【完結】婚約解消だったので、嫌われ者の侯爵に嫁ぐことにしました。

第6章: 使用人たちとの軋轢

侯爵邸に移り住んでから、私の生活はどうにも不安定で、すぐに慣れることができなかった。

特に使用人たちとの関係は、始めから妙にぎこちない。

最初は、私がこの家の主人だと理解してくれたのだろうけれど、どうしても冷たい態度をとる人が多かった。

まるで私が彼らに何かしでかすのではないかという警戒心を持っているように見えた。

そして、ある日のこと。

廊下を歩いていた私は、使用人たちが小声で何かを話しているのを耳にした。

私の名前を口にしているのはわかるけれど、内容が何か不安を感じさせるものだった。

足を止めて耳を澄ませると、どうやら私が他の侯爵家に比べて「不格好」で「おおよそ礼儀を欠いている」といったことを話しているようだった。

「…私が、礼儀を欠いている？」

私は心の中で呆れつつも、思わず足を速めて使用人たちの前に出てしまった。

なんだか口をつぐんでいる様子に、さらにイライラが募る。

私の顔を見て驚いたのか、彼らは慌てて言葉を止めた。

「何か言いたいことがあるの？」

私は冷たく言ってみた。

すると、一人の女性使用人がビクっと反応し、うつむきながら「い、いえ、何も…」と言う。

「じゃあ、余計なことを話さないほうがいいわね。」と私が冷ややかに言うと、その場はシーンと静まり返った。

周囲が妙に静かになったので、私はそのまま無言で歩き去ろうとしたが、その時、突然背後から聞こえた声に足を止めた。

「セシリア。」

その声は低く、少し不安げで、それでも少しだけ優しさが混ざっていた。

アレクシスの声だった。

振り向くと、彼が廊下の端からこちらに歩み寄ってきていた。

少し早歩きで歩いてくる彼を見て、私は心の中でホッと一息つく。

どうやら、私が何かしでかしそうになっていることに気づいていたようだ。

「大丈夫か？」

アレクシスが私の前に立って、眉をひそめた。

まるで私が何か悪いことをしたのではないかと心配しているみたいな顔をしていた。

正直、私は少し驚いた。

「うん、大丈夫よ。ただ、ちょっとしたことでね。」

私は無理に笑ってみせるが、アレクシスはその笑顔をすぐには受け取らなかった。

「無理に笑うな。」

彼は一歩近づいてきて、少しだけ私の顔を見つめながら言った。

その言葉の奥には、いつもの冷たい雰囲気とは違う、少しだけ柔らかな何かが感じられた。

その瞬間、私は心臓が跳ねるような感覚に襲われ、顔が赤くなるのを感じた。

何だか、照れくさいような、でも不思議と暖かいような気持ちが湧いてきた。

「でも、アレクシスが来てくれたおかげで、何も起きなかったわ。ありがとう。」

私は少し照れながらも、彼に感謝の気持ちを込めて言った。

アレクシスはその言葉を聞くと、少しだけ口元が緩んだ。

「ふん。だが、ここにいる限り、しばらくは注意した方がいい。」

彼は真面目な顔で言うけれど、どこか優しさが見え隠れしている。

その少しの優しさに、私はまた胸が温かくなるような感覚を覚えた。

「そうね…でも、もう少し気をつけるわ。」

私は彼の目を見て、少しだけ顔を伏せた。

その後、アレクシスはしばらく黙っていたが、急に肩をすくめて、少しだけ困ったように言った。

「ところで、お前、手に何か持ってるのか？」と言いながら、私が無意識に持っていた花を指さした。

「あ、これ？」

私は花を見てから笑顔を作り、「さっき庭で摘んできたの。別に何でもないわ。」と、手にした花を彼に見せた。

「花か。」

アレクシスは少しだけ頷いて、目を細めた。

「お前が花を持っているのを見るのは、なんだか不思議だな。」

「そう？」

私は少し笑うと、花を軽く彼の方に向けて見せた。

「でも、こうして花と一緒にいると、少し落ち着くのよ。」

「…それは分かる気がする。」

アレクシスは静かに言うと、少しだけ視線を逸らし、再び私を見た。

「まあ、せっかくだから、その花、俺にも見せてくれ。」

そんな些細な会話が、私にとっては大きな意味を持つような気がした。

アレクシスがこんなふうに穏やかな気持ちで接してくれることが、ただ単純に嬉しく感じていた。

その後も、私とアレクシスは少しだけ歩きながら、庭や家のことについて話を続けた。

彼が突然、私の手に触れる瞬間があり、私は驚きながらも、心のどこかで嬉しい気持ちが込み上げてくるのを感じていた。