[完結]仮面の令嬢は、赤い思い出を抱いて眠る

朝日みらい

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刻まれた記憶

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 病院の駐車場に、見慣れた黒いバイクが停まっていた。

 郡山という患者に、違いない。

 小柄でいつも無口な青年だ。

 いつもつば付きの野球帽を被り、右唇に小さなホクロがある。

 1階で受付を済ませ、2階の診療室に向かうと、廊下の長椅子に彼がいた。

 椅子の端っこで肩をすぼめ、下を向いている。

 他に患者はいない。

 光子が会釈して隣の端に座ると、気がついたのか、わずかに首を上げた。

「こんにちは」

と光子は声を掛けた。

 半袖にスラックスをはいた青年は、軽く頷いただけだ。

「毎週木曜日なんですね。私もです」

 微笑んで覗いてみたが、やはり無表情のままだ。

 まるで他の世界に入り込んでしまったかのように。

 マイクで、彼の名前が呼ばれた。

 出て来ると、今度は光子が入れ違いに呼ばれた。

 すれ違ったが、彼は無反応だった。

 担当医の園田先生は、おっくうそうに、その巨体を光子の方向に向けて、ごく親し気に微笑した。

 脂肪で膨れあがった腹のせいで、椅子は見えないらしい。

「実は加藤社長に、今年度、研究費を半分に減らされましてね。

 わたしは三度の飯より研究が好きな男なものですから、全くもって困っているところです。すいません、余分なことを言いました。

 それで、体調はどうかね。例の仮面の女性は出てきましたかね?」

 大きな顔に似合わない、つぶらな瞳で、患者の顔をじっと見ている。
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