寝坊した大聖女、1000年後の王子に溺愛される

朝日みらい

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序章 約束の眠り

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 空が、燃えるように赤く染まっていました。  
 世界が崩れ落ちていく音が響き、足もとには無数の魔の影が広がっていました。

 その中心で、わたしは杖を握りしめ、膝をついたリースのもとへ駆け寄りました。

「リース!」

「来るな、オーフィン! まだ……終わっていない!」

 彼の背後で渦巻く黒い魔力は、“災厄の魔”が滅びの叫びとともに放つ、最後の抵抗でした。  
 空が裂けて、大地が泣き、風が泣いていました。  
 それでも、わたしたちは笑っていたのです。

「……ねぇ、私たち、よくここまで来ましたね。」

 リースは短く息を吐き、血に濡れた顔でふっと微笑みました。  
 その笑顔はとても穏やかで、あまりにも清らかで、胸が締めつけられました。

「これで……終わりだ。結界の中心に、おまえの祈りを。」

「……うん。」

 わたしは彼の手を取り、その手を重ねるように胸の前へ持っていきました。  
 指先が触れた瞬間、わずかに震えていたのを覚えています。

 この世界を守るために、二人の命の力を結界に変える――。  
 それは眠りの儀、魂を時に託し、未来に希望を届けるための最後の術でした。

「五百年後。もしまた“魔”が蘇ったら……その時、いっしょに笑おう。」

 リースの言葉に、わたしは小さく頷きます。

「うん。……そのときも、あなたと一緒に。」

「約束だ。」

 血に染まったリースの右手が、そっとわたしの頬に触れました。  
 その手の温もりはやさしくて、切なくて、涙がこぼれそうでした。

「泣くな。」

「泣いてません。」

「なら、笑って。お前の笑顔が――世界を照らす。」

 彼の声が微かに震えて聞こえました。  
 けれど、わたしは笑いました。泣きながら、笑うしかなかったのです。

「じゃあ、笑います。あなたが見失わないように、一番大きく。」

「……ああ、まぶしいな。」

 リースが小さく息を吐いて笑いました。  
 その姿を見た瞬間、胸の中にあった恐怖が消えていったのを感じました。

「リース。」

「……なんだ。」

「次に目を覚ましたら、もう泣かないでくださいね。笑ってください。」

「ああ、約束する。」

 わたしたちは手を重ね、光がその指先から溢れていきました。  
 怨嗟の声とともに魔の力が世界を飲みこもうとするその直前、  
 わたしたちの祈りがひとつに重なります。

「時よ、どうか――この願いを未来へ渡してください。」

 眩しい光が一面に広がり、風がすべてを包みこみました。  
 枯れ落ちた草木が溶け、時間の流れがゆっくりと止まっていきます。  
 静寂の中で、彼の声が確かに聞こえました。

「……オーフィン。また笑おうな。」

「うん、約束ですよ。」

 光の粒が夜空へ舞い、二人を包んでいきました。  
 祈りの歌が響き、天空が沈黙していくその中で――  
 わたしたちは、ゆっくりと目を閉じました。

 長い長い眠りが降りてきます。  
 未来の誰かの笑顔を夢見るように、そっと意識が遠のいていきました。

 けれど、その眠りが五百年ではなく、  
 千年もの時を越えることになるとは――  。
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