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第7章:もう一人の婚約者候補、現る!?
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「どうも。セレナ嬢、初めまして」
そう言って、柔らかな声と共に差し出された手。
陽の光をそのまま閉じ込めたような明るい金髪が、窓辺でさらりと揺れています。
そして、きらきらと人懐こく笑うその顔は、どこまでも軽やかで、なのにどこか洗練された気品を纏っていました。
完璧な笑顔、完璧な所作、完璧な貴族の立ち居振る舞い。
目の前に立っていたのは、第二王子——ユリウス・レオニール殿下でした。
「僕も、セレナ嬢に興味があってね」
「……え?」
え? いま、何て?
“興味”って、どういう意味ですか!?
しかも、しかも王子様って——絶対、トラブルの元じゃないですか!
思わず一歩後ずさりしそうになった私に、彼はいたずらっぽく笑いかけてきました。
「君の料理の評判、聞いてるよ。侯爵家の厨房で、使用人たちが君のことを“魔法の手”って呼んでるらしいじゃないか」
「えっ、魔法!? いやいや、そんな大それたものじゃありません! ただの庶民の知恵でして!」
思わず手を振って全力否定。
でも、そんな私の反応を見て、彼はますます愉快そうに目を細めました。
「謙遜も可愛いね」
「……え?」
可愛いって、そんな、王子様に言われたら、なんかこう、戸惑うっていうか、むしろ警戒した方がいいのでは……!
この人、軽い。軽すぎます。
けれど、にこやかな笑顔には押しつけがましさがなくて、目の奥には王族らしい落ち着いた知性が見え隠れしていて。
まるで、距離感を測る余裕がすでにこちらより一歩先を行っているような、そんな感じでした。
「セレナ嬢、よければ王宮の舞踏会にご招待したいのだけど」
「えっ、舞踏会!? 私がですか?」
予想だにしない申し出に、声が裏返ってしまいました。
「もちろん。君のような方にこそ、華やかな場が似合うと思う」
「いやいやいや、私、庶民派ですから! 舞踏会なんて、踊れる気がしません!」
あたふたと手を振る私に、彼は胸に手を当てて、優雅に一礼しました。
「僕がエスコートするから安心して」
「……うわぁ……」
これは、やっぱり、王子様だ……。
言葉は軽いのに、なぜか説得力があるのが悔しい。距離の詰め方が貴族じゃない。ずるい……。
ユリウス殿下が軽やかな足取りで去った後のこと。
その場の空気が、がらりと変わったのを感じました。
静かで、冷たいような……不穏な気配。
「君は行かない」
背後から落ちてきたのは、聞き慣れた——けれど、少し低くて硬い、ライネル様の声でした。
「え?」
「舞踏会など、君には必要ない」
言い切るような口調に、私は戸惑いました。
「でも、せっかく誘っていただいたし……」
「断れ」
「……ライネル様?」
思わず彼の顔を覗き込むと、真剣そのものの眼差しが、まっすぐに私を見つめていました。
「……君は、僕の婚約者だ」
その言葉に、心臓が跳ねる音が聞こえた気がしました。
「……それって、まだ解消されてないってことですか?」
震える声で問いかけた私に、彼は少し視線を逸らし、低く呟きました。
「……僕が、解消したくないと思っているなら?」
「えっ……」
一瞬、時間が止まった気がしました。
でも彼はすぐに顔をそらし、そのまま小さく首を振りました。
「君は、変なやつだ。だけど、僕にとっては——」
そこまで言って、彼は言葉を飲み込みました。
また、その“あと少し”で届かない距離がもどかしい。
「……舞踏会には行かないでくれ」
「……わかりました」
私は、そっと頷きました。
そうして歩き去ろうとした時——
「……あいつはやめとけ」
ぽつりと呟いたその声には、僅かに棘のようなものが混じっていた気がしました。
「え?」
「ユリウスは、遊び人だ。君みたいな真面目な子には向かない」
いつもの無表情のまま、だけど唇の端が微かに吊り上がっている。
これは……もしかして、嫉妬?
「……まさか、やきもちですか?」
恐る恐る尋ねてみると——
「違う」
即答。
でも、微妙に視線が泳いでいる。
「ほんとに?」
「……違うと言っている」
わざとらしいくらい目を逸らしたままのその態度に、思わずくすりと笑ってしまいました。
その日の夕食。
ライネル様は終始むすっとしていて、スプーンを持つ手もいつもより雑で。
でも、目線だけはずっと私のことを追っていて。
何も言わないくせに、こんなにわかりやすい人、他にいません。
ちょっとだけ、かわいかったです。ほんのちょっとだけ。
そう言って、柔らかな声と共に差し出された手。
陽の光をそのまま閉じ込めたような明るい金髪が、窓辺でさらりと揺れています。
そして、きらきらと人懐こく笑うその顔は、どこまでも軽やかで、なのにどこか洗練された気品を纏っていました。
完璧な笑顔、完璧な所作、完璧な貴族の立ち居振る舞い。
目の前に立っていたのは、第二王子——ユリウス・レオニール殿下でした。
「僕も、セレナ嬢に興味があってね」
「……え?」
え? いま、何て?
“興味”って、どういう意味ですか!?
しかも、しかも王子様って——絶対、トラブルの元じゃないですか!
思わず一歩後ずさりしそうになった私に、彼はいたずらっぽく笑いかけてきました。
「君の料理の評判、聞いてるよ。侯爵家の厨房で、使用人たちが君のことを“魔法の手”って呼んでるらしいじゃないか」
「えっ、魔法!? いやいや、そんな大それたものじゃありません! ただの庶民の知恵でして!」
思わず手を振って全力否定。
でも、そんな私の反応を見て、彼はますます愉快そうに目を細めました。
「謙遜も可愛いね」
「……え?」
可愛いって、そんな、王子様に言われたら、なんかこう、戸惑うっていうか、むしろ警戒した方がいいのでは……!
この人、軽い。軽すぎます。
けれど、にこやかな笑顔には押しつけがましさがなくて、目の奥には王族らしい落ち着いた知性が見え隠れしていて。
まるで、距離感を測る余裕がすでにこちらより一歩先を行っているような、そんな感じでした。
「セレナ嬢、よければ王宮の舞踏会にご招待したいのだけど」
「えっ、舞踏会!? 私がですか?」
予想だにしない申し出に、声が裏返ってしまいました。
「もちろん。君のような方にこそ、華やかな場が似合うと思う」
「いやいやいや、私、庶民派ですから! 舞踏会なんて、踊れる気がしません!」
あたふたと手を振る私に、彼は胸に手を当てて、優雅に一礼しました。
「僕がエスコートするから安心して」
「……うわぁ……」
これは、やっぱり、王子様だ……。
言葉は軽いのに、なぜか説得力があるのが悔しい。距離の詰め方が貴族じゃない。ずるい……。
ユリウス殿下が軽やかな足取りで去った後のこと。
その場の空気が、がらりと変わったのを感じました。
静かで、冷たいような……不穏な気配。
「君は行かない」
背後から落ちてきたのは、聞き慣れた——けれど、少し低くて硬い、ライネル様の声でした。
「え?」
「舞踏会など、君には必要ない」
言い切るような口調に、私は戸惑いました。
「でも、せっかく誘っていただいたし……」
「断れ」
「……ライネル様?」
思わず彼の顔を覗き込むと、真剣そのものの眼差しが、まっすぐに私を見つめていました。
「……君は、僕の婚約者だ」
その言葉に、心臓が跳ねる音が聞こえた気がしました。
「……それって、まだ解消されてないってことですか?」
震える声で問いかけた私に、彼は少し視線を逸らし、低く呟きました。
「……僕が、解消したくないと思っているなら?」
「えっ……」
一瞬、時間が止まった気がしました。
でも彼はすぐに顔をそらし、そのまま小さく首を振りました。
「君は、変なやつだ。だけど、僕にとっては——」
そこまで言って、彼は言葉を飲み込みました。
また、その“あと少し”で届かない距離がもどかしい。
「……舞踏会には行かないでくれ」
「……わかりました」
私は、そっと頷きました。
そうして歩き去ろうとした時——
「……あいつはやめとけ」
ぽつりと呟いたその声には、僅かに棘のようなものが混じっていた気がしました。
「え?」
「ユリウスは、遊び人だ。君みたいな真面目な子には向かない」
いつもの無表情のまま、だけど唇の端が微かに吊り上がっている。
これは……もしかして、嫉妬?
「……まさか、やきもちですか?」
恐る恐る尋ねてみると——
「違う」
即答。
でも、微妙に視線が泳いでいる。
「ほんとに?」
「……違うと言っている」
わざとらしいくらい目を逸らしたままのその態度に、思わずくすりと笑ってしまいました。
その日の夕食。
ライネル様は終始むすっとしていて、スプーンを持つ手もいつもより雑で。
でも、目線だけはずっと私のことを追っていて。
何も言わないくせに、こんなにわかりやすい人、他にいません。
ちょっとだけ、かわいかったです。ほんのちょっとだけ。
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