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怪物の正体

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出て行ってしばらくしてから、登から電話が来た。
「すいません。妹が迷惑をかけてしまって…」
非常階段の扉を光子が開けると、登はすまなそうに肩をすくめて入ってきた。
2人はリビングでオレンジジュースにソーダを割って飲んだ。
「麗子がマンションの入り口に陣取っていたから、近づくともできなかった。まさか、ここに来るなんて」
「当分会うのはやめた方がいいわ…」
沈んだ声で光子はため息をついた。
登は、彼女の腕を掴んだ。
「僕は我慢できないよ。あんな子のために振り回されるなんてごめんだ」
「わたしもよ」
と、登の腕に手を添える。
それから、重い口を開いた。
「実はずっと疑問に思っていることがあるの」
「何だろう?」
「登が作った台本だけど、それはあまりにも私の過去に似ているの。まるで私の近くにいたみたいに。一体どういうことなの?」
「それは…」
彼はちょっと天を仰いだ。
「すべて塩崎守くんの物語なんだ。それを僕が聞いて作っただけだ。若干のアレンジを加えてあるけれどね」
光子は納得して頷いた。
「それで、守さんは占いのお店に通っていたわけだけれど。それはどんな占い師だったの?」
「詳しく知らないけれどね」
と登は前置きしてから言った。
「どうもルイっていう女の子だったようだ。彼女は額を合わせただけで、依頼人の過去を蘇らせてくれたらしい。おそらく守は、自分の過去を詳細に思い出したかったのだろう。楽しかった君との思い出をずっとね」
先生と登の話が一致した。
彼女の力で、塩崎守は子供のころの私を思い出していたのである。
そう思い至ると、何だか歯がゆい気持ちになる。
「皮肉ね…。私はその思い出がないの。治療で真っ白にされてしまったからよ」
そう言って、彼の肩に首をあずけた。
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