【完結】公爵家の養女、実娘発見で即追放……でも辺境の冷徹伯爵に拾われて、なぜか溺愛されてます ~

朝日みらい

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第3章 突然の報せ

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 あれから数日が経ちました。

屋敷のざわめきは、不安を煽るように日ごとに増していきます。

いつかこの日が来ることはわかっていたはずなのに、いざその時が目前に迫ると、どうしようもない恐怖に囚われていました。

 そして、ついにその日が来たのです。

行方不明だった公爵家の実の娘、セリーヌ嬢が、十年以上の時を経て、ヴァレンタイン公爵家へと帰還する日でした。

 わたしは、皆と一緒に、玄関ホールに並んでいました。

普段は冷たい視線を向けてくる義母イザベラ様は、今日に限っては、その顔に、わたしが今まで見たことのない、本物の喜びを浮かべています。

侍女たちも皆、涙を浮かべ、今か今かと、彼女の帰りを待ちわびていました。

公爵家の紋章が入った立派な馬車が、門をくぐり、玄関へと向かってきます。

 そして、その扉が開かれた瞬間、わたしの目に飛び込んできたのは、まるで太陽の光を閉じ込めたかのような、輝く金髪と、澄んだ湖のような碧眼を持つ、美しい少女でした。

 彼女の名は、セリーヌ・ヴァレンタイン。

十年以上もの間、行方不明とされてきた“本物の娘”。

かつて五歳の頃、護衛とともに城下へ出向いた帰り道、謎の賊に襲撃され、忽然と姿を消したのだと聞かされました。

護衛は殺され、馬車は焼き払われ、残されたのは血の跡だけ――人々は皆、彼女は死んだものと思い込んでいたのです。

 けれど実際には、彼女はどこかの地方貴族の屋敷で、身分を隠されるようにして匿われていたのだと。

詳しい経緯は語られません。本人も「長い間、遠い土地で療養していた」とだけ穏やかに微笑むばかり。

 しかし、十年以上もの沈黙の理由には、単なる事故や親切心では説明のできない、複雑な闇が絡んでいる――そんな確信を、わたしは彼女の静かな瞳の奥に感じていました。

絹のドレスに身を包んだ彼女は、一歩屋敷の中へと足を踏み入れました。

その瞬間、空気が変わった――と、わたしは感じました。

今まで、この屋敷を覆っていた重く冷たい空気が、まるで春の風に吹き払われたかのように、パッと明るく、華やかになったのです。

「セリーヌ…! 私の、大切な娘…!」

 義母イザベラ様は、歓喜の声を上げ、彼女を固く抱きしめました。

侍女たちは、皆、感極まったように涙を流しています。

 そして、わたしは、その光景を、ただ、呆然と見つめることしかできませんでした。

彼らの喜びと幸福が、あまりにも鮮やかで、そして、わたしとは、あまりにもかけ離れたものだったからです。

 その日の夜。

久しぶりに、家族全員が食卓に揃いました。

 席に着くと、わたしは、いつものように端の席に座ります。

けれど、中央に座るセリーヌ嬢の周りには、たくさんの人たちが集まっていました。

 イザベラ様とレオンハルト様は、交互に彼女に話しかけ、セリーヌ嬢もまた、にこやかに微笑みながら、旅先での出来事や、護られてきた年月について、穏やかに語りました。

彼女が言葉を発するたびに、テーブルは笑い声と幸福な空気に満たされていきます。

 わたしは、ただ黙って、微笑みを顔に貼り付けていました。

――まるで、最初から、わたしという存在が、このテーブルにいなかったかのように。

 食事が終わる頃、わたしは背後から、侍女たちのひそひそ話を耳にしました。

「これで、やっと本物の奥様が帰ってきてくださったわ」
「ええ。もう、あの養女は不要ね」

 その言葉が、わたしの心を、ナイフで抉るように突き刺しました。

 不要。

 わたしは、この家にとって必要のない存在。

その事実を、わたしは、もう一度、突きつけられたのです。

セリーヌ嬢の帰還は、わたしにとって希望の光などではありませんでした。

それは、わたしをこの家から追い出すための、追放の宣告。

 わたしの心の奥底に、凍りついた氷の塊が、ゆっくりと広がっていくのを感じました。

その夜、部屋へ戻ったわたしを待っていたのは、一輪の白い薔薇でした。

小さな包みの上に、そっと置かれたそれは、夜の静けさの中で、神秘的に白く輝いています。

花弁の隙間には、小さな紙が差し込まれていました。

「君の居場所は、必ず存在する。恐れず進みなさい」

 短いその文に、胸が強く熱くなるのを感じました。

窓辺に近づくと、庭の暗がりに、一瞬だけ、人影が見えました。

黒い外套をまとい、背を向けて歩み去る影。

驚きに駆られて部屋を飛び出し、廊下を走って庭へ降りました。

しかし、その姿はもうどこにもありません。まるで夜闇そのものに溶けてしまったかのようでした。

 わたしは薔薇を胸に抱きしめ、小さく呟きました。

「……ありがとう」

 孤独に押し潰されそうだった心に差し込んだ、小さな灯火。

それは、まだ見ぬ誰かの存在を確かに感じさせ、冷たい氷に覆われたわたしの心を、わずかに温めてくれたのです。
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