【完結】婚約解消だったので、嫌われ者の侯爵に嫁ぐことにしました。

朝日みらい

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第7章: 共通の趣味の発見 

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あの日から、アレクシスとの関係が少しずつ変わっていった気がする。

あの冷たい侯爵邸での不安な生活が、だんだんと心地よくなり始めた。

もちろん、すべてがスムーズに進んでいるわけではないけれど、少なくとも私は少しずつ、アレクシスのことを知っていっている気がしていた。

その日の午後、私は庭のベンチに座っていると、ふと音楽のことを思い出した。

幼い頃、母と一緒に弾いたピアノの音、家でよく流れていたメロディー…。

音楽は私にとって、ただの趣味を超えて、心を落ち着ける大切なものだった。

アレクシスに言ったことはないけれど、ふとそれを思い出すと、無性に弾きたくなった。

ちょうどその時、アレクシスが庭に現れた。

彼は私を見つけると、何も言わずに静かに近づいてきた。

あの日のように、またちょっと冷たい印象だけど、顔に浮かぶわずかな微笑みがなんだか優しく見えて、それがまた私の胸をキュンとさせる。

「何を考えている?」と、アレクシスが聞いてきた。

「音楽のこと。」

私はちょっと照れながら答えた。

「昔、家でよくピアノを弾いていたんだけど…最近はなかなか触れなくて。」

「音楽か。」

アレクシスは少しだけ顔をしかめてから、「それなら、試してみればいいだろう。」と言って、手をポケットから出した。

「試してみる?」と私は首をかしげた。

アレクシスは真面目な顔をしていたけれど、私が疑問に思うと、突然、小さな笑みを浮かべた。

「俺も音楽が好きだ。なら、これをやろう。」

そう言って、彼が私に手渡したのは、一見すると小さな箱だった。

「何これ?」

私は少し驚きながら箱を開けた。

中には、精緻に作られた小さな弦楽器が入っていた。

美しい木製のボディと、細かく刻まれた装飾。

まるで手作りのような、温かみのあるデザインだった。

私が思わず目を見開くと、アレクシスは少し照れくさそうに言った。

「お前が音楽を愛しているなら、これが役立つだろう。奏でてみろ。」

私は無言でその楽器を手に取った。

手にした瞬間、なんだか胸が温かくなった。

アレクシスがこんなにも気を使ってくれるなんて、思ってもみなかったからだ。

私は少しだけ顔を赤らめて、楽器の弦を触れてみる。

軽く弾いてみると、澄んだ音が庭に響いて、まるで心が落ち着くようだった。

「すごく素敵な音…」

私は思わず感嘆の声を漏らす。

アレクシスは静かに私を見守っている。

彼の目にはほんのりとした満足げな表情が浮かんでいて、それがまた私をドキドキさせる。

「その楽器、気に入ってくれたか?」

彼が少し照れたように尋ねた。

「もちろん!こんなに美しい楽器、ありがとう!」

私は嬉しさを隠しきれずに言った。

すると、アレクシスはにやりと笑って、「じゃあ、少しは音楽を弾いてみろよ。」と挑戦的に言った。

「うーん…そうね。」

私は微笑みながら楽器を手に取った。

「でも、弾くのは久しぶりだから、下手かもしれないわよ?」

「お前の音楽なら、どんな音でも心地よく聞こえるだろう。」

アレクシスは一言だけ、そう言って立ち止まった。

その言葉に、私は胸がじんわりと温かくなるのを感じた。

彼がこんなにも優しい言葉をかけてくれるなんて、思ってもみなかった。

思わず顔が赤くなってしまったけれど、それでも私は楽器を弾き始めた。ゆっくりとしたメロディーが流れるたびに、私の心も少しずつ軽くなっていくような気がした。

「いい音だな。」

アレクシスが小さく呟くと、私は弾く手を止め、彼の方を見た。

「ありがとう、アレクシス。これ、すごく気に入ったわ。」

アレクシスは私の目をじっと見つめながら、「俺もお前が喜んでくれてうれしい。」と言って、また少しだけ照れくさい笑顔を見せてくれた。

その瞬間、私は心の中で決めた。このまま少しずつでも、彼ともっと近づいていけたらいいな、と。
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