[完結]仮面の令嬢は、赤い思い出を抱いて眠る

朝日みらい

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怪物の正体

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「昨日、洗ってもらったから。業者に頼むとやってくれるのよ」
性行為の後は、欠かさず依頼しているのである。
「ふうん」
麗子は悔しそうに短い髪を掻いた。
光子はそっとベッドの端に腰掛けた。
「あのね、麗子さん」とやさしく語りかける。
「あなたが、私のことが嫌いなのは知っているの。私の父が、あなたのお父さまを殺したから…」
「別に…」麗子は目を逸らす。
「私は嫌いじゃないわよ。あなたは悪くないんだもん」
と、とぼけた声を出す。
光子は、少女の横顔を見た。
膝においた手が震えている。
光子は、あえてはっきりとした口調で言った。
「でも、違っていたのよ。父ではなく、叔父の加藤健二だったの」
「加藤って。ということは、一男さんは、もしかして…」
「一男さんの父親なの。今は社長よ」
「そうなんだ…」
麗子はしばらく黙ったまま下を向いた。
それからぽつりと言った。
「あなた、以前だけど『ブランコの少女』を観ていたわね。連れと最前列で」
「ええ…」
光子は、内心驚いていた。
類子といっしょに観た映画館に、麗子もいたのだ…。
「最後、シュザンはどうなったと思う?」
「それは…」
光子は思わず言葉に詰まった。
麗子は、顔を上げて、真正面に見つめる。
瞬きもせず。
「シュザンは転落して死んだの。愛する人の心に生き続けるためにね。社会の不幸な人からは、周囲はどんどん離れていくものでしょ…。可哀そうだとか憐みは言ってくれるけど、心の中ではああはなりたくないと思っているわけ。そして近づくと面倒くさい、大変だと思う」
「私はそう思わないけれど…」
「黙って聞いていてよ。でも、シュザンは逃げなかった。命を懸けてそれに立ち向かったの。そして勝利した。私も負けたりなんか」
麗子は顔を逸らして、窓ガラスを睨みつけた。
あの花を手向けていた眼差しだった。
「もう帰る。今度、読み合わせでもしようよ」
麗子はうっすらと笑みを向けて言った。
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