6 / 95
屋上で出会った青年
6
しおりを挟む
「どうかしら。よく覚えていないし」
「覚えてないってどういう意味だよ?」
「小学5年生の頃だし。覚えていないことが、そんなに不思議なことなの?」
「源治おじさんって、亡くなる2年くらい前に、スキーで大けがをしたことを覚えているだろう?
それからは会社経営を親父にまかせっきりだったらしいじゃないか。あの別荘に閉じこもって、酒浸りだったって聞いたぜ。
それさえ、覚えてないのかよ?」
光子は、彼の詰問にたじろいだ。
話題をそらそうと、わざと表情を変えずに、横をすり抜けようとした給仕係のお盆から、光子はグラスのさくらんぼをひと房摘んで口に放った。
「わあ、とても冷たくて甘い。一男さんも一緒にどう?」
彼はあきれたように、苦笑いを浮かべた。
「ふん。おめでたいこったな」
一男は首を横に振ると、右手の赤ワインのグラスを一口含んで言った。
「サクランボなんて、いらないよ。20才になったらチェリー酒が飲めるようになるだろう?」
「お酒なんか、興味ないんで」
「でも、金には? 大金はどうだ?」
「どういうこと?」
光子はキョトンとした瞳で聞き返す。
急に彼はヒソヒソ声になった。興奮した息使いが、光子の鼻先まで感じられる。
「知ってるだろ? 源治おじさんの会社と資産は、うちの親父が管理してる。それはみっちゃんが、まだ子どもだったからさ。
でも、20才になったらどうだ。成人だろ。会社の資産の全てを引き継ぐことになる。恐らく、誕生日に弁護士がやって来て、詳しいことは説明してくれる。
みっちゃんがいっぱしの社会人だって認められれば、難なく貰えるはずさ。世界の半分が手に入る大金なんだぜ」
誕生日は9月1日だ。
「あっそう。ふうん」
光子は他人事のように種を器用にグラスに吐き出した。
「あー。おいしかった」
一男は、光子を半ば呆れたように見ていた。
「恐れいったぜ。やっぱり、セレブさまは違うな」
そう言い捨てると、一男はまた群衆に紛れて消えた。
「覚えてないってどういう意味だよ?」
「小学5年生の頃だし。覚えていないことが、そんなに不思議なことなの?」
「源治おじさんって、亡くなる2年くらい前に、スキーで大けがをしたことを覚えているだろう?
それからは会社経営を親父にまかせっきりだったらしいじゃないか。あの別荘に閉じこもって、酒浸りだったって聞いたぜ。
それさえ、覚えてないのかよ?」
光子は、彼の詰問にたじろいだ。
話題をそらそうと、わざと表情を変えずに、横をすり抜けようとした給仕係のお盆から、光子はグラスのさくらんぼをひと房摘んで口に放った。
「わあ、とても冷たくて甘い。一男さんも一緒にどう?」
彼はあきれたように、苦笑いを浮かべた。
「ふん。おめでたいこったな」
一男は首を横に振ると、右手の赤ワインのグラスを一口含んで言った。
「サクランボなんて、いらないよ。20才になったらチェリー酒が飲めるようになるだろう?」
「お酒なんか、興味ないんで」
「でも、金には? 大金はどうだ?」
「どういうこと?」
光子はキョトンとした瞳で聞き返す。
急に彼はヒソヒソ声になった。興奮した息使いが、光子の鼻先まで感じられる。
「知ってるだろ? 源治おじさんの会社と資産は、うちの親父が管理してる。それはみっちゃんが、まだ子どもだったからさ。
でも、20才になったらどうだ。成人だろ。会社の資産の全てを引き継ぐことになる。恐らく、誕生日に弁護士がやって来て、詳しいことは説明してくれる。
みっちゃんがいっぱしの社会人だって認められれば、難なく貰えるはずさ。世界の半分が手に入る大金なんだぜ」
誕生日は9月1日だ。
「あっそう。ふうん」
光子は他人事のように種を器用にグラスに吐き出した。
「あー。おいしかった」
一男は、光子を半ば呆れたように見ていた。
「恐れいったぜ。やっぱり、セレブさまは違うな」
そう言い捨てると、一男はまた群衆に紛れて消えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる