[完結]仮面の令嬢は、赤い思い出を抱いて眠る

朝日みらい

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刻まれた記憶

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 恋人同士は、自分たちの愛し合っていることを他人に見せびらかして楽しむ。

 麗子は明らかにそうやって周りを刺激して、相手の心をもて遊ぼうとしている。
 それは一男の、自分の賢さを自慢することしか能のない行為と、さほど変わらなく思える。

「あら、今日も早いのね。仕込み御苦労様」

 麗子が、さもおかしそうに光子の曇った顔をのぞき込む。
 ねちねちとした腕が、まだ腰に絡みついたままだ。

 光子は思わず視線を逸らした。
「まだ新米ですから…」

 視線を下に向けたままである。

 それを面白そうに、麗子は冷ややかに言った。
「そう。それは賢明なこと。ところであなたは大門のご令嬢でしょう。なのに何でいつもそんなおばさんくさい格好なの」

 光子は改めて自分の服を見た。
 白いブラウスに紺の長いスカート。
 近所の洋服店で格安で買ったものである。

 光子は服に無頓着といって良かった。
 以前、会社の役員の娘たちと高級ブティックや百貨店に連れ出されたことがあった。

 目の前で夢中になって衣類を買いあさるのを、彼女はただ呆然と眺めた。

 宝石やネックレスにも関心がなかった。
 娘たちは、そんな光子をどこかの星の宇宙人だと思ったらしい。
 あまりに金持ちだと、金銭感覚が麻痺するのだと。

「もう、よそう」
 登は、妹の巻ついた腕をそっと外した。

「ふん。まあ、いいわ。それぞれ個性があるんですもの」
 そう麗子は捨てセリフを吐いて離れた。

「では、それぞれ夕方まで営業活動に専念しましょう」

 一同が食事を終えるのを待ってから、登は言った。
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