【完結】妹の不要品を押し付けられていたら、素敵な婚約を勝ち取りました! ~耐え続けた姉の華麗なる逆転劇~

朝日みらい

文字の大きさ
12 / 12

第12章 幸せの先で

しおりを挟む
 夜会の騒ぎも落ち着き、妹セレーネが社交界から姿を消してからしばらく――。

 私の心はようやく静けさを取り戻しつつありました。

 私は決めたのです。

 ダリオを選ぶ、と。

 「クラリッサ……本当に、俺でいいのか?」

 問いかける声があまりに真っ直ぐで、私は少し笑ってしまいました。

 「ええ。ずっと子どもの頃から……あなたのことが好きでしたから」

 頬を赤らめながら告げると、次の瞬間には強い腕の中に抱きしめられていました。

 「……もう二度と離さない」

 彼の囁きがあまりに真剣で、胸がきゅっと熱くなりました。



 選択を告げた時、アレクシオン殿下は微笑んで言ってくださいました。

 「君の決断を尊重しよう。……そして、心から祝福する」

 その青い瞳には一片も悔しさはなく、むしろ晴れやかな光が宿っていました。

 ――人を見る目が鋭い殿下らしい。きっと、私が自分で未来を選んだ、それを喜んでくださったのでしょう。

 「ありがとう……ございます」

 私が深々と頭を下げると、殿下はすっと近づき、髪を撫でるように一度だけ優しく触れてくださいました。

 「君の才は、きっとこの王国を豊かにする。胸を張るといい」

 胸が誇らしさで溢れて、涙が滲んでしまいました。



 ブルネール商会では、私の名が表に出ることとなりました。

 リメイクしたドレスや小物は、今や「クラリッサ・ブルネールの作」と呼ばれて店を飾っています。

 「お客様、こちらが“湖の姫君のドレス”でございます」

 番頭のバートンがそう呼んでくれて、私は思わず赤面してしまいました。

 でも、心のどこかが温かく誇らしい――もう“不要品を押し付けられる可哀想な姉”ではないのです。



 ある夕暮れ、視察に来ていたダリオが、作業に没頭していた私をそっと後ろから抱きしめてきました。

 「ひゃっ……! だ、ダリオさま!」

 「君が夢中で針を動かしている姿、誰にも邪魔させたくない」

 背中に伝わる温もりに頬が熱を帯び、心臓がしとどに跳ねました。

 「……作業の邪魔ですわ」

 「なら、終わるまでこのまま待つ。俺にできるのはそれだけだから」

 そう言って頬に触れる指があまりに優しく、涙がこぼれてしまいそうでした。


 何気ない日々。

 商会を支え、自分の名で作品を世に出し、ダリオと共に歩む生活。

 かつて倉庫に押し付けられた“お古”に埋もれていた私が、今こうして未来を手にしているのだと思うと、信じられないくらい幸せなのです。

 「クラリッサ」

 ふと名を呼ばれ、振り向いた途端、ダリオの手が私の髪を撫でました。

 琥珀の瞳には誠実な光が宿り、くすぐったいほど優しい。

 「愛している」

 囁かれて、涙が溢れるのを止められませんでした。


 王都の広場を歩くと、人々がささやきます。

 「幻の仕立て人はブルネール家の姉君だそうよ」
 「王子殿下に褒められ、侯爵令息に選ばれるなんて……まるでおとぎ話ね」

 私は微笑んで、そっと背筋を伸ばしました。

 もう陰に隠れる必要はないのです。

 私は私の力で未来を縫いあげる。

 そして幸せをまとう。

 胸いっぱいの想いを込めて、私は囁きました。

 「もう、お古なんていらないわ」

 ――真新しい未来を、愛と誇りを抱きながら。



【完】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

「誰もお前なんか愛さない」と笑われたけど、隣国の王が即プロポーズしてきました

ゆっこ
恋愛
「アンナ・リヴィエール、貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」  王城の大広間に響いた声を、私は冷静に見つめていた。  誰よりも愛していた婚約者、レオンハルト王太子が、冷たい笑みを浮かべて私を断罪する。 「お前は地味で、つまらなくて、礼儀ばかりの女だ。華もない。……誰もお前なんか愛さないさ」  笑い声が響く。  取り巻きの令嬢たちが、まるで待っていたかのように口元を隠して嘲笑した。  胸が痛んだ。  けれど涙は出なかった。もう、心が乾いていたからだ。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください

今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。 しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。 その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。 どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。 そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが…… 一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。 当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。

断罪された私ですが、気づけば辺境の村で「パン屋の奥さん」扱いされていて、旦那様(公爵)が店番してます

さら
恋愛
王都の社交界で冤罪を着せられ、断罪とともに婚約破棄・追放を言い渡された元公爵令嬢リディア。行き場を失い、辺境の村で倒れた彼女を救ったのは、素性を隠してパン屋を営む寡黙な男・カイだった。 パン作りを手伝ううちに、村人たちは自然とリディアを「パン屋の奥さん」と呼び始める。戸惑いながらも、村人の笑顔や子どもたちの無邪気な声に触れ、リディアの心は少しずつほどけていく。だが、かつての知り合いが王都から現れ、彼女を嘲ることで再び過去の影が迫る。 そのときカイは、ためらうことなく「彼女は俺の妻だ」と庇い立てる。さらに村を襲う盗賊を二人で退けたことで、リディアは初めて「ここにいる意味」を実感する。断罪された悪女ではなく、パンを焼き、笑顔を届ける“私”として。 そして、カイの真実の想いが告げられる。辺境を守り続けた公爵である彼が選んだのは、過去を失った令嬢ではなく、今を生きるリディアその人。村人に祝福され、二人は本当の「パン屋の夫婦」となり、温かな香りに包まれた新しい日々を歩み始めるのだった。

処理中です...