【完結】婚約解消だったので、嫌われ者の侯爵に嫁ぐことにしました。

朝日みらい

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第2章: 嫌われ者の侯爵への縁談 

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はあ…もう、どうしてこうなったんだろう。

私、セシリア・フォン・ヴァルデンは、婚約解消に続き、またもやとんでもない事態に突き進んでいる。

今度は、私が嫌われ者として知られる侯爵アレクシスとの縁談を承諾しないといけなくなるなんて。

「セシリア、お前が結婚するなら、アレクシス侯爵が最適だろう。」

父の言葉が耳に残る。

もちろん、父の言うことには逆らえない。

私の家族は名誉と責任で成り立っているから、家のためにこの縁談を受け入れなければならない。

だけど、アレクシス侯爵って、どうしてあんなに冷酷で孤立しているの?

社交界でも誰にも好かれていないし、むしろ「嫌われ者」として知られている彼と一緒に暮らすなんて、想像もつかない。

「でも…アレクシス侯爵が一体どんな人なのか、私もわからないし。」

私は一人で部屋の中でため息をつきながら、鏡を見つめる。

その時、部屋のドアが開いて、家の執事が入ってきた。

「セシリア様、お父様がお呼びです。」

「うん、わかりました。」

私は鏡に映った自分に小さく言い聞かせるように、もう一度深呼吸をしてから部屋を出る。

父の書斎に入ると、父は椅子に座り、私を迎え入れた。

顔にはいつもの真剣な表情が浮かんでいる。

私もあえて、緊張せずに笑顔を作る。

「セシリア、お前もよく知っているだろうが、家のためにはこの縁談が最良だ。」

父が低い声で言う。

その目は私をしっかり見据えている。

「はい、父様。私も承知しています。」

私は頷きながら言う。だって、もうそれしか言えないから。

「アレクシス侯爵は冷酷だと言われているが、あれはただ社交界でうまく立ち回れないだけだ。彼には強い責任感がある。お前が彼に寄り添えば、きっと家も安定するだろう。」

父の言葉に、私は心の中でため息をつく。

「わかりました、父様。」

私は小さく答えるしかなかった。


その後、数日後には、私はアレクシス侯爵と初めて顔を合わせることになる。

その日が来るのが、なんだか怖いような、でも少しだけ期待している自分がいるような、不思議な気持ちだった。


そして、ついにその日。

アレクシス侯爵が私の家に訪れる日がやってきた。

「セシリア様、アレクシス侯爵がお越しになります。」

執事の声が聞こえた。

私は少し緊張しながら、廊下を歩く。

足音が響く度に、心臓がドキドキと早くなる。

だって、あの冷酷で孤立しているというアレクシス侯爵が、私の前に現れるんだ。

どんな人なんだろう?

そして、ドアが開いて、ついに彼が入ってきた。

アレクシス侯爵は…思っていたよりも、ずっと冷静で、静かな人物だった。

年齢は私とそう変わらないように見えるが、彼の目は深く、何かを隠しているような、そんな気がした。

「セシリア・フォン・ヴァルデン公爵令嬢、お目にかかれて光栄だ。」

アレクシス侯爵は、冷たく、しかし礼儀正しい言葉で挨拶をする。

まるで私を試すような目で見ているのがわかる。

「こちらこそ、お会いできて光栄です。」

私は少しだけぎこちなく答える。

だって、どう返事をしていいのかわからなかったんだもの。

「あなたが婚約者として迎え入れられるということは、私も家族に責任を持たなければならないということだ。」

アレクシス侯爵は、私をまっすぐに見つめながら言った。

その目はとても真剣だったけど、どこか冷たさを感じさせる。

「はい…。」

私はその目に少しだけ恐怖を感じつつ、力強く頷いた。

「セシリア、公私ともに支え合う関係を築きたいと思っている。」

彼がさらに続ける。その言葉には、強い覚悟が感じられた。

でも、それだけでは何か物足りない。

どうしても、私は彼の冷たい部分に引き寄せられて、心が重くなる。

「あなたの家が困難な時期だと聞いている。」

アレクシス侯爵が言った。

その声には冷徹さがにじみ出ているが、私はその中に、わずかな優しさを感じることができた。

「はい…。」

私はまた小さく答えるだけ。

そして、しばらくの沈黙が流れる。

お互いに言葉を選んでいるようで、何とも言えない空気が漂っていた。

私はこの縁談がどんな結果になるのか、まったく予測できなかった。

その瞬間、アレクシス侯爵が少しだけ視線をそらし、私に向かってふっと微笑んだ。

それは、私が今まで見たことのない、ほんの少しだけ優しさを感じさせる笑顔だった。

「結婚するにあたって、君が心配しないように尽力する。」

その言葉に、私は少しだけ安心した。

でも、まだ不安が残っていた。

「ありがとうございます、アレクシス侯爵。」

私は少しだけ微笑み返し、心の中で思った。

これからどうなるのか、私たちの未来がどう展開していくのか、少し楽しみにしつつ、でも、どうしてもこの縁談には複雑な気持ちが絡んでいた。
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