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魔女狩り

16 セラフィーヌ

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 ケンは隊長なる少女を網膜スキャンして、レベル値を測定した。
 やばい。優に軽く10,000を超える。 
 犬一匹も2,000もある。なかなか、侮れなねえ。
 

 イリスは、さらに顔を伏せたままで、
「彼は無関係です。偶然、戦闘に巻き込まれてしまって。彼はわたしの命を助けた恩人です。彼は無一文なので、わたしが彼の世話を」

「ほうほう」
 セラフィーヌ隊長は、何度も頷いている。

「判断は隊長殿がする」
 六人の犬族の部下たちが、傍らに控えて言い放つ。

「隊長は忙しい身なのだ。手間を取らせやがって」
 ドーベルマン顔がダミ声で言う。


 三人が、うろうろ、鼻で匂いをかぎながら、嗅ぎまわり始めた。

「ずいぶん派手にやってくれちゃって。財務省の小役人に、隊長殿がどんな嫌みを言われるか、たまったもんじゃない」
 犬の一人がふうとため息をつく。

「ひとりで勝手にスラム街で暴れて、狼族に負傷させたり、他人の家に不法侵入して壁に風穴開けたり。何やってるんだ」

 何もしないくせに、難癖付けやがって。
 とうとう、腹の虫がおさまらず、ケンが会話に割って入る。

「でも、魔女やっつけたり、武器庫を見つけ出したのは、大手柄じゃないっすか。早く彼女を治癒してやってくれ」

「治療なら、イリスはパリス一族の名門貴族だろ。没落で領地は王家に没収されたとはいえ、貴族出身者は生まれながらに魔力はつよえんだ。自分でもできるぜ。それに肝心の魔女の死体はどこだ?」

「イリスがぶっ飛ばして、跡形もねえよ」

「ふん。そんなことできるわけがない。イリスはまだ、あんな高いレベルの魔女、一人で倒せるわけがねえ」

 周りの犬族風情から四方八方難癖を言われ、踏んだり蹴ったりのイリス。それでも、黙ったまま、唇を結んで、悔しげに目を伏せているだけだ。

「もう行こうぜ、イリス。早く治療しねえと」

「わかってる、自分のことくらい―」

 イリスの掌が淡く光り、青白い輝きが彼女全身を包み込む。それは治療を施すときの光景と同一のもので、修復治癒そのものであったが。――しかし効果が劇的に違う。出血は収まったものの、
「あっ……くううっ」
 青白い光に全身が包まれたかと思いきや、唐突に光は消えてしまった。

「おい! 無理すんな……まだ身体が本調子じゃねえんだ」

 ケンがイリスを抱きかかえ外に連れ出そうとすると、これまで黙って聞いていたセラフィーヌが、

「ちょっと、アンタは残りなさい」

「ええっつ?」

 呼び止められたケンは、立ち止まる。

「この首輪の痣はなに?」

 自分の首筋に鎖みたいな模様の痣があることに、ケンは気づいた。

「それは、その、偶然、か?」

「めずらしい武器は見てきたけど。人間で変形できるなら、かなり貴重だ」

「そんなこと知らねえよ」

「アタイの忠犬たち、あなたと同じ首輪の痣があるの、お分かり?」

「それって…」

「異形に変身できる異形魔だよあんた。変形させる相手にもおんなじ痣ができる。
あんた、無一文なんだろ。アタイたちの隊の一員になれば、平均的な生活は保障してあげるよ。面接しよ?」

「――ちょっと後にしてくれ。そんなどうでもいい話は」

 ケンはイリスの肩を支えながら、階段を降りていった。
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