらを見つめている。
なにか言わないといけないと思い口を開こうとしたが、彼のほうが早かった。
「おやすみ」
そういうと彼は立ち上がって部屋を出て行った。
その後ろ姿を見送りながらセーリーヌはそっと息を吐いた。
251
あなたにおすすめの小説
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。
黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、
妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。
ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。
だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。
新たに当主となった継子は言う。
外へ出れば君は利用され奪われる、と。
それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、
私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。
短いお話です。
※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!
satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。
私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。
私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。
お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。
眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる