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異世界
6 餌
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話をはぐらかされているとでも思ったのか、少女の口調には苛立ちがまじる。
その態度に焦りを覚えたのか、狼男たちは慌てた素振りで弁明を始める。
「ちょ、ま、待ってくれ! 俺たちはただ、弱そうなベビーを見つけて、つるんでいただけで。遊んで仲良くなりたくてな」
「魔女を見かけたか、聞いてんのよ!」
こちらに掌を向けた少女――その掌から、光の塊が立ち尽くす男たち目掛けて放たれていた。
硬球が肉を打つのに似た音が三つ鳴り、狼男たちが苦鳴を上げて吹っ飛ばされる。
男たちに命中し、俺の傍らに甲高い音を立てて落ちたのは氷の塊だ。拳大の大きさの氷の塊は、その役目を果たした途端に霧状に舞って、彼女の掌から消えた。
「――魔法」
とっさに口からこぼれた。今の氷は少女の掌から生まれて打ち出されていた。
実際には無骨な光の玉が急に生じて、急に消える。恐怖しかない。
「やって……くれやがったな」
そのリアルな一撃を受けた、狼どものダメージは甚大だ。
凍った片方の足を引きずりながら、狼男が二人立ち上がる。ひとりはあたりどころが悪かったのか、顔面が氷ついて固まっているが、残りの二人は流血こそしているが健在。ナイフ男とは別の男も、その手には錆びの浮いた鉈のような獲物を握って臨戦態勢だ。
「こうなりゃ相手が魔法使いだろうがなんだろうが、知ったことかよ。二人で囲んでぶっ殺してやる……二対一で、勝てっと思ってんのか、ああ!」
片手で曲がった鼻を押さえながら、ナイフの男が怒声を張り上げる。
その罵声に対して少女は怯んだ様子もなく、再び、掌を二人に向ける。
「おかげで、わたしの経験値は140レベルくらいは上昇したでしょうね。あなた二人はもう10ポイント。倒すのは楽勝だけど。すぐ決断なさい。魔女はどこ行ったの? さもないと、今度は火の玉で丸焼きになるわ」
「しらねえって、言ってんだろうが」
少女の詰問に口惜しげに舌を打ち、狼たちは、急に俺の襟首をつまみあげると、首根っこにナイフをかざす。
「近づくと、ベビーが死ぬぞ」
「くっ」
少女は、悔しそうに唇をかんで、突き上げた拳をわずかにしたに向ける。
「ふん。覚えてろよ、魔女狩りさんよ」
狼たちはそれまででもっとも顔色を青くして、今度こそ無言で雑踏の方へと逃げていく。
それきり彼らの姿が見えなくなると、この路地に残るのは少女と俺だけになった。
少女は、ケンのもとに駈け寄る。
「動かないで」
体の痛みも忘れて体を起こし、とにかくお礼の言葉をしなきゃな。
そんなことを考えていたケンに対し、少女は情を感じさせない冷たい声で言った。
「いい餌になりそう」
彼女の蒼い瞳には、冷徹さがある。ケンのその存在が、保護する対象であるとは欠片も思っていない、獲物を狙っている、ハンターの目だ。
その態度に焦りを覚えたのか、狼男たちは慌てた素振りで弁明を始める。
「ちょ、ま、待ってくれ! 俺たちはただ、弱そうなベビーを見つけて、つるんでいただけで。遊んで仲良くなりたくてな」
「魔女を見かけたか、聞いてんのよ!」
こちらに掌を向けた少女――その掌から、光の塊が立ち尽くす男たち目掛けて放たれていた。
硬球が肉を打つのに似た音が三つ鳴り、狼男たちが苦鳴を上げて吹っ飛ばされる。
男たちに命中し、俺の傍らに甲高い音を立てて落ちたのは氷の塊だ。拳大の大きさの氷の塊は、その役目を果たした途端に霧状に舞って、彼女の掌から消えた。
「――魔法」
とっさに口からこぼれた。今の氷は少女の掌から生まれて打ち出されていた。
実際には無骨な光の玉が急に生じて、急に消える。恐怖しかない。
「やって……くれやがったな」
そのリアルな一撃を受けた、狼どものダメージは甚大だ。
凍った片方の足を引きずりながら、狼男が二人立ち上がる。ひとりはあたりどころが悪かったのか、顔面が氷ついて固まっているが、残りの二人は流血こそしているが健在。ナイフ男とは別の男も、その手には錆びの浮いた鉈のような獲物を握って臨戦態勢だ。
「こうなりゃ相手が魔法使いだろうがなんだろうが、知ったことかよ。二人で囲んでぶっ殺してやる……二対一で、勝てっと思ってんのか、ああ!」
片手で曲がった鼻を押さえながら、ナイフの男が怒声を張り上げる。
その罵声に対して少女は怯んだ様子もなく、再び、掌を二人に向ける。
「おかげで、わたしの経験値は140レベルくらいは上昇したでしょうね。あなた二人はもう10ポイント。倒すのは楽勝だけど。すぐ決断なさい。魔女はどこ行ったの? さもないと、今度は火の玉で丸焼きになるわ」
「しらねえって、言ってんだろうが」
少女の詰問に口惜しげに舌を打ち、狼たちは、急に俺の襟首をつまみあげると、首根っこにナイフをかざす。
「近づくと、ベビーが死ぬぞ」
「くっ」
少女は、悔しそうに唇をかんで、突き上げた拳をわずかにしたに向ける。
「ふん。覚えてろよ、魔女狩りさんよ」
狼たちはそれまででもっとも顔色を青くして、今度こそ無言で雑踏の方へと逃げていく。
それきり彼らの姿が見えなくなると、この路地に残るのは少女と俺だけになった。
少女は、ケンのもとに駈け寄る。
「動かないで」
体の痛みも忘れて体を起こし、とにかくお礼の言葉をしなきゃな。
そんなことを考えていたケンに対し、少女は情を感じさせない冷たい声で言った。
「いい餌になりそう」
彼女の蒼い瞳には、冷徹さがある。ケンのその存在が、保護する対象であるとは欠片も思っていない、獲物を狙っている、ハンターの目だ。
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