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怪物の正体

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 稽古場に戻ると、部屋の隅に座り込んでいるサチを見かけた。

 彼女はぶ厚いバインダーを開いて、じっくり書類に目を通している。
 ちょっと顔を上げて、光子に気が付くと軽く手招きした。

 そして、稽古場の奥にある倉庫に連れ込んだ。
そこには舞台衣装や作り物の剣やナイフ、ビニールに入った赤い液体、テーブルや食器棚などが所狭しと置かれている。例の白い仮面も部屋の隅に置かれている。

 誰もいないことを用心深く確認してから、サチは耳元でささやいた。
「ねーえ。疑問に思ったことがないですかー。お金はどこから入ってくるかということー」

「それは…きっと寄付を頂いているから?」

「寄付をバイクで取りに行くのですかー?」

「バイク?でもバイクなんてここにはないわ」

 サチの眼鏡がきらりと光った。
「ありますともー。各寮のガレージにたんまーり」

「えっ」
 不安げな光子をしり目に、サチは続ける。

「あなたたちが『営業活動』に行った後、『実戦グループ』のメンバーが出かけて行って札束を持ってくるのを何度も目撃しているんだー。あなたは登さんから聞いているのー。『トレーニング室』で何をしているのかをー?」

 光子は、天国の電話の話をした。そして家族の声で孤独な高齢者を励ましていることも。

 黙って、サチは聞いていた。
「それは事実だと思いますよー」

 サチは頷いてから言った。
「でも、いろいろな声で人を騙しているのも真実だよー」

「いいえ。悪いことなんてしてないわよ」
 光子は認めまいと必死だった。

 否定しないと、信じていた全てが崩れてしまいそうだった。
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