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魔女狩り

20 儀式

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「うん。イリスと暮らせるんなら、いいっすけどね」

「なら、入隊するからには、儀式があるが――」

「儀式?」と、振りかえったケンの腕に、セラフィーヌの膝ですやすやしてたチワワみたいな小型獣が、いきなりガブリとみついた。

「痛ってええ! いきなり、何すんだよ」

 腕に小さな血の赤い紋章が浮き出て、入れ墨みたいに黒くなった。

「うちの隊に入るってことは、アタイの管理下に入るってこと。お忘れなく!」

「管理だと?」

「アタイたちの隊員は、基本、個人行動だし、給料も待遇も違うから。組織ではなく、それぞれに指令が下り、バラバラに動いてる。そのためには、隊員全体の行動は頭の中で把握しないといけない。それが管理者の仕事」

 のんきなケンもさすがに、少し真面目に両膝をそろえて座り直し、

「んなら、さっき来たのも偶然じゃなくて、俺たちの戦いの場所を特定したってことか? GPSみたいにか」

「GPSってなんだ? ふん、まあ、居場所なら、だいたいわかるよ。きみの才能、期待してる」

 竜馬車は王都の城壁内の、一際大きな王宮にあるヘリポートみたいな広場に着陸する。そこから、国王直属の衛生兵に連れられて、白亜の巨大な城内に足を踏み入れる。
入城監査そのものは、呆気ないほど簡単に終わるものだった。

 簡単に目を通し、さらさらと自分の名前を記して監査官の許可が出れば、それだけでさっと王宮の正門をくぐっての王の居室入りが許される。

「なんだこれ。すげえよ」

 三メートルはありそうな高すぎる天井にはシャンデリアと、小洒落た中庭。赤絨毯の通路ですれ違うのは、国王庁舎につとめる上質な上着の紳士淑女ばかり。

 貴族趣味がふんだんに発揮された屋敷にあっては、使用人の個室すらも装飾過多の領域にある。それが客人をもてなす客間ともなれば、館の主の権威とその他もろもろを示す意味でも、過剰な意匠にならざるを得ないのが実情だ。
 2階の王の執務室に通されると、髭を蓄えた軍服姿の国王が、卓上から顔を上げた。

「セリフィーヌ嬢、よく来てくれたな」
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